Short stories

デートの時間に少し遅れてしまって、待ち合わせ場所へと足早に急いだ。でもトレードマークのとさかが見当たらない。その理由は人混みの中、被っていたキャップのつばをくいと上げてこちらを見てにやりと笑ったことで解明された。
「ごめん。待たせた」
「いーよ、降谷さんもお疲れ様」
「帽子、新しく買った?」
「へへっ似合う?」

昨日、ひと目で気に入っちゃって。降谷さんに見せたかったんだと浮かれる新一に、自然と頬が緩む。
「久しぶりのデートだから、昨夜は眠れなかった?」
「エッ」
図星をそのまま顔に書いたような新一の、後頭部に手を伸ばす。
「寝坊して、慌てて買ったままの袋から出して被ってきたね?」

ゆらゆらと揺れる小さなタグをつついて、わざと意地悪い笑みを口の端に乗せた。
帽子のつばの陰で、赤く染まった目元がほんの少し扇情的だなんて言えなくて、僕は自分が被っていたキャップを代わりにして、タグを切ってあげた。
(それでも結局僕が我慢できなくて、お家デートに縺れ込んだのだけど。)


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