脅威の侵略者編
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次の日の昼近く、目的地の陽花戸中に到着した。陽花戸中の理事長から円堂くん
お祖父様の秘伝ノートを受け取ったが、書かれた内容が抽象的すぎてイマイチぴん
と来ないそうだ。まぁ秘伝だから目を通してすぐ技が使えるようになる、なんてこ
とはないんだろうけど。天才肌の円堂くんなら心配せずとも必ず自分のモノにする
だろう。その後は理事長の紹介で陽花戸中サッカー部と顔を合わせることになった。
キャプテンの戸田くんが丁寧に挨拶をしてくれる。雷門イレブンのファンだと言わ
れて円堂くんは照れながらお礼をのべた。
戸田「おい、立向居、何してんだ?円堂くんだぞ!どうしたんだ、『円堂さんに会え
たら俺、感激です』とか言ってただろ?」
陽花戸中サッカー部の後列の方に隠れるように立っていた明るい茶髪の少年が戸
田くんに呼ばれて前に出る。
壁山「手と足が一緒に出てるっす・・・。」
立向居「え、円堂さん!お、俺、陽花戸中1年立向居勇気です!」
円堂「おう、よろしくな。」
緊張しているようで動きはギクシャクとしている。しかし、目だけは無機質なロ
ボットとは異なりキラキラと輝いているのが分かった。立向居と名乗った少年は照
れながらも目の前にいる憧れの円堂くんを焼き付けようとがんばって顔を上げてい
るのがかわいらしかった。
立向居くんの自己紹介に円堂くんはにこやかに応じ、握手を求めると立向居くんは
恐縮しながらもとても嬉しそうに両手で円堂くんの手を包み、握手の感触を確かめて
いた。
立向居「つ!!感激ですっ!!俺もうこの手、一生洗いません!」
戸田くんの説明によると、立向居くんはもともとMFだったらしいが、円堂くん
に憧れてGKに転向したそうだ。心に乙女を飼っているといわれても信じられそう
なほどモジモジした立向居くんは戸田くんにフォローしてもらいながらなんとか円
堂くんと会話していた。円堂くん推しな立向居くんとかわいい後輩立向居くんをプ
ッシュしたい戸田くんの図ができあがる。戸田くんの面倒見良~!キャプテンの必
須条件に「世話焼き」という項目でもあるのかな。ふとホームメイドのシンプルな
クッキーが恋しくなった。話は戻るけれど、立向居くんは憧れの円堂くんに見てほ
しい技があるようだ。
壁山「どんな技っすかね・・・」
土門「全国レベルに通じるか、見てもらいたいんじゃないか?」
一ノ瀬「それじゃ、蹴るよ!」
深呼吸をした立向居くんから、先ほどまでのかわいらしい雰囲気は失われ、代わ
りに彼の面に浮かぶ真剣な眼差しに見学している私たちまでもが息をのむ。立向居
くんから技が放たれる際に、時が止まったようにあたりの音が消える。が、それも
一瞬で、すぐに止まった時間を取り戻すかのように空気が今このときの世界の中心
である立向居くんの元へ集束していく。使い手の影響か色は異なるが、何度も私た
ちのゴールを守ってくれた神の左手を前に鳥肌がたつのを感じた。
円堂「っ!!!ゴッドハンドだ!!すごいよ!立向居!!お前やるじゃないか!」
先ほどとは立場が逆転し、今度は円堂くんが立向居くんの両手を包みブンブンと
振り回す。
風丸「ゴットハンドを?どうやって・・・?」
戸田「アイツはゴットハンドの映像を何度も何度も見て、死ぬほど特訓したんだ。」
塔子「見ただけで身につけたって・・・。」
鬼道「すごい才能だな・・・。」
壁山「ゆ、夢っすよね、キャプテン以外の人がゴットハンドを使うなんて。」
木暮「でも、そんなにすごいことなの?」
リカ「そうやん。あんなん手をビャーッて前に出して、ギャーッとやったら出せる
んちゃうん?」
風丸「ゴットハンドは円堂にとって初めての必殺技で、お手本も、満足な練習相手
もいないなか、試合の土壇場で完成させたんだ。廃部の危機だった雷門中な
んて、フットボールフロンティアに出て注目されるようになったのは最近の
ことなのに。この短期間で?」
風丸くんが信じられないといった様子で立向居くんのことを見ている。円堂くん
のエピソードについては以前に夏未ちゃんから聞いていた。様々な困難にも負けず
