梓がゆっくり目を開くとそこには見慣れた天井があった。


「ここは…私の家……？」


とりあえずベッドから降りると制服を着たままなのに気付く。はて？と首を傾げていると……


「梓ー、そろそろ起きないと遅刻するわよー」

「はーい…って、あれ？　お父さんとお母さんはまだ帰ってきてないはずなのに…」


首を傾げながらも母の声に答えて部屋を出ると、そこには見慣れたリビング。
ただ違うのは"いるはずのない人物"がいるということだけだった。


「あら？ちゃんと着替えてきたのね」

「なかなか降りてこないから寝坊したと思ったぞ」

「パ…パ、ママ……！！」


そこにいるのは紛れも無く梓の両親。


「な…んで……」

「おいおい、何だ？寝ぼけているのか？」

「だって……２人は"あの時"…死んだじゃない!!!」



すると母は料理の手を止め梓を優しく抱きしめた。


「何言ってるの。私達はお仕事で海外にいて、あなたを姉さん達に預けていただけじゃない」

「長い間寂しい思いをさせてすまなかったな…これからはずっと３人で暮らせるぞ」


梓の中に残る両親の記憶はほんのわずかなものだった。
だが、その記憶が告げている。抱きしめる母の香り、頭を撫でる父の手の感触は確かに本物なのだと。


「うぇ……ひぃ…っく……」


いつの間にか梓の目から涙があふれていた。


「さあ梓、顔を洗ってらっしゃい。そのままじゃ学校に行けないわよ」

「はい……」


顔を洗った梓は朝食を食べながら両親と他愛もない話をした。


「いつでも帰ってらっしゃい…」


外に出るとぬいぐるみを抱いた少年が立っている。


「嬉しそうですね、お嬢さん。"亡き両親と送る平凡な日々"………それがあなたの願いですか？」

「あなた……誰？」

「私はあなたの不安を拭う者。
人は…自分にとって都合のいいことばかりが起こりすぎると不思議と不安になるものです…だから…今回はここまでにしておきましょう。
あなたにとって………"どちらの世界"においても、私が"逃げ道"となれますように…」


梓は少年の差し出した手を警戒しながらも握り返した。



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