Short stories

恋人が出来たからって、勝負下着にまで頭が回らない(いつそんな雰囲気になってもいいようにデートの時はキメパン履くなんて考えもしなかった)しんちくん。

 12も年上の男と晴れて恋仲になって、数カ月。

 ドライブの帰り、彼が突然「僕の家に来ないか」と誘ってきた。初めての、お宅訪問。ハイテンションで一も二もなく頷いた。


「ちょ、ちょっとタンマ!」
 キスからの流れでシャツの下に手を差し入れてきた恋人の、ガッチリとした肩を渾身の力で引き剥がした。
「今日はダメだ!っつーか無理!」
 む、と濃茶のつり上がり気味の眉が顰められると、逆ハの字の圧が凄い。タレ目のくせに、眼圧だけは強いから負けそうになる。
「なんで?生理?」
「は?……なっ、」
 バーロー!とがなって足でゲシゲシと脇腹を蹴った。そういう親父ギャグみたいなの、全然笑えねえ!
「とにかく、ダメなもんはダメなんだって!心の準備もまだだし――」
「いきなり最後まではしない。抜きあうだけでもいいし、なんなら僕がフェラしてもいい」
 端整な顔立ちの、薄い唇が紡ぐ卑猥な言葉に、顔がかぁと熱くなる。
「や、あの、」
 薄褐色の肌よりも若干赤みがかった唇。ついつい引き寄せられた視線の先で、ぺろり、と舌先が覗いた。
「……っ!」
「想像、した?――――しんいちくん、えっちだね」
 右の人差し指がデニムとパンツの間にくい、と割り込んだ。少しでもめくれたら、履いてる下着が見えそうだ。……というところで、我に返った。
「だーーッ!!進入禁止!駐停車違反!レッドカードで即退場!!」
 支離滅裂な事を叫んでる自覚はある。でも、何が何でも今日は無理。

 だって、だって、

「可愛いクマのぬいぐるみ柄だから恥ずかしい?」
 へっ、と間抜けな声が漏れた。
「同じ男だから、こんなシーンでそんな可愛いパンツだなんて、そりゃあ確かに抵抗もしたくなるだろうけど、大丈夫。安心していいよ」
「なっ、なっ……!」
 なぜバレたし。あとそこまで分かってんなら空気読めよ。こっちだってムーディにコトを進めたい男心があんだよ、バーロー。
 一気に押し寄せた抗議の言葉が飛び出す前に、恋人は「お互いに今日こうなるとは考えもしなかったからね、僕もインナーに気を遣ってないんだ」とベッドの上で膝立ちになり、スラックスのホックに手をかけた。
 ジ、とジッパーが下がっていく。その下から現れたのは、白。
 えっ まさか、ブリーフ派!?この色黒金髪ハーフのイケメン、白ブリーフ履いてんのかよ!?
 はわ、と意味不明な息が漏れた。思わず両手で口を抑える。

 固唾を飲んで見守る中。目の前に曝け出された光景に、息をするのも忘れて見入ってしまった。

「あんまりジロジロ見られると恥ずかしいなぁ」

「………………フンドシ」

 褌。FUNDOSHI。

 ふんどし?


「結構流行ってるよ。褌。君も履いてみるかい?」

「お断りします」





「新一君の好みっていまいち掴めないな」
「俺のシュミじゃねー。貰ったの!」
「このクマさんは、蘭姉ちゃんのチョイス?」
「ち、ちげー!なんでだよ。母さんだよ!こういう可愛い柄のパンツ見つけると送ってよこすんだっての!」
「有希子さんの…道理で。ちなみにこれ、一枚4000円のブランド物だって、新一くん知ってた?」

「よんせんえん!?」


 テディベアといえばイギリス、イギリスといえば赤井ファミリー。なので意地でもテディベアと言わずにクマさんで通す降谷さんと。

 そんなことに気付かず別の日にまたうっかり星条旗柄のトランクス履いてた日に成り行きで初夜リベンジ仕掛けられてまたしても失敗に終わり、後日自宅に届いた大量の和柄トランクスにドン引きした新一くんと。


 二人の描く理想的な初夜が訪れたのは、半年も後の事である。




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