脅威の侵略者編
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その日の夜も私は日課の自主練を行っていた。昼間は暑かったけれど夜はひんや
りして時折吹く風が気持ちいい。最近はサッカーが楽しくて昼の練習も前よりかは
真面目に参加している。今日は木暮くんにボール取られちゃったな。ドリブルを
鍛えるべき?新たな必殺技を考えた方がいいのかな?考え事をしながらボールを蹴
っていると後ろから声をかけられる。驚きながら振り向くと”なにわらんど”で出
会った赤髪の少年がいた。
基山「あれ、アンリちゃん?」
湊川「え、ヒロトくん?」
基山「覚えててくれたんだ!また会えてうれしいよ。」
湊川「私もー!前は急にどこか行っちゃうんだもん。話の途中だったのに。」
基山「ごめんね。次の予定の時間があって…声かけたつもりだったんだけど聞こえ
てなかったのかもね。」
湊川「そうだったんだ。…そういえば、前会ったときはわざわざケーキのために大
阪に来たって言ってたけど、この辺に住んでるの?」
基山「…うん、そんなところ。たまたま散歩してたらアンリちゃんがいるんだ
もん。びっくりしちゃった。」
湊川「すっごい偶然だね!」
基山「・・・サッカーの練習してたの?一人で?」
湊川「うん、納得いくまで練習したくて。」
ヒロト「でもこんな夜中に女の子一人で危ないよ。昼間に練習したら?」
湊川「うーん…でもみんなに迷惑かけるワケにはいかないし。それに自分でできな
いのが許せなくてやってるだけで自己満足みたいなものだから、みんなを巻
き込むわけにはいかないよ。」
基山「君が努力していること、みんなは知らないの?」
湊川「努力っていうか自主練をやったところで『これだけがんばったからもういい
や』って自分を納得させることしかできないから。結局自分のためなんだよ。
だからわざわざ人に言うものじゃないかなって。…それにどれだけ頑張って
もどうしようもないことだってあるし。」
愛媛でのpenguinボーイこと佐久間くんのセリフを思い出す。
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佐久間「分からないだろうな、鬼道。俺はずっとうらやましかった。チカラを持
ってるお前は先に進んでいく。俺はどんなに努力しても追いつけない。同
じフィールドを走っているのに、俺にはお前の世界は見えないんだ。」
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どれだけ私が頑張ったところで世の中にわりとゴロゴロいる天才たちはカンタン
に私のことを置いてけぼりにするのだろう。だから、夜にやってる自主練はただの
気休めにしかならない。昼間のGK組を見て改めて思った。天性のセンスを持って
いる相手には敵わない。小さい頃から優秀だった夏未ちゃんや有人くんを見てきた
私が知った世の中の条理。
湊川「…あーあ!秘密特訓だったのに、バレちゃったな。今日はやめよう!」
努めて明るい声で言った。
湊川「ねぇ。またケーキ、食べに行こうよ。この前のお礼もしたいし。」
ケータイにつけたミニチュアのメリーゴーランドを揺らしながらヒロトくんに笑いかける。
基山「…」
湊川「ヒロトくん?」
基山「なんでもないよ。ごめん、俺、番号もメールアドレスも覚えてなくて。また近々会
いに来るから、そのときでもまだ…俺とケーキを食べたいって思ってくれたならも
う一度誘ってもらえると嬉しいな。」
湊川「もちろん!待ってるね!」
散歩に来ただけだからそろそろ帰るよと言ったヒロトくんをせめて校門までと見送った。
風が吹いたせいで砂が舞い上がり、思わず目を閉じた一瞬の間にヒロトくんの姿は見えな
くなっていた。
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アンリちゃんをエイリア学園に勧誘しろと言う父さんの指示に気持ちが重く沈むの
を感じながら外にでた。アンリちゃんがいつも夜に1人で練習しているのはこれまでの
調査で分かっているのでそのタイミングを狙えば他のサッカー部の目につくことなく話を
することができるだろう。今雷門イレブンは福岡にいるらしい。目的地を設定して黒いサ
ッカーボールを使って転移すると予想通り1人で裏門に面するグラウンドにいるアンリ
ちゃんの姿を確認できた。
せっかくいいタイミングで接触できたので前々から気になっていた、夜に一人で練習を
する理由を尋ねてみた。俺が雷門の様子を伺う日は不定期にも関わらず、必ず一人で練習
している姿を見るのでおそらく毎日欠かさず行っているのだろう。
アンリちゃんがその理由を語るときの顔は一人ぼっちになるのを嫌がる小さな子ど
ものようだった。周りの優秀な人間に追いつくために、目指すべき背中を見失わないよう
に毎日練習をがんばっているらしい。諦めることだってできるのに、むしろ諦めることの
方がカンタンなのに、継続して努力できるアンリちゃんは立派だと思う。実際に治兄
さんからもシュートを奪ったことは十分に評価されるべき能力だ。
こんなに純粋に、一生懸命にがんばっている人に、エイリア石を使って特別なパワーを
手に入れませんか、なんて誘えるワケがない、誘っちゃいけない。
「やっぱり俺にアンリちゃんを連れてこいだなんてムリだよ…。」
俺だけが知ってるアンリちゃんの弱さ。せめて俺の手が届く範囲でアンリちゃん
を守らないと。
基山「アンリちゃん…。」