梓は困った顔で獄狼（ケルベロス）に目を向ける。


【本当の事だ。信じるも信じないもお前達の自由だかな…】


フンッと鼻を鳴らしテーブルの上の茶菓子を見つめる姿に三途川は手に持った茶菓子を前に出し、チッチッと舌を鳴らす。

獄狼（ケルベロス）はぴょんと跳び上がり、小型犬のサイズに縮むと三途川の膝の上に着地した。


「こらっ！獄狼（ケルベロス）！！」

「三途川先生……」


獄狼（ケルベロス）は嬉しそうに三途川の手から茶菓子を食べている。
梓は｢もう｣と声をこぼし話し続ける。


「実は私…事故前後の記憶が無いんです」

「記憶が……？」

【正確に言えば愛していた両親との記憶だ】


口を挟んだ獄狼（ケルベロス）に視線が集まる。


「どうゆう事だ？」

【ここからは俺が話すぞ】


梓は静かに頷いた。


【梓の母親も罹人だった。病魔の名は………愛癒（マリア）】


梓の母親も罹人という事実に驚きを隠せないハデスと三途川だったが、２人が口を挟む事はなかった。


【愛癒（マリア）は身体や心の傷を癒す病魔。代償として能力を使った者は癒した分の痛みを自らに受け、相手は癒された分だけ"愛する者の記憶"を失う】

「"愛する者の記憶"を失うとは例えば？」

【様々だな。軽いものであれば過ごした日々の一部を忘れたり、何故愛していたのかさえわからなくなったり……
事故の傷で瀕死の状態の梓を助けて母親は力尽きた】

「私もこんなに詳しくは昨日聞いたばっかりで……今一緒に暮らしてるのは叔母夫婦なんです。養子縁組してもらった………」


ハデスは梓の目がわずかに赤い事に今さらながらに気付く。
きっと両親の死の状況を聞き、一人で泣いたのだろう。そう思うとハデスの胸は締め付けられる様に痛んだ。


「梓さん………」

「でも、昨日の映画館で見せられた"悪夢"のおかげで少し分かったんです。
私がどれだけ愛されていたかを」


ここで三途川の頭にある疑問が浮かんだ。


「愛癒（マリア）に奪われた記憶を取り戻す事は出来ないのか？」

【結論から言えば…可能だ】


その言葉に三途川は獄狼（ケルベロス）の肩を掴んだ。


「どうすればいい？」

【記憶を無くした時より強く相手を愛すればいい…】

「何……だと？」



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