Only and Only
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「ところでユーリ〜?恋してるでしょ〜?」
「んぇ?」
にまにまとした笑顔で唐突に問われた結理は、頬張ったばかりのオムライスを咀嚼しながらしばらく黙った。
問うた相手、いつものように突然現れるなり結理をカフェまで連行して恋バナを始めた偏執王アリギュラは、そんな少女を楽しげに眺めて返答を待っている。
やがて、口の中のものを飲み込んだ結理は困惑を隠さずに返答した。
「……いや、してないですね」
「え〜?今の間怪し〜」
「なんかそれっぽいことあったかなー?って思い返してただけですよ」
「なんかあったでしょ〜?」
「…………あー……」
再度問われて、結理はここ最近を思い返しながら偏執王に話題を提供するのと、このまましらばっくれ続けるのとどっちが面倒か天秤にかける。どう転んでも面倒なのには変わりないが、幾分マシな方に傾く。
「……恋してるかはおいといて、前に後輩に告白っぽいことはされました」
「っきゃ〜〜!!それでそれで!!?」
「友達で後輩ですって返しました」
「な〜んでよ〜〜〜〜!!!!」
お望みの話題に歓声を上げた偏執王は、結理の即答を聞くなり全力で不満をあらわにした。少女に詰め寄って両肩を掴み、前後に揺さぶる。
「うわわわ……」
「せっかく〜!好きって言ってくれる奴が現れたのに〜!!な〜〜〜んで断るのよ〜〜〜!!!!」
「うぇ……だ、だって……向こうも勢いで言っちゃった感あったし、そうゆう方面でなんとも思ってないのは本当だし……ちょ、あの……揺すんないで……」
「他に好きな奴がいるってこと〜〜〜!?」
「いませんってば…!」
やっぱり面倒なことになったと、結理は胸中で呻いた。揺さぶるのをやめた偏執王はわざわざ椅子を引いて結理の隣に座ると、不満げに少女の膝をつつく。
「その後輩〜いい感じだったんでしょ〜?」
「え、そこ掘り下げます…?」
「ね〜?そいつどんな奴〜?イケメン〜?」
続けようとされた結理は遠慮なく嫌そうにしかめた顔を向けたが、偏執王は構わずに畳み掛けてきた。こうなってしまえばもうどれだけ拒否しても徒労に終わるどころか、機嫌を損ねてしまったら稀代の厄介者に辺り一帯を廃墟にされかねない。やや長いため息をついてから、仕方なしに答える。
「イケメン……ですね、多分……」
「……ハマーより~?」
「省いたらって意味ですよ。ハマーさんは別格でしょ?」
「そんなの当たり前でしょ〜それで〜?どんな奴〜?」
「どんなって……真面目で、優しくて、気遣いもできて……」
「え〜……フツウ〜……」
「アリギュラさんの基準じゃ皆普通になりますよ……とにかく、いい人ですよ」
「いい人ならオッケーしちゃえばよかったじゃ〜ん!」
「いやだから、ただの友達で後輩でしかないですし……」
「そ〜ゆ〜とこから〜恋って始まるじゃな〜い?」
「始まりませんて」
「でもさ〜?ユーリにとっていい人なんでしょ〜?」
幾分トーンを落とした偏執王は、そう言いながらいつの間にか自分の所に引き寄せていたクリームソーダをかき混ぜる。
「本当に友達止まりでい〜の〜?」
「はい」
「即答しな〜い!」
「ええ、だって……」
「ユーリは鈍感すぎ〜」
「……そうですか?」
何となく話が変わった気がして尋ねるが、偏執王はちょうどクリームソーダを飲んでいたので返答はなかった。
代わりに自問する。自分はそんなに鈍感だろうかと。
少なくとも能力も相まって敵意や悪意には敏感な方だという自負はある。その派生で好意の類もそれなりに察することはできる。そういえばそんなことを事務所で話した時に、何故かその場にいたクラウス以外の面々からため息をつかれたがあれは何だったのだろう?
