脅威の侵略者編
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基山Side
エイリア石を使った父さんの計画も最終フェーズに入ろうとしている。政府や報道陣に
大々的にハイソルジャーの宣伝をするために雷門の対戦相手には最強のチームで挑む、以前
からそう言っていたのが、この前、俺の率いるチームを正式に指名した。父さんの期待に
応えられたと嬉しい面もありながら、これでいいのかと迷っている自分もいる。ガゼルと
バーンは積極的みたいだけど。2人してコソコソと話し合った末に星の使徒研究所を飛び
出していったけど、負けず嫌いな2人のことだ、なんとなくやることは予想がつく。ただ、
おしゃべりなバーンが余計な事を話さないか心配で俺も2人のあとを追った。
試合をしばらく見ていたけれど、”カオス”のメンバーたちはキャプテン格2人の影響をう
けているのか感情的で当たりが強すぎる。次々と負傷していく雷門を前に試合を中断せざ
るを得ないと判断した。
バーン「おい!なんで試合を止めた?!」
ガゼル「俺たちはまだ負けてない。」
バーン「あぁ。俺は認めない、お前がお父様に選ばれたことを!」
基山「・・・往生際が悪いぞ。お父様のことを思うなら今雷門を潰すのはそれこそ得策じゃ
ない。一時の感情でお父様の計画を台無しにするつもりか。」
ガゼル「っ!」
ようやく冷静になったのか2人は少し思案すると、バツが悪そうに目をそらして帰って
行った。俺も帰ろうかと思ったけど、今帰ってあの2人と鉢合わせても気まずいので少し
時間をおいて帰ることにした。ああは言ったけど、雷門と試合をする中で「勝ちたい」と
いう思いが強くなり、純粋なサッカーを楽しむことができていたガゼルとバーンが少しう
らやましい。俺はいろいろ考え込んでしまって、行動に移すことに足踏みしてしまうから。
昔のように自由にこの大地を踏みしめ、風を感じて走りたい。もう子どもじゃないから、
そんなことできないしワガママなことも言えないけど。
無意識にため息をついていたことをすぐに後悔する。父さんが俺を求めてくれている、
グランを必要としてくれている。この幸せを逃してはいけない。でも、最近の父さんはお
かしい気がする。エイリア石の研究が進むにつれて、父さんは悪いモノに取憑かれたみた
いに変わってしまった。前は優しい父さんだったのに。
「父さん」なんて呼んでいるけれど俺と父さんに血のつながりはない。父さんは身寄り
のない子どもたちのための施設、お日さま園の責任者だった。俺は物心ついたときにはお
日さま園での生活に馴染んでいた。なので記憶にない両親の事を考えてもいまいちピンと
は来なくて、特に寂しさを感じたことはない。そのかわりにたくさんの家族に恵まれた。
毎日家の中は騒がしくて、夕食が鍋だった日にはサバイバル状態だ。その様子を、いつも
お茶を飲みながら父さんは微笑ましそうに見ていた。父さんは、血の繋がっていない俺に、
お日さま園の子どもたちにたくさんのものをくれた。温かい家、家族、愛情。泣き虫なハ
ウザーの背中をそっとなでてくれたのも、ケンカする晴也と風介の話をきちんと聞いてた
しなめてくれたのも、みんなの成長を見守ってくれたのも、大好きな父さんだった。否定さ
れたらどうしようと思いながら、勇気を出して「父さん」と呼ぶと当たり前のように微笑
んで返事してくれた父さん。父さんに「ヒロト」と呼ばれるのが大好きだった。
父さんに恩返しがしたい、父さんの助けになりたい、そう思っていた俺は勉強もがんば
ったし、「吉良財閥」のことについて記述のある雑誌や新聞記事にできるだけ目を通すよ
うにした。そこで知ってしまったお日さま園設立の由縁。父さんには瞳子姉さんの上に1
人、「宙人」という名前の息子がいたそうだ。サッカー留学中に外国で不運な事故に遭遇
したらしい。父さんの心にポッカリと空いた穴を埋めるために、瞳子姉さんがお日さま園
の設置を勧めたー、図書館で読んだ数年前のインタビュー記事にはざっくりとそのように
書かれていた。
・・・俺と同じ名前。サッカーが好きで、赤い髪で「ヒロト」。・・・俺の存在が父さんを
苦しませているのではないか?
父サンガ俺ヲ愛シテクレタノハ俺ガ「ヒロト」ダカラ?
父さんが望むいい子でいなくちゃ。父さんに喜んでほしい。父さんを悲しませたくない。
・・・だったら、俺が「宙人」を演じればいい。
・・・俺が「宙ト」にならなきゃ。
・・・俺が「ヒろト」を名乗っていいの?父さんの思い出に土足で踏み込むようなことして
いいの?でも、俺だって「ひろト」だ。・・・「ヒロト」ってどの「ひろと」?
