先程の場所に顔を出すと、まだ残っていた鈍と経一が驚いた顔で梓を見る。


「帰ったんじゃなかったのかよ」

「どうしたのかしら～～？」


梓はふらつく足取りで２人に近付き、鈍の前で足を止めた。


「蛇頭さん、今日はありがとうございました。助けに来てくれて、ハデス先生に…冷血（クルエル）を返してくれて…」


深々と頭を下げる梓に鈍は少し目を見開いた後、フッと笑みをもらし耳元に口を寄せる。


「本当にそう思ってるなら～～………って言って？」

「えっ…えぇっ!!？　わ、わかりました」


梓は頬を赤らめ息を吸い込んだ。





ーーーーー

ハデスは早足で今来た通路を戻っていた。
それは藤の｢梓は？｣と言う一言からだった。

先程の場所で鈍が梓に何かを囁いた後、驚いた顔で頬を赤くする梓にハデスは思わず駆け出した。


「鈍のやつ…梓さんに何を…！？」


次の瞬間、梓の口から出たのは……


「助けてくれてありがとう、鈍ちゃん。だ、大好き！」

「……かわいい…」


ムギュっと抱きしめられる梓の後ろでハデスのずっこける音が盛大に鳴り響いた。


結局、三途川の車は破損が酷くタクシーで帰ることになった。
帰りのタクシーの中どんよりとするハデスをなだめつつ梓の家に着く。


「梓さんで最後だから僕は歩いて帰るよ」

「ハデス先生、今日は本当にありがとうございました」


梓の言葉にハデスはわずかに眉間にシワを寄せる。


「ハデス先生？」

「あっ…ああ、いや…梓さん今日はゆっくり休んでね」

「？　はい…ハデス先生も…」


本当は聞きたい事があった。何故肩の傷が消えたのか、あの銀髪の姿は何なのか。
だが、それを確かめるにはお互いに身体を酷使しすぎていた。

何も聞かずに去っていくハデスを見送り、家に入った梓は急激な眠気に襲われた。


「あれ……何か眠………」


梓はその場に倒れ込み深い眠りについた。


【浄化（ピュアリファイ）……本当は目覚めさせる気はなかったんだがな…】


姿を現した獄狼（ケルベロス）は誰に言うでも無く呟くと、梓をベッドへと運ぶ。
その表情はどこか憂いを含んだものだった。





To be continued...