脅威の侵略者編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
やる気を取り戻した雷門イレブンは、積極的に声をかけながらパスを回すよう
になる。そして、土門くんが新たなDF技を繰り出すことに成功し、さらに勢
いづいていく。そして今日何度目かの挑戦でついに吹雪くんがデザートさんのワ
ームホールを打ち破った。GK技を破られたにもかかわらずデザートさんが未だ
に不適な笑みを浮かべているのが少々不安だ。再び吹雪くんがシュートを決めよ
うとするとデザートさんは新たなGK技を繰り出してきた。手元にドリルが現れ、
ボールの勢いを弱めていく。ようやく点をもぎ取ったシュートがいい勝負をする
までもなく圧倒的な余裕を見せつけてすぐに防がれてしまったことに一同驚愕の
表情をうかべる。
デザーム「私にドリルスマッシャーまで使わせるとはな。ここまで楽しませてく
れる奴らは初めてだ。」
本来であればそのままデザートさんがチームの誰かにボールをパスしてそのま
ま”イプシロン”の攻撃になるはずだが、デザートさんはボールを場外に放った。
そして、ベンチにいる私を指さしながらこう言った。
デザーム「そこのお前。どうして今日はシュートを打ちに来ない。」
湊川「いやー、今日は守備で手一杯だったというか。体力が限界というか...。」
デザーム「1on1で構わない。」
湊川「もう元気がな~。」
デザーム「どうしても、か?」
湊川「ホントは限界だけど…マカロンを食べれば元気になれる気がする…かも?」
絶対にシュートさせたいデザートさんVS絶対に動きたくない私の静かな戦い
が始まる。今手元にマカロンなんてないでしょう?大人しく引き下がってほしい。
春奈ちゃんや目金くんの「空気を読め」と言わんばかりの視線を痛いほど感じる
がこっちだって本当に体力の限界よ。走り続けているならまだしも一度腰を降ろ
してしまえばなかなか立ち上がるのは至難の業だ、ごほうびでもないとやってら
れない。しかも今はおやつ三日間禁止令中だったからそもそも試合開始の時点で
稼働率は80%からのスタートだ。なので今後はおやつ禁止令禁止でお願いしま
す。
デザーム「まっころん?奇っ怪な名前の食物があるのだな。誰か、持っている者
は?」
デザートさんが”イプシロン”の面々に尋ねるも誰も名乗りを上げない。
デザーム「ならば仕方がないな。今日のところは試合終了だ。」
ゼル「デザーム様!いいのですか?やつのシュートを望んでいたのでは?」
デザーム「かまわん。どうせ、時間ももうないしな。お前たち、次に会うときは
もっと強くなっていてくれよ?そうでなければ張り合いがないからな!
我々の真のチカラを示すとしよう。」
こうして嵐のような”イプシロン”戦は幕を閉じた。結果は1:1。デザートさん
が試合を途中放棄したとはいえ残り時間わずか、実質フルで試合を行なったが雷
門イレブンは”イプシロン”に引けをとらず動くことができたということだ。地下
の秘密特訓の成果はばっちり表れたといっても過言ではないだろう。一難去っ
てとりあえずつきたいところだったが、吹雪くんの表情は晴れないままだ。
円堂「吹雪?大丈夫か?」
吹雪「…なんでもないよ。もう1点がとれなくてごめんね。」
円堂「でも!負けなかったのはお前のおかげだ、ありがとな!」
風丸「…勝てなかった。これだけがんばったのに。」
円堂「何言ってんだよ!俺たち、やつらと引き分けたんだぜ。」
木暮「そうか、この前までコテンパンだったもんね」
塔子「あたしたち、強くなったんだな!」
壁山「なんか、勝てそうな気がしてきたっす」
栗松「俺もでやんす!」
土門「おいおい、単純だな。」
鬼道「答えはシンプルさ。互角に戦えるなら勝利の確率は50%。相手から1%を
奪いとれば勝てる。」
前回と異なりいい勝負ができたのがみんなの自信にも繋がったらしい。円堂く
んが一人ひとりに声をかけて激励していく。ベンチは盛り上がっているけれど、
一人控え室にトボトボと向かっていく吹雪くんが心配で後を追いかけた。
吹雪「僕は…どうしたら…。」
湊川「あ、吹雪くん!」
吹雪「お疲れ様。どうしたの?」
湊川「えっと、ほら!試合終わったばっかりだし、喉渇いてないかなって。吹雪
くん特に頑張ってたから特製ドリンクあげようと思って!」
吹雪「ありがとう。変わった味だね。」
湊川「栄養たっぷりのアイスティーだよ!あれ?動いて汗かいた後だから塩入の
スポーツドリンクのほうがいいのかな?」
吹雪「ううん。すっごく喉が渇いてたから嬉しい。これ、砂糖入ってないんでし
