『おはようございます！』


私が会社につくと、時計は入り時間の5分前を指していた


なんとか間に合ったことに安堵し、私は自分のデスクに荷物を置いた


『…あ』


ふとパソコンを見ると、付箋が貼ってあった



[今日はMooNsのレコーディングよ！頑張りなさい！by.夜叉丸朔太郎]


『夜叉丸さん…』


忙しいのに、わざわざメモを残してくれたんだ…


私も同じように付箋にメモを書いて、皆さんの住むマンションへと向かった


[いつもお疲れ様です。わざわざ付箋を残してくださって、凄く嬉しいです。今日も頑張ります！by.みのり]





ー…


『…ひゃー、いつ見ても大きいマンションだなぁ…』


私はマンションを見上げて呟く


『…よし！』


行こう


私は中へと入っていった


『…えっと、MooNsの皆さんの階は…』


手帳を開いて確認していると、横から声が聞こえた


「…あ、江藤さん」


『え？』


呼ばれた方を向くと、MooNsの皆さんが、ロビーのソファに座っていた


穏やかに微笑む増長さんの隣で、王茶利さんがブンブン手を振ってるからすぐにわかった


『おはようございます！皆さん』


私は歩いて彼らに近づく


「おはよう」


「おはよー！」


「おはようございます」


「おはよ」


「…おはよう」


『皆さんお早いですね』


「うん。今日のレコーディングは特別だから、俺達みんな、凄く気合いが入ってるんだ」


『そうなんですね』


「うん」


私たちは微笑み合う


「ちょっと！？リーダーってば抜け駆け！？」


「ただ話してるだけだろ」


「えー、それじゃあ、龍はああいうの見てもなにもおもわないの？」


「…」


「あ、黙った」


『…ふふ、皆さんって凄く仲良しですよね』


私は微笑んでそう言う


「まあね！」


「こら、ドヤるな」


「えー」


『…ふふ』


王茶利さんと野目さんの掛け合いが面白くて、つい笑ってしまう


「…さて、そろそろ時間じゃない？」


『あ！そうです！それで皆さんを呼びに来たんでした…！』


「ならそろそろ行かないとね」
　

「よーっし！やるぞー！」


王茶利さんがそう口にするなり荷物を持って立ち上がる

他の皆さんも、すでに準備を始めていた




ー…


「おはようございます」


「おはようございまーっす！」


「おはようございます」


「おはようございます」


「…おはようございます」


『おはようございます！』


MooNsがスタジオ入りすると、早速収録が始まった

5人は交代で録り、時たま笑い声がしながら、MooNsはレコーディングを終えた


「…よし、お疲れ！」


「「「「「お疲れ様でした」」」」」


『お疲れ様でした！』


スタッフの皆さんに挨拶をして、スタジオを出る私たち





『この後どうしますか？』


「大分早く終わったもんねぇ…」


私たちがどうするか話していると、増長さんが、ふと真剣に私に問いかけてきた

「…ねぇ、江藤さん。唯月達に、君から手料理ご馳走になったって聞いたけど…本当？」


『え？あ、はい。唯月くんと遙日くんが道案内してくれたので。明謙くんは、次に会った時に一緒に来ていたので…それがどうかしました？』


私が首をかしげて問いかけると


増長さんがもうひとつ聞いてくる


「あと…そのネックレス。いつもしてないのに、どうしたの？」


『…あ、これは…ある人からもらって…』


私は阿修さんたちの時と同じように、濁しながら答える


「…その人から、いつもつけてって言われたの？」


『え？いいえ、そんなことは無いです。ただ、凄く綺麗なので、気に入ってしまって…』


私はネックレスに視線を落とした


「…そっか」


そう答えた増長さんの声は、なんだかいつもより元気が無いように感じた


「…えー、ごほん。みのりさん、突然で申し訳ないのですが、僕たち急用を思い出しまして。先に、僕たちのマンションに行っててもらえませんか？」


『はい、私は構いませんけど…』


「トゥーンク！ありがとうございます。それでは、また後程」


増長さんの様子に、釈村さんが咳払いをしてそう言った


増長さんは、まだ元気がないようだったけど、皆さんと共に行ってしまった


『…にしても、なんで皆さんのマンションに…』


不思議に思いながら、私は言われた通りにマンションに行った






すると、ロビーのソファにTHERIVEとキタコレが揃っていた


『…どうしたんだろう…』


遠くから眺めていると、北門さんが私に気付いた


「みのり！」


『あっ…おはようございます』


「うん、おはよう。ちょっとこっちに来てもらえるかな？」


『あ、はい…』


私が皆さんに近づくと、北門さんが横にずれて、座ってと言うように、北門さんと是国さんの間を叩く


『…え、でも…』


私が二人の間に入るわけには…


そう思っていると、是国さんが立ち上がり私を引っ張ると、その場所にストンと座らせ、北門さんとは反対の方に座った


『え、え…？』


「君が何時までたっても座らないからだよ」


是国さんは悪戯っぽく小さく舌を見せた


