「ハデス先生の素性？」


放課後、保健室の掃除に来ていた梓は箒（ホウキ）を手にしたままそう答えた。


「そう！　いくら何でも謎が多すぎると思わない？
いっつも保健室にいる梓ちゃんなら何か知ってると思ってさー」

「藤くんや美作くんに聞いても何にも知らないって言うし…」


アシタバは本当は梓にはえていた耳や尾、深紅に染まった瞳について聞きたかったのだが…


「う～ん……あんまりよくわかんないなあ…ごめんね」

「そっか～まぁ予想はしてたけどね」

「やっぱり直接本人に聞くのが一番じゃ…」


口をはさむアシタバに鏑木は｢それができるならはじめからそうしてる｣と言い切った。


「もう、こうなったら最後の手段しかないわね。ちょっと気が進まないけど…梓ちゃん、ありがとね」

「あっ、うん………最後の手段？？」


疑問を残し鏑木はアシタバを連れて去っていった。





ーーーーー

家に帰った梓はほとんどカラに近い冷蔵庫の中を見つめ頭を捻る。


「夕飯どうしよう…あっ、今からお惣菜屋さんに行けばちょうど夕方割引に間に合う」


そうと決まれば、と梓は着替えを済ませカバンを手に家を出た。
商店街までやって来ると見覚えのある白衣の男が歩いている。


「ハデス…先生？」

「おや、梓さん…」


ハデスはゆっくり振り向き微笑んだ。


「お買い物ですか？」

「ああ、明日みんなにお茶菓子をと思ってね。梓さんこそ買い物かい？」

「はい、そろそろお惣菜屋さんの夕方割引の時間なんで……」


ふと、背後からの視線に気付き２人で振り返ると物陰からアシタバが突き飛ばされるように転がり出てきた。


「あ…アシタバくん！？」

「ずいぶん派手に転んだね…大丈夫？」

「!!!　あ…せ、先生、牙狼さんも！？　ハハ…どうも、偶然ですね」


困惑した顔で振り向くアシタバに合わせるように梓がゆっくりと視線を向けると…



―情報を引き出して―



と書かれたノートが見えた。



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