考えている内にクリームソーダを飲み切った偏執王が詰問を再開した。
「勢いで言ったって〜そいつがユーリに恋してんのは〜変わんないでしょ〜?それで〜ユーリがそいつをいい奴って思ってんのも〜事実じゃ〜ん?だったら何の問題もないでしょ〜?」
「問題しかねえですよ。大体その後またアプローチされたとかもなかったし、向こうは向こうで勘違いだったんですよきっと」
どこまでも恋バナに繋げたい偏執王に若干以上辟易しながらも、結理はそう言い切った。それを聞いた偏執王は、心底から呆れたように口元を曲げる。
「なんか〜そいつが可哀想になってきた〜」
「???何でですか?」
顔も名前も知らない相手に同情する偏執王に、結理は訳が分からずにそう返していた。
(わたしが、ツェッド君に恋?ある…?ないよなあ……)
夕方近くの事務所で書類の仕分けをしながら、結理はそんなことを考えていた。偏執王に指摘されたことが何となく引っかかってしまっている。それで仕事の手が止まることはないが、頭の片隅ではずっと思考していた。
(逆にツェッド君がわたしに……もなさそうだよなあ……好意があるって言ってたけど、その後は特に今までと変わんないし)
勢い余って言葉選びを間違えたといった風だったので、牽制も含めて気付かないふりをしたのは不正解ではなかったのだろう。
自分にとってツェッド・オブライエンとはどういった人物だろうと、結理は改めて考えてみる。
よく口にする通り後輩であり友達だ。牙狩りとしては先輩でもある。真面目で理知的であるが堅物ではなく、好奇心もそれなりに強い。他者を気にかける優しさを持ち、この異界都市で問題なく生きていけるくらいに腕も立つ。そこまで考えて「優良物件じゃ〜〜ん!」と聞こえた幻聴は頭の後ろ辺りを手で払って霧散させる。
確かに好ましい人柄だ。師を同じくするクズでSSな兄弟子とは正反対と言ってもいい。交友関係が増えれば浮いた話も出てきそうだ。
(いい人なのはそうだよなあ……)
何かとトラブルに巻き込まれる自分を心配してくれるお人好しでもあるなと、結理は苦笑をこぼした。けれどそれはレオに対しても同じだし、トラブルに巻き込まれて負傷する自分を説教するのはツェッドだけではない。
これからもよき友人でいられれば、これ以上の幸いはないだろう。そう思う程度の好意なら結理にもある。
「恋……は、ないかなあ……」
恋バナに付き合わされすぎて変な影響を受けているかもしれないと胸中でぼやいて、少女は仕分けの終わった書類をストッカーに入れた。
本日はライブラの新年会が催されていた。
幹事二人がもぎ取った超人気店、天空楼閣バー『虚居』のフロアは多数の構成員で賑わっていて、近況を語り合ったり他愛もない雑談をしたりとで、各々盛り上がっている。
そんな中に結理もいた。料理に舌鼓を打ちつつ馴染みの構成員達と談笑したり、初めて顔を合わせる構成員と親睦を深めたりと会を楽しんでいる。会話も一段落し、次は何を食べようかと考えていると、少し離れた所に見知った顔を見つけた。
「ツェ……っと……」
呼びかけようとした結理だったが、ツェッドが誰かと話しているのに気付いて声を引っ込めた。話しているのは結理も顔見知りの構成員だ。新年会にツェッドが参加すると聞いて、一度会ってみたかったと声を弾ませていたのを覚えている。会えたのかと頬を緩めていると、他の構成員もツェッドに話しかけていた。
(……わたしは後でいいよね)
自分は彼等よりツェッドと接する機会は多い。邪魔をしてはいけないなと、結理はこっそりその場を離れた。
「ユーリっちー!」
声をかけられたのは、バーカウンターでフィッシュアンドチップスを受け取って、座れそうな席を探している最中だった。振り向くと見知った顔が少し離れたテーブル席から手を振っている。
「あ!K.Kさん!」
ぱっと表情を輝かせた結理がすぐさまテーブルに向かうと、そこには少女を呼んだK.Kの他にチェインとニーカもいた。
「みんなで休憩ですか?」
「プチ女子会ってとこね。ユーリっちも座って座って!」
「はーい!失礼しまーす!」
促された結理はうきうきと席に着く。チェインの前には空のグラスが複数個並んでいて、ニーカの前には皿がいくつか積み上がっていた。
「虚居ゲットしただけあって中々な集まりになったわねー」
「はい!ご飯もおいしいし幹事サマサマですね!それに普段会えない人とも会えて、いい情報交換にもなってます!」
「こういう時じゃないと顔見せない奴もいるしね」
「でも一段落つくとこうやって顔馴染みで集まっちゃうのよねー!」
「分かります!」
「飲み会もご無沙汰でしたもんね」と答えながら、結理はフィッシュフライをかじる。ライブラでは不定期に飲み会が開催されるが、ここ最近は年の瀬の忙しさや度々訪れる世界の危機への対処とで各所を駆けずり回っていて、今回の新年会のように集まれたのも久しぶりだった。それ故か、参加者達はいつもより浮足立っているようにも感じる。