に持ち前のセンスで勝ち上がっていく姿はさながらどこかのコミックの主人公だ。
その配役にふさわしい、裏表がなく、いつでも明るく元気を与えてくれる太陽のよ
うな円堂くんのそばはとても居心地がいいが、近づきすぎるとその熱にとかされてし
まいそうになる。太陽の光を受けて輝くことはできるかもしれないが、その真横に
並び立つことのできる人間は数少ない。今日出会った立向居勇気という少年は円堂
くんに匹敵する主人公格の持ち主なのだろう。有人くんも認めているとおり、いく
ら試合の映像を見たとはいえ、直接目にしたわけでも、ハウツーを知っていたわけ
でもないのに、実演するなんて、普通の人にはできない。
円堂「立向居、手を見せてくれないか?・・・やっぱりな。相当特訓をしたんだな。
・・・いくぞ!」
円堂くんの言葉には目的語がなくて、端から見ている私たちには何を話している
かはイマイチ分からないが、GKの2人は通じ合っているらしい。円堂くんと立向居
くんは背中合わせになり、合図もなしに同じタイミングでゴットハンドを繰り出し
た。再び顕現した神の手はお互いに共鳴しあい、強い衝撃波を発生させる。
円堂「すごいよ、立向居。お前のゴットハンドは本物だ。」
立向居「あ、ありがとうございます・・・!俺、もっともっと強くなります!」
円堂くんと立向居くんが意気投合すると、戸田くんの提案で雷門イレブンと陽花
戸イレブンで合同練習をすることになった。練習の間ずっと陽花戸中の理事長が穏
やかに微笑みながら練習を見守っているのが見えた。理事長も昔は円堂くんのお祖
父様と競いあうサッカー部員だったらしく、たまに声かけもしてくれる姿からは本
当にサッカーが好きなんだということが伝わった。
夕方の練習を終えたらみんな大好きおやつタイム。鼻歌を歌いながらチョコレー
ト缶を取り出す。楽しみすぎて、勢いをつけて開けた結果チョコレートが飛び出し
てしまった。個包装でよかった~!金色や銀色の包みのチョコレートを素早く拾っ
ていき、宝箱を埋めていく。あと1個どこに転がったんだろう、と思いキョロキョ
ロしていると誰かの足元にチョコレートが落ちているのが見えた。
湊川「待って、動かないで!踏まないで!チョコを失うくらいなら私もタヒぬ!」
?「ええっ?!」
足早に近づきチョコレートを死守する。踏まれる前でよかったね。今度からお
菓子を開けるときは特に細心の注意を払おうと決めて、目の前の人物に制止をかけ
たお詫びと言い訳をするべく視線を上に向けると、陽花戸中の主人公、立向居くん
がいた。見上げた私と目があった立向居くんはしばらく固まった後逃げるようにど
こかへ行ってしまった。えぇ…。対人関係は第一印象が大事と聞いたことがあるけ
ど、最悪のスタート切っちゃったじゃん。会話してないからノーカンにならない?
まぁ、チョコレートを守れたので良しとしよう。その後、ご飯の準備中や食事の最
中、立向居くんがチラチラとこちらの様子を伺っているのが見えた。バレバレで
すわよ?やっぱりヤバイやつ認定されちゃった?食後に夏未ちゃんに淹れてもらっ
たココアを飲んでいると戸田くんが直立した状態で固まっている立向居くんの背中
を押しながら私のもとにやってきた。
戸田「こいつ、円堂くんもそうなんだけどTV中継を見て以来湊川さんのファンら
しいんだ。よろしくしてやってくれ。」
湊川「えーと、よろしく?」
よろしくのワードに反射で握手のための手を差し出すが、立向居くんは戸田くん
の後ろに完全に隠れてしまった。この手はどうすれば?第一印象がアレだったせい
か完全に警戒されている。ヒロトくんもTVで見たって言ってたなぁ。もしかして
私って有名人?奇行を映されないように注意しないと。まぁしたことないですけど。
戸田「ほら、立向居。このチャンスを逃すともう2度と会えないかもしれないんだ
ぞ。記念なんだからなんか喋っとけって。」
立向居「え、えーと…!ひっ!やっぱりムリですっ!」
戸田「まずは慣れることからはじめような。…ごめんね湊川さん。こいつ緊張しま
くってるみたいで。湊川さんは最近雷門に入ったんだっけ?フットボールフ
