ウィクロスのイベント系
「あー…………」
もたれ掛かるようにしてベンチに座って、声にならない声というかガラガラになった声が喉から鳴る。頭がぼんやりして何も考えられない。そもそもなんで自分がこうなっているのかもわからない。
視線の先にはついさっきまでいたグランプリの会場。予選ラウンドが終わってもその分盛況しているサイドイベントのおかげで騒がしさは増しているようにも思える。沸騰した頭を冷やしたくて会場外のベンチまで逃げてきたのだ。
戯れ程度に参加してみたグランプリ。予選ラウンド8回戦のトリプルエリミネーション。要は3回負けたらその時点で予選からドロップアウトで、どうせセレモニーにすら出たことない自分はストレートで3回負けるんだろうな、と思って気楽に参加してみたのだが。
気付いたら予選最終卓に座ってた。いや正直7戦目で負けたなこりゃと思っていたのだが。相手のサーバント欠損という運で勝ったから勝ったと言っていいのかいまいちわからん。一応運も実力の内だが。
8戦目は永遠に勝てていない対面だったからあっさりやられて不甲斐ないなあとは思ったけれど、TCGを始めて2年と4ヶ月、初めてのグランプリにしては頑張った方ではないだろうか。
「うー……あー……」
予定外の連戦に頭が沸騰して変な声しか出ない。いつも変な声しか出してないと言われればそれはそうだが。
「頑張ったじゃない、あんたの割には」
疲れも感情の揺らぎもない、けれど少しだけ値踏みの色が入った声。左側からそんな声が聞こえてくると同時に、すとんと誰かの気配が隣に足された。
わざわざこの女が接触してくるなんて珍しい。最後に接触を果たしたのはいつだったか。記憶にない。割と最近なのかもしれないが覚えてないんじゃどうしようもない。
この女が好きな身としては、こうやって話しかけられたことに対してなんらかのリアクションを呈すべきなのだろうが。
「まさか予選完走すると思わなかったよ……」
「ふふ」
空っぽの頭から飛び出てくるのはそんな言葉だ。隣の女にかまかける余裕などない。
疲れが一歩進んだのか、背中が壁からずる、と落ちて足も同様にずるずると落ちて。強制的に上を向いたことにより突き刺してくる照明の光から逃れるために手をひさしにする。
無言。特段話すことなどないのだから当たり前だが。
この女の気配が足されたおかげなのか、少しだけ頭がスッキリしてきた。ぐちゃぐちゃとした思考に指向性が足されたおかげだろうか。
今日一日の戦いを振り返る。1戦目はどうしようもないガバのせいで相手にも申し訳なくなるぐらいにしょうもない戦いをして、2戦目は散々相方にボコボコにされてきたルリグだからまあまあ対処できて、3戦目はまさかのミラー。型はさっぱり違ったが、同じルリグ好き同士和やかに戦えたのが楽しかった。
ただ、3戦目終わるまででひとつ文句言いたいことがあって。意を決して左側を向く。
「カーニバル、サバでからかうのやめよ?」
「なんの話?」
当方ジト目になりながら主張するも、何の意も介していない涼しい顔に受け流された。やっぱりこの程度じゃかすり傷どころか表皮をなぞる事すら許されていなさそうだ。諦めて視線を正面に戻す。
「4戦目入るまでサーバント全然引けなかったんだよぉ……」
……そもそも、サーバントなんて運である。いくら4戦目に入るまでさっぱり引けなかったと言えど、所詮たまたまの範疇で済んでしまうのだが。この女の絵柄のサーバントを使っているからといって、そんなことはないのは重々承知しているのだが。
「ふふ、そういうこともあるでしょうね」
「むー……」
ごもっともである。ただサーバントを弄ぶ女である以上やっぱりなんかあると信じたくなってしまっているのである。まあいいか。腑に落ちないから今度オールスターでやる時に-QB-で相手の盤面にあるサーバントを焼き払えばいい。
「……もし、私のせいだったとして。そうする私はお嫌い?」
「すき」
考える間もなく口からするりとその言葉が抜けた。
……まあ、うん。だろうな。それでこそ自分、というか。
無意識下で当たり前のように思っていることが、当たり前のように出てきただけ。それはそう、なのだが。
散々この女の前で好きだとか大好きだとか綺麗だとかかわいいだとかぶちまけているのになんだろうかこの羞恥心。意識して言うのと無意識で言ってしまうのはこんなに差があるんだろうか。もうやだ殺してくれ、というかなんでこの女は何も言わないんだこんにゃろう!!
