ポツリと呟いた言葉に藤の顔色が変わる。


「な…何の話だよ」

「さっき板長さんに会ってね、言われちゃった。
"最近は中学校で習う漢字減りましたね"って。
麓介、国語の夏期テキスト……どうした？」

「どうしたって…そりゃ……」

「山蔵さんは知ってるのかな～」


ニコーっと笑って言えば、藤は悔しそうに歯を食いしばる。


「わ……わーったよ！！　行けばいいんだろ！　行けば。でも浴衣はぜってぇ着ねえからな！！」

「ありがと。じゃあ甚平にしとく？」


しばらくしてやって来た花巻と真哉に梓が、美作にお婆が浴衣の着付けを施した。


「どうかな？　お婆ちゃん」

「ああ、上手だよ。後は……髪も少し結わおうか…」

「あの～」


真哉達の髪型を考えていると、若い仲居が顔を覗かせた。


「お友達がお見えになりましたよ」

「あっ、たぶんアシタバくんだ。私行ってくるね」


２人を任せて部屋をでる。


「あれ？」


アシタバを迎えに行くと、そこにはアシタバとアシタバの妹である頼子、さらには異界堂の店主の孫娘のしおりが立っていた。


「頼子ちゃんにしおりちゃん！？　どうしたの？」

「いや…自分たちも行きたいって……よ、よかったかな…？」

「いいんじゃない、多い方が楽しくて」

「で……浴衣も着たいって…」


そう言ってアシタバは申し訳なさそうに２人分の浴衣を見せた。

｢いいよ｣と言うと２人は目を輝かせた。


「い、いいの？」

「うん、こっちの部屋にみんないるから」


アシタバ達を連れて部屋へ戻ると、花巻は浴衣に合わせた桜の髪飾りを、真哉は長い髪をアップにまとめ上げていた。


「お婆ちゃん、この子たちも浴衣着せてもらってもいい？」


頼子達を見てお婆は嬉しそうに頷く。


「もちろん。こうやって若い子達が着物や浴衣に興味を持ってくれるのは嬉しいことだね…」


そう言ってお婆は頼子としおりの着付けの為、男子達を外に出した。

しばらくして、浴衣に着替えた頼子としおりを連れ梓達は外に出た。



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