ロンティアの雷門の優勝記念記事にはいなかったけど。」
湊川「うん、地元は神戸だから雷門じゃないよ。今はご当地スイーツを制覇するた
めにイナズマキャラバンに乗ってるんだ。」
戸田「なんか思ってる目的と違うのが聞こえた気がしたけど…。おい、立向居、湊
川さん神戸出身なんだってよ。」
立向居「神戸…」
戸田くんが立向居くんに囁く。そして立向居くんがごにょごにょと戸田くんに何
かを伝えていた。戸田くんは通訳か何か?同じ日本語を話してるハズなんだけどなぁ。
戸田「お菓子が好きなんですか?って。」
湊川「大好き。」
食いぎみな私の答えを聞くと、立向居くんの回りにお花が飛ぶのが見えた。
立向居「あの、これ!よかったらどうぞ!ちくしもちです!」
立向居くんから手渡されたのは白地に上品な紅のグラデーションが入った不織布
の風呂敷に包まれた和菓子だった。私が受け取るとすぐに戸田くんの後ろに戻って
しまった立向居くん。戸田くんが「よくがんばったな、えらいぞ。」と言って
背中を叩いているのが見える。…今日のお菓子はもう食べたけどせっかくのご厚意
をムダにするワケにはいかないよね!さっそく包みを丁寧に開けていくと半透明の
トレーの中に一口サイズのおもちが並んでいる。おもちのトレーの上に後付け用の
黒蜜と商品説明の小さなリーフレットがつけられていた。表紙にはお菓子のイメー
ジ図と取扱店の紹介が載っている。筑紫平野でとれた地元の素材を使った老舗のお
菓子らしい。これ「ちくし」って読むのか…さっき立向居くんから聞いて初めて知
ったよ。学校では「筑紫平野―つくし」って習った気がするけどな?あら???
…まぁお菓子だから固有名詞ってことで認識しておこう。さっそくお皿に出して実
食。コロンとした一口サイズの筑紫もちはトレーに入っていたときの四角さを残し
つつも角が丸みをおびており、可愛らしいフォルムをしている。噛んでみるとわら
びもちよりかは弾力があるのがわかる。ほんのり甘くておいしーい!冷やして夏
に食べたらおいしいだろうなぁ。あ、もうなくなっちゃった。おかわりもらえない
かな。
立向居「これもよかったら…!」
追いお菓子きた。やったねと思いながら差し出された包みを見ると博多名物ピリ
辛めんたいこせんべえと書かれていた。
湊川「あ。辛いの食べられないからいらない」
受け取り拒否すると立向居くんは分かりやすく落ち込んでしまった。なんだか申
し訳ないことした気分だ。戸田くんが「まだまだこれからだ」と肩にポンと手を置
いて励ますと立向居くんはすぐに顔をあげて鼻息あらく「がんばります」と返事を
していた。表情がコロコロ変わって忙しないなぁ。
第一印象あんなだったにもかかわらず立向居くんはがんばって話しかけてくれた
ようだし私もがんばるか!なにより一応私の方が先輩だし、ここは大人の余裕を見
せる必要があるだろう。お砂糖たっぷりのココアを置いて立ち上がった私はポケッ
トに入れていたラスクを取り出した。硬いから割れてなくてよかった。ホントは後
でこっそり食べようと思ってたけど…名残惜しい気持ちを振り切って立向居くんと
戸田くんにラスクを渡した。好きなお菓子を惜しげもなく渡すの、カッコいい女感
あるでしょう?よし、カッコいい女…瞳子監督をインストール…。
湊川「これ、あげるわ。私の好きなお菓子。さっきのお返し。」
戸田「めっちゃ苦渋の決断って顔してる…。」
立向居「い、いいんですか?!ありがとうございます!大事にしますね!」
戸田「せっかくもらったんだから食べろよ。」
立向居「そんな、もったいなくて食べられません!」
湊川「わかる。なんでお菓子って食べたらなくなるんだろうね。ずっと食べていた
いのに。」
立向居「え?」
湊川「え?」
今の何の「え?」なの。2人でハテナマークを浮かべながら鏡のように同じ角度
で首を傾けた。私たちのやりとりが面白かったのか戸田くんだけがその場でにまに
まと笑っていた。戸田くん、私、君と同い年。立向居くんと私を2人まとめて頭わ
しゃわしゃしないで。カッコいい先輩風吹かしたつもりなんだけどなぁ?!向いて
ないならやめよっと。