おそらくこれ（尾行）が鏑木の言っていた"気の進まないこと"なのだろうと梓は１人納得してアシタバに目を戻すと、可哀相なほど青ざめている。

そんなことに気付きもせずハデスは心配そうに声をかけた。


「顔色が悪いけど本当に大丈夫…？　具合が悪いんじゃ…」

「いえっ、ぼくもともと青ざめやすい体質なんです。そ、それより先生…あの、えっと…」

「？」

「せ…せっかく偶然お会いできたことだし…その、しばらくご一緒させてもらってもいいですか？」


冷や汗をかきながらそう言うアシタバを見て、梓はお惣菜は諦めなきゃな…と思いながら口を開いた。


「先生、私もいいですか？　先生のこともっと知りたいので！」

「生徒に興味を持ってもらえるなんて……初めてだよ………教員生活史上初めて……」


涙をこらえながら喜ぶハデスに罪悪感を感じる２人だった。


「さあ…何が知りたい？　何でも聞いてね」


アシタバがチラリと見た先には…



―独身ですか？―



と書かれたノートが物陰から飛び出している。
そんなことは自分で聞いてくれと顔を赤くするアシタバだが、女性の影があるようには見えないことに笑みがもれた。


「逸人くん？」

「あ…」


声をかけられ振り向くと、そこにはゴスロリの格好をした女性が立っている。


「この風景にそぐわん人間がいると思ったら………やはり君だったか」

「今帰りで？」

「ああ、偶然だな」


梓とアシタバは顔を見合わせ小声で話している。


「ハデス先生に平気で話しかけられるってことはこの人知り合い？」

「だと思うけど……さっき"逸人"って言ってたよね、それって………」



ハデス先生の下の名前！！



「あ…あの、ハデス先生」

「まさかとは思うんですけどこの人は…？」

「？　いや…まさかも何も、この人は…」

「ああ、自己紹介がまだだったね。三途川 千歳が本名になる。今後ともよろしくね」

「あ！　ど、どうも…はじめてまして」

「こ…こちらこそよろしくお願いします」


２人でお辞儀をし、まさか本当にハデス先生の恋人か！？と思いアシタバは鏑木を振り返ると…



―続行―



と、書かれていた。



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