「一分後にどうなるか分かんなくても、こうゆうのって大事ですよね」
「ユーリ、フィッシュフライとフリット交換しよう」
「いいよ」
「お?ツェッドっちー!こっちよー!!」
しみじみと息をつきながらニーカと料理の交換をしていると、K.Kが離れた所に向けて手を振った。結理達も同じ方向を見ると、ツェッドがやや小走りでこちらにやってくるところだった。
「皆さんここにいたんですね」
「ちょっと休憩ってとこね。どう?楽しんでる?」
「はい。色んな人と交流ができています」
「うんうん、よしよし」
ツェッドの返答に満足気に頷いたK.Kは、何故かそそくさと立ち上がった。チェインとニーカも同様に立ち上がりながら、テーブルの上を片付け始める。
「え、どうしたんですか?」
「休憩も終わったことだしアタシ達は退散するわー」
「人狼局の同僚も来てるんだよね」
「パトリック探してくる」
怪訝そうな結理にそれぞれ答えると、三人はツェッドの肩や背中をぽんと叩いてから賑わいの中に消えていった。何故だろうと思いつつツェッドを見ると、当の本人は何とも言えない表情で去っていく女性陣を見送っている。
「なんかあった?」
「!いえ、何も……」
「……そっか。まあ座って座って!」
尋ねると何かありそうな否定が返ってきたが、踏み込まれたくなさそうだったので流すことにして、ツェッドを空いた席に促した。ツェッドは若干躊躇うような間を置いたがすぐに「失礼します」と結理から少し離れた隣に腰かける。
「どう?色んな人と会えた?」
「はい。皆さんから聞いていた方とも話せました。こんなにメンバーがいるんですね」
「わたしも知らない人がいっぱいいてびっくりしてる。やっぱ新年会だからかなあ…?」
「……ありがとうございました」
「え?」
突然お礼を言われ、結理は怪訝そうに瞬きをした。ツェッドは居住まいを正して少女に向き直る。
「結理さんや皆さんがエアギルスを取り返してくれたおかげで、こうして新年会に参加することができました。感謝してもし足りないくらいです」
数日前、ツェッドは謎の二人組にエアギルスを強奪される事件に襲われていた。特注品の為紛失すれば一ヶ月は水の外での生活がままならなくなるという事態にザップを筆頭とした面々が解決に乗り出して、無事に奪還することができて今日に至っている。
改めてお礼を言われた結理は、若干気まずそうに視線を逸らす。
「あー……まあ、わたしはなんか違う憂さ晴らしも兼ねちゃったとゆうかなんとゆうか……でも取り返せてよかったよ。じゃなきゃこうして楽しく話せてなかったし」
「そうですね」
ふふと笑みをこぼすと、ツェッドもつられたように笑った。その顔を見て、本当によかったと実感する。
ツェッドが新年会を楽しみにしてたことは知っていた。水槽にチラシを貼り、カレンダーを見る頻度が少しだけ増えていたのを見かけていて、だからこそ先日のトラブルは許し難かった。幹事の要請がなくとも取り返しに殴り込みをかけていただろう。
「結理ー!」
そんなことを考えていると、後方から声をかけられた。見ると顔馴染みの構成員がこちらへ歩いてきているところで、知った顔に結理はぱっと表情を輝かせる。
「アーシャさん!」
「結理も新年会来てたのね!あれ?そちらは……」
「はい!新人……って言うにはもう結構経ってますけどツェッド・オブライエン君です」
「ああ貴方が!よかったー!新年会に出るって聞いてて会ってみたかったの!私以外にも貴方に会いたいってメンバーが集まってるから、よかったら向こうで話さない?」
「え……」
「行ってきなよツェッド君」
アーシャの提案に戸惑う様子を見せたツェッドに、結理は軽く背を叩いて促した。
「こうゆう機会ってあんまりないし、アーシャさんのグループならきっと話も合うから」
「……はい、それなら……」
「決まりね。じゃあ結理、ちょっと彼を借りてくわね」
「はいごゆっくりー」
笑いながら手を振った結理は、ツェッドとアーシャを見送った。視線の先にある立ち飲みテーブルには数名の男女が集まっていて、ツェッドが合流するとすぐさま盛り上がりを見せた。どこか気後れしている風だったツェッドも、すぐに肩の力を抜いたように雑談に応じている。彼の人柄の良さなら彼女達ともすぐに打ち解けるだろうと結理は息をついた。
輪の中にいるツェッドへの気持ちは安堵だ。彼がライブラの一員として他者から受け入れられている姿を見るのは嬉しい。
そのはずなのに、女性構成員と話すツェッドを見て、
心の片隅がもやついた。
(もや…?)
そんな自分に結理は首を傾げた。ツェッドの交友関係が広まるのは喜ばしいことだ。それが同じ組織に属する者なら尚更いいことだと思う。だというのに、まるでそれが不満かのようなもやつきを抱える自分が不可解だった。不満などないしあっていいはずもないのに……
(変なの……)
「ウェーイつるぺた〜!こんなところでボッチ飲みか〜?」
「うわっ!ザップさん!?」
胸中を疑問符だらけにしていると、不意に後ろからのしかかられるように