謎の怒りのままに再度あの女の方を振り向くと、
「…………」
「……ぁ」
ぱちりと目が合った。眼帯で封じてない方の右目と。
ほんの少しの呆れ顔の中に、これまたほんのちょっぴり混じった笑み。
顔に書かれているのは「変わらないなコイツ」。この手の解答は嫌われるかと思ったがどうやらそうでもなかったらしい。
「清々しいほどの即答……というよりかは、自然と出てきた感じね」
「へへ」
肯定されることはないが、さりとて否定される訳でもなかった答えに思わず顔から気が抜けた。まるで子供のような声だったがまあ。いいだろう。
やれやれ、と頭を振って目の前の女が音もなく立ち上がった。少しだけこっちを振り向く。その顔は、さっきまでと違って真剣な顔だ。瞳に宿す光が鋭い。盛大にだらしない格好している自分が、思わず起き上がって椅子に座り直すぐらいには。
「……今日、満足した?」
「まだ全然」
反射で返した。さっきの問いと一緒だ。躊躇ってなんかいられない。
何度も色んなことで挫けているが、やっぱり目の前の女と一緒に夢限少女になりたいという気持ちは消えそうもなかった。こうやってグランプリを通して更に補強されたまである。
「その気概があるなら十分」
先程よりも明らかな笑みを浮かべて。
これ以上語ることはない、というようにこちらに背を向けてカーニバルは歩き出す。
いつの間にか座られていたから来た時はわからなかったが、どこか楽しそうに歩く彼女の背に向けて、
「頑張るよ」
小さく呟いた。
独り言のつもりだったけど、カーニバルはピタリと止まって。
もうこっちを振り向くことはなかったから、彼女がどう思ってるかなんてわからないけれど。
「楽しみにしてるわ、セレクター」
この答えが、全てな気がした。
もたれ掛かるようにしてベンチに座って、声にならない声というかガラガラになった声が喉から鳴る。頭がぼんやりして何も考えられない。そもそもなんで自分がこうなっているのかもわからない。
視線の先にはついさっきまでいたグランプリの会場。予選ラウンドが終わってもその分盛況しているサイドイベントのおかげで騒がしさは増しているようにも思える。沸騰した頭を冷やしたくて会場外のベンチまで逃げてきたのだ。
戯れ程度に参加してみたグランプリ。予選ラウンド8回戦のトリプルエリミネーション。要は3回負けたらその時点で予選からドロップアウトで、どうせセレモニーにすら出たことない自分はストレートで3回負けるんだろうな、と思って気楽に参加してみたのだが。
気付いたら予選最終卓に座ってた。いや正直7戦目で負けたなこりゃと思っていたのだが。相手のサーバント欠損という運で勝ったから勝ったと言っていいのかいまいちわからん。一応運も実力の内だが。
8戦目は永遠に勝てていない対面だったからあっさりやられて不甲斐ないなあとは思ったけれど、TCGを始めて2年と4ヶ月、初めてのグランプリにしては頑張った方ではないだろうか。
「うー……あー……」
予定外の連戦に頭が沸騰して変な声しか出ない。いつも変な声しか出してないと言われればそれはそうだが。
「頑張ったじゃない、あんたの割には」
疲れも感情の揺らぎもない、けれど少しだけ値踏みの色が入った声。左側からそんな声が聞こえてくると同時に、すとんと誰かの気配が隣に足された。
わざわざこの女が接触してくるなんて珍しい。最後に接触を果たしたのはいつだったか。記憶にない。割と最近なのかもしれないが覚えてないんじゃどうしようもない。
この女が好きな身としては、こうやって話しかけられたことに対してなんらかのリアクションを呈すべきなのだろうが。
「まさか予選完走すると思わなかったよ……」
「ふふ」
空っぽの頭から飛び出てくるのはそんな言葉だ。隣の女にかまかける余裕などない。
疲れが一歩進んだのか、背中が壁からずる、と落ちて足も同様にずるずると落ちて。強制的に上を向いたことにより突き刺してくる照明の光から逃れるために手をひさしにする。
無言。特段話すことなどないのだから当たり前だが。
