Short stories



「もう、終わりにしよう」
 降谷が静かに告げたその言葉を、新一はむずがる子供のように嫌々と首を振った。
「だってまだ始まったばかりだろ?」
 縋るように見つめる新一の目尻に浮かぶ涙は、紛れもなく本物だ。降谷は新一の右手に自分の手をそっと重ねた。
「いや……これ以上は僕が耐えられない。どうか解ってくれないか」
 すん、と小さく鼻を啜る音。新一は項垂れ、肩から力を脱いた。
「……わかった。これで終わりにする。今までたくさん迷惑をかけちまったし。零さんの気持ちもわからなくはねえし」
「ありがとう。これで、」
 新一の手からやんわりと奪った包丁は関孫六の切れ味めっちゃ凄いやつ。まな板の上に不揃いに散らばった玉ねぎはまるで下手くそな惨殺死体のように、硫化アリルの臭いを強く放つ。おかしいな、玉ねぎの臭いすら発生させないくらいの切れ味が売りの包丁なのに。降谷もまた鼻をスンと啜って、新一と場所を入れ替えた。
「今夜のホワイトシチューがレッドシチューになる前でよかった」
「次こそ!次こそは失敗しねぇ!」
「そうだな、明日帰りに子供用包丁を買ってきてあげるから。それでたくさん練習してくれ」
 ――こうして慌ただしい金曜の夜は過ぎていった。
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