梓はハデスを後ろから抱きしめるように支える。


「！？　梓さん！　ダメだ！！　離れ………その姿は……」

「ハデス先生、大丈夫。私が支えます」


梓をしばらく見つめた後ハデスは前に向き直り……
そのまま大きく踏み込んだ。





ーーーーー

バサバサッバサ


「アリアトヤシターーアリアトヤシター」

「……夢が…終わる……」


受け付けにはオウムの羽ばたきだけが響いていた。





ーーーーー

「咀嚼完了…」

「冷血（クルエル）………」


上映室には黒髪になったハデスがたたずんでいた。
しばらくするとハデスの髪は白くなり、その皮膚にはヒビが拡がっていく。


「先生！！」

「逸人くん…！　や…やったのか…？」

「はい…それは確かに」

「でも…この姿って……」


駆け寄った三途川と真哉の視線の先にはあの少年の姿は無く、いるのは放心状態の１人の老人だった。


「ううん。それがその人の本当の姿」


声に驚き振り返ると、受け付けの女性がこちらに近付いて来ていた。


「夢が終わった…それだけのこと…」

「君は…」

「お…お姉…さん…？」


近付く足音に反応するように老人の口から声が漏れた。


「………み…のぞ…み…、わた…しの、のぞみ…」


のぞみと呼ばれた女性は老人にチラリと視線を向けると静かに話し出す。


「この映画館も…かつては純粋に人に夢を与える場所だった。子供は目を輝かせ…大人は童心に返り、恋人達が涙する……そして…それがその人の願いだった…
怖い顔のお兄さん、まさかマジにやるなんて思ってなかったよ。ありがとね……」

「……君にお礼を言われるようなことは何もしていない。
僕は…僕のためにやった…」

「いいや？　最後に…いいもの観せてくれたでしょ………」


そう言うと のぞみ と呼ばれた女性は淡い光に包まれ、徐々に消えはじめた。


「お姉さん…！？」

「消えて………」

「あ…い、行か…ないで…くれ…、わ…わた…しの……！！」



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