『は、はぁ…』


私が緊張から硬直していると、北門さんが私の頭を優しく撫でた


『…っ、北門さん…？』


思わず緩む頬を隠そうと、頬に手を当てながら北門さんを見上げると、彼は私の赤い顔を見て、満足げに笑う


「…ふふ、良かった。少しは緊張が解けたみたいだね」


『あ…』


北門さんは私の緊張を解くためにわざと頭を撫でたんだ…


…でもなんで？


私が不思議そうな顔をしていたからか、北門さんが笑顔で言う


「だってキミ、頭を撫でられるといつも嬉しそうな顔をして笑うから」


『…』


どんな顔していたんだろうか…


思わず考え込むと、北門さんはクスリと笑った


「別に悪いことではないし、今のままでいいんじゃないかな」


また優しく頭を撫でられ、目を細める


「…ふふ、ほら、その顔」


『え…？』


「ちょっとトモ！」


是国さんが北門さんに声をかけると、北門さんは


「ん？…あぁ、ごめんね、つい」


「ついじゃないよ、全く…」


『…？』


二人の会話から、私は何も読み取ることができなくて、ただただ首をかしげていた


「…そういえば、もうすぐB-projectのメンバー全員が、数日休みをもらえるよね？」


阿修さんの言葉に、頷く


『はい、３日ほど』


「ふーん、３日かぁ…」


「３日連続でオフなんて、珍しいね？」


『夏休みの代わりだそうです』


私がそう告げると、北門さんは何か考え込む


「…じゃあ、その休み、仲間内の交流っていう意味も込めて、みんなでどこか行こうか？」


「あっ、それいい！」


北門さんの提案に、阿修さんが乗っかる


「僕も賛成！」


『え…？』


突然聞こえた第三者の声に、振り向くと、そこにはKiLLER KiNGのみなさんが揃っていた


『…！皆さん…』


そう、KiLLER KiNGのみなさんまで降りてきたのだ


「明謙、どうしてここに？」


「竜持が教えてくれたんだよ！」


『是国さんが…？』


意外な人物に、目を見張る


「折角みんな集まってるんだから、明謙も誘わないとかわいそうでしょ」


『是国さん…』


「…あれ、でもMooNsは？」


明謙くんの声に、私が答える


『あ、MooNsのみなさんなら、収録のあと、私にここに先に行っててと言って、どこかへ行ってしまって…』


「そうだったのか…」


北門さんは少し考えると、


「…MooNsに連絡とってくるよ」


と言った


「わかった、いってらっしゃい」


「あぁ、行ってくる」


是国さんと言葉を交わすと、歩いてマンションの外へと向かった


『…』


私が無言でうつ向いていると、唯月が小さく声をあげた


「…あ、それ…」


顔をあげると、いつの間にかとなりに座っていた唯月くんの視線が、私の首を見ている


『…あ、これ…』


唯月くんが見ているのは、彼が私にくれたネックレスだった


「…それ、着けてくれてるんだ」


唯月くんが嬉しそうに目を細める


『はい。折角もらったので…』


私が微笑み返すと、彼も嬉しそうに笑ってくれた


「えっ、じゃあそのネックレスをみのりちゃんにあげたのって、もしかして…！」


「うん、僕」


阿修さんの問いかけに、唯月くんは笑顔で答える


「…唯月の方だったのか…」


金城さんの小さな呟きに気付き、唯月くんは笑顔を向ける


…しかし、その笑顔はどこか目が笑ってないように感じた



そこに、北門さんが戻ってくる

「和達に連絡取れたよ。今こっちに向かってるって」


その言葉を聞いて、私は漸く安堵の息を着いた


「…何か、あった？」


素早くそれに気付いた唯月くんが、私の背中を擦りながら言う


『…いえ、なにもない、はず…なんですけど…』


私が自信無げに云うと、是国さんに名前を呼ばれる


「みのり」


『…え…？ん、むぐ！』


是国さんは顔をあげた私の口に素早くチョッパチャロスを突っ込んだ


「チョッパチャロスのイチゴミルク味。美味しいでしょ？」


『…はい、美味しいです』


是国さんから貰ったチョッパチャロスを舐める


甘くて優しいイチゴの味がして、笑ってしまった


それを見て、是国さんは満足げに笑う


「…あ、来たみたい」


唯月くんは窓の外を見て呟く


その言葉に、私もつられて外を見ると、外では王茶利さんが元気に手を振っている

その横にはちゃんと増長さんもいて、さっきのような表情はなく、私は安堵した


『…私、お迎えに行ってきますね！』


「…うん、いってらっしゃい」


『はい！』


皆さんに見送られ、私はMooNsのみなさんに駆け寄る


『みなさん、お帰りなさい！』


「うん。ただいま、江藤さん」


『はい！』


皆さんは駆け寄る私を見て穏やかに笑っていて、安心する

『今、B-proの他のメンバーがみなさん揃っているんですよ』


「あぁ、倫毘沙から聞いたよ。みんなでどこか行こうかって話になってるんでしょ？」


『そうなんです！』


私たちは、そんな話をしながら中へと入ったのだった



5-2.お帰りなさい、MooNsのみなさん

(無事帰ってきた5人を見て、私は酷く安堵した)