頭が割れるように痛い。こんな天気のせいだろうか。考え事をするには向いていない。
けれど、俺の頭の中でずっとぐるぐると嫌な思考が止まってくれない。
・・・何を今更。もうここまで来てしまった。多くの人を傷つけたあとだ。迷ったとこ
ろで俺の、俺たちのやってきたことは変わらない。父さんの手助けができるなら、それで
いいじゃないか。全てを洗い流す恵みの村雨よ、どうかその恵みを俺にも。俺の余計な
思考さえもそのままを洗い流すレクイエムの雨となってくれないだろうか。
「あれ?・・・やっぱり!ヒロトくんだ!どうしたの?ずぶ濡れだよ!」
高い声が脳に響き、肩を揺らされる。俺のジャマをしないでほしい。それにしても。こ
んなに距離が近づくまで人の気配に全く気づかないなんて。やっぱり今日は調子が悪い。
とにかく早く引き上げよう、そう思い顔をあげると、積乱雲の沈鬱な鉛色の中に澄んだ高
空の色をした髪が翻った。
基山「アンリちゃん、」
湊川「わっ!身体冷え切ってるじゃん!とりあえず屋根のあるとこ、行こう?・・・これ、
使って。濡れたままだと風邪ひいちゃう。」
俺がもたついていたからか、アンリちゃんは問答無用で俺の頭にタオルをあてる。
ふわふわのタオルはかすかにお日さまの香りがして、髪についたしずくを引き取っていった。
基山「アンリちゃん、今日は一人なの・・・?」
湊川「買いだしだよ。お菓子警察に見つかったら没収されちゃうからこっそり買いに来た
の!」
基山「そう・・・。」
湊川「ここの髪、ちょっとハネてる。ふふ、いつもサラサラの髪なのに。」
基山「あ・・・。いつもはちゃんと押さえつけてるけど、今日は湿気高いから・・・」
湊川「髪がぴょこってなってるのもヒロトくん!って感じでかわいいね。」
基山「え・・・。」
湊川「いつものヒロトくんもかっこいいけど、こっちのヒロトくんも似合うね!」
昔の、本物のヒロトの写真を見た。子どものころの俺とそっくりだと思った。でも、俺が
成長するにつれて、少しずつ写真に写るヒロトと俺は別人になっていった。ヒロトの髪は
こんなにハネてない。朝は誰よりも早く起きて、瞳子姉さんのヘアアイロンをこっそり拝
借して髪を押さえつけるのが日課になった。ヒロトにならなくちゃ、そう思っていた。無
邪気な君のひと言が簡単に俺を壊していく。
基山「完璧な『ヒロト』じゃないのに、ヒロトらしい?」
湊川「何か難しいこと言ってる?」
基山「俺らしいって一体・・・」
湊川「完璧じゃなかったとしても、ヒロトくんはヒロトくんだよ。私の話を飽きずに最後
までちゃんと聞いてくれる、優しいヒロトくん。」
悪意のない、きれいで残酷な笑顔。星をとじこめたキラキラの君の瞳に俺を映さないで
くれ。俺はそんな人間じゃない。話を最後まで聞いてくれたっていうのも、父さんがそ
うしてくれたから俺も同じようにしただけだ。俺の生来の人徳じゃない。
基山「・・・ごめん、今日は帰るよ。」
湊川「あ、そっか!黒いサッカーボール使えばすぐなんだ!早く帰ってあったかいお風呂
に入ってゆっくり休んでね。」
基山「・・・。」
富士山のふもとの星の使徒研究所の自分の部屋に戻る。疲れたので少し休もうと座った
つもりが勢い余ってそのまま天井を見上げることになってしまった。このままでももう
いいや。
・・・昨日の”カオス”の試合。雷門がもうすぐ父さんのところに来る・・・。
アンリちゃん・・・。
父さんの中のヒロトみたいにいい子でいなくっちゃ。
アンリちゃんと食べたティラミス、おいしかったな。
・・・俺のやってることって、本当にいい子のやること?
思考がまとまらない。考えても、分からない。分からないなら、考えなくてもいい。
幸い俺たちは宇宙からの侵略者ということになっている。俺は、エイリア学園マスター
ランクチーム”ザ・ジェネシス”のグラン・・・。グランだ。暗い部屋で1人。俺の声はひど
く不気味に反響した。まるで悪役みたいだ。自嘲気味な乾いた笑みがこぼれた。
早朝の静かな雷門中で円堂くんが来るのを待つ。昨日俺が瞳子姉さんのことを、わざと
人目のある場所で「姉さん」と呼んだので今頃面白いことになっているはずだ。ラスボス
と対峙するには戦う動機が必要だ。本気で勝負しに来てくれないと俺が、お父様が困る。
円堂「お前、本当は何なんだよ。瞳子監督とどんな関係があるんだ。」
グラン「何でもないさ。君には関係ない。」
円堂「それじゃ答えになってない。」
グラン「そうかな。気になるなら雷門のみんなで来るといい。エイリア学園へ。」
円堂「ちゃんと話せよ。ヒロト。」
グラン「・・・俺はジェネシスのグラン。基山ヒロトじゃない。」
円堂「何を言って・・・?」
グラン「これから世界中が変わる。すごいことが起きる。人間が変わるのさ、人間の歴史
がね。」
円堂「お前が何を言ってるか、俺にはぜんぜん分からない。」
グラン「俺たちはマスターランクチーム”ザ・ジェネシス”。雷門の最後の対戦相手だ。
待っているよ。」
円堂「待てよ!ヒロト!!」
グラン「・・・基山ヒロトの名前でサッカーはしない。次は、本当の”ザ・ジェネシス”を見
せる。」
ウルビダ「やつらは来るのか。」
グラン「・・・もうゲームは始まっている。相手を揺さぶるのも一つの作戦さ。」
ウルビダ「お前にとって湊川アンリとはなんだ。」
グラン「・・・・・・さぁね。俺にも分からない。」
ウルビダ「・・・・・・。」