この女の気配が足されたおかげなのか、少しだけ頭がスッキリしてきた。ぐちゃぐちゃとした思考に指向性が足されたおかげだろうか。
今日一日の戦いを振り返る。1戦目はどうしようもないガバのせいで相手にも申し訳なくなるぐらいにしょうもない戦いをして、2戦目は散々相方にボコボコにされてきたルリグだからまあまあ対処できて、3戦目はまさかのミラー。型はさっぱり違ったが、同じルリグ好き同士和やかに戦えたのが楽しかった。
ただ、3戦目終わるまででひとつ文句言いたいことがあって。意を決して左側を向く。
「カーニバル、サバでからかうのやめよ?」
「なんの話?」
当方ジト目になりながら主張するも、何の意も介していない涼しい顔に受け流された。やっぱりこの程度じゃかすり傷どころか表皮をなぞる事すら許されていなさそうだ。諦めて視線を正面に戻す。
「4戦目入るまでサーバント全然引けなかったんだよぉ……」
……そもそも、サーバントなんて運である。いくら4戦目に入るまでさっぱり引けなかったと言えど、所詮たまたまの範疇で済んでしまうのだが。この女の絵柄のサーバントを使っているからといって、そんなことはないのは重々承知しているのだが。
「ふふ、そういうこともあるでしょうね」
「むー……」
ごもっともである。ただサーバントを弄ぶ女である以上やっぱりなんかあると信じたくなってしまっているのである。まあいいか。腑に落ちないから今度オールスターでやる時に-QB-で相手の盤面にあるサーバントを焼き払えばいい。
「……もし、私のせいだったとして。そうする私はお嫌い?」
「すき」
考える間もなく口からするりとその言葉が抜けた。
……まあ、うん。だろうな。それでこそ自分、というか。
無意識下で当たり前のように思っていることが、当たり前のように出てきただけ。それはそう、なのだが。
散々この女の前で好きだとか大好きだとか綺麗だとかかわいいだとかぶちまけているのになんだろうかこの羞恥心。意識して言うのと無意識で言ってしまうのはこんなに差があるんだろうか。もうやだ殺してくれ、というかなんでこの女は何も言わないんだこんにゃろう!!
謎の怒りのままに再度あの女の方を振り向くと、
「…………」
「……ぁ」
ぱちりと目が合った。眼帯で封じてない方の右目と。
ほんの少しの呆れ顔の中に、これまたほんのちょっぴり混じった笑み。
顔に書かれているのは「変わらないなコイツ」。この手の解答は嫌われるかと思ったがどうやらそうでもなかったらしい。
「清々しいほどの即答……というよりかは、自然と出てきた感じね」
「へへ」
肯定されることはないが、さりとて否定される訳でもなかった答えに思わず顔から気が抜けた。まるで子供のような声だったがまあ。いいだろう。
やれやれ、と頭を振って目の前の女が音もなく立ち上がった。少しだけこっちを振り向く。その顔は、さっきまでと違って真剣な顔だ。瞳に宿す光が鋭い。盛大にだらしない格好している自分が、思わず起き上がって椅子に座り直すぐらいには。
「……今日、満足した?」
「まだ全然」
反射で返した。さっきの問いと一緒だ。躊躇ってなんかいられない。
何度も色んなことで挫けているが、やっぱり目の前の女と一緒に夢限少女になりたいという気持ちは消えそうもなかった。こうやってグランプリを通して更に補強されたまである。
「その気概があるなら十分」
先程よりも明らかな笑みを浮かべて。
これ以上語ることはない、というようにこちらに背を向けてカーニバルは歩き出す。
いつの間にか座られていたから来た時はわからなかったが、どこか楽しそうに歩く彼女の背に向けて、
「頑張るよ」
小さく呟いた。
独り言のつもりだったけど、カーニバルはピタリと止まって。
もうこっちを振り向くことはなかったから、彼女がどう思ってるかなんてわからないけれど。
「楽しみにしてるわ、セレクター」
この答えが、全てな気がした。
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