ょう?だったらスポドリと違ってたくさん飲んでも大丈夫だよね。」
気を遣ってくれたのかもしれないけど、目の前の吹雪くんはドリンクボトルを
傾け、1分もしないうちに空にしてしまった。その後は2人でのんびりと座りな
がらたわいない話をして過ごした。その間の吹雪くんはいつものおっとりとした
様子で、心配して後を追いかけてきたけれどそれが杞憂だったことに胸をなで下
ろした。2人でいると風丸くんと栗松くんが走って私たちのことを呼びに来た。
どうやら次の目的地が福岡に決まった、とのことだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
大阪で行なわれた”イプシロン”の試合を見届けた後、施設に戻ってくると研崎
さんから父が呼んでいると伝言をもらった。最近口実をつけては何かと施設を抜
け出しているためその注意かと考えられるが、その度に報告はしているので問題
はないはずだ。まぁ、大した情報もないため、その日何をしたかを告げるだけの
日記のようなものだけれど。父さんの部屋の前についたので、気を引き締めて、
引き戸に手をかけた。
基山「失礼します。」
星二郎「座りなさい。」
基山「先ほど”イプシロン”と雷門の試合が終わりました。引き分けに終わったよ
うです。」
星二郎「そうですか。」
父さんはゆったりとした様子でまだ湯気のあがるお茶をすする。父さん以外動
くことが許されない静かな空間に緊張感が走る。”イプシロン”の近況を報告した
があまり興味を示してもらえなかった。俺はいったいなんで呼ばれたんだ?
星二郎「気を楽にしなさい。・・・雷門に湊川アンリという選手がいますね。」
基山「え・・・。は、はい、そうですね。」
星二郎「あなたも何度か観察に行っていたでしょう?どこかで聞き覚えがある
と思っていたのですが、彼女は名家湊川の家の子ですね。・・・考え
たのですがね、我々は大きな計画をしているにも関わらず、その賛同
者はまだ少ないのです。いや、ね?これから賛同者が増えるのは間違い
ないのですが。穏健派はなかなか首を縦に振らないのが世の常。そこで、
我々の基盤を固めるべく、名家の湊川家に味方になってもらえれば心強
いと思いましてね。彼女のサッカーのレベルに関しては噂もかねがね伺
っていますし。」
ほんの数日前一緒にお茶をしたアンリちゃんの名前があがり、ピクリと
肩があがってしまう。アンリちゃんをエイリア学園の施設に?父さんについ
ていくという決心は揺るぎないが、最近のピリピリとしたおひさま園のみんなの
様子や大好きだったサッカーが心から楽しめない今の生活を、グランとしての俺
の姿をアンリちゃんに見せるのは嫌だと思った。父さんにアンリちゃん
から関心を失ってもらうようなんとか言葉を紡いだ。
基山「で、でも!あの湊川という選手がそんなに戦力になるとは思いません。体
力がないのか、前の試合も、今日の試合もフルで出場はしていません。そ
っそれに、何より俺とは相性が悪すぎます!何を考えているのか行動が読
めなくて、危なっかしすぎるのです。サッカーはチームスポーツでしょう?
そんな選手を招いたところでチームのレベルアップどころか、計画進行
の妨げになります。それよりもGKの円堂くん、前に会話したことがある
のですが、彼はいい選手です。カリスマ性もあって、みんなが彼について
行きたくなる。鍛えれば俺のチームのネロとだっていい勝負をすると思い
ます。」
星二郎「あなたがそこまで言うのですか、よっぽど馬が合わないのですねぇ。
・・・ふむ。」
父さんが考え込むように湯飲みを見つめる。ヒトのことを悪くいうのは心苦し
いけれど、父さんの興味を削ぐことができるのであれば、このくらい目をつぶっ
てほしい。何度も心の中でアンリちゃんに謝りながら、父さんの次の言葉を
待った。
星二郎「まぁ、湊川の名前には少なからず影響力があるのも確かです。戦力には
ならずとも役に立っていただきましょう。」
基山「父さ・・・」
星二郎「ヒロト。最後まで言わずともやるべきことは分かりますね?」
基山「はい。・・・失礼しました。」
反論しようとしたが、それに被せるように名前を呼ばれ、じっと見つめられる。
子どもが悪いことをしたときに叱るような、父さんのその目にただ従うしかでき
なかった。俺が父さんにアンリちゃんのことを報告しなければこんなことに
はならなかったのかな。違う。興味本位で俺がアンリちゃんに接触しなけれ
ばこんな思いをかかえることもなく、父さんの任務を遂行することもできただろ
う。父さんのために動くと決めた日から初めて生じてしまった矛盾に胸の痛みを
覚え、夜空に浮かぶ一際輝く星を見上げた。