三途川はキッとハデスを睨みつけた。


「おい、逸人くん！　何をぼさっとしているんだ。あれを消さねば騒ぎは収まらんのだぞ。さっさと丸呑みにしてしまえ！」

「え！？　あ、はい…ちょっと目頭が…そ…そうでしたね……」


ハデスは込み上げる涙を拭うと羨望（エンヴィー）に攻撃を仕掛けるが、ダメージがまったく見られない。


【バーカ！！　オレがどれだけの大勢の人間に呼ばれてると思ってんだ！？　無駄さ！！　諦めなァ】

「なんだこいつ……！！　しょうもねーくせにキリがねえ」

「しょうもねーとはなんだこの野郎」


藤と美作の言葉に三途川は理解できないという顔をしている。


「そんなに気にするものでもないと思うがなあ。それに同じ悩みでも君などまだまだ可愛いほうだぞ。
逸人くんなどいよいよアラサーだと言うのに……未だ女性から一度たりともチョコレートを貰ったことがないんだぞ」


三途川の言葉がハデスにグサリと突き刺さる。


「本命はもちろん義理すら……ん？」

「な…ぜ、今……それを…」


がくりと膝をつくハデスに羨望（エンヴィー）はオロオロとしている。


【お…お前そうだったのか…！！　そうとは知らずオレは……】

「同情してくれなくていい」

「！　逸人くんなぜだかわからんが病魔が同様しているぞ。今のうちだ」

「なぜだかわからんことはないでしょう」


涙目のハデスは羨望（エンヴィー）と三途川を連れて教室を出て行った。


「とりあえず、これでバレンタインは安泰…かな？」


苦笑いしながらも梓はハデスの背中を見送った。





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放課後、ハデスの戦いはまだ続いているようで保健室には鍵がかけられていた。
梓は少し思案した後、門の付近で待つことにした。


「寒……何で今日にかぎって忘れちゃうかな……」





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ハデスと共に渡り廊下を歩く三途川は"やれやれ"と声をもらした。


「なかなか手強い相手だったな」

「先生が余計なことを言ってくれたおかげで…割と早めに納得して消えてくれましたけどね」

「無論、あれも計算のうちだ」

「よく言いますよ……」


そう言ったハデスはゲタ箱を開けたまま手を止めた。


「……なんだ、どうした逸人くん…」


不思議に思った三途川が目を向けると、ハデスの靴の前には

"ハデス先生いつもありがとう"

と書かれたプレゼントが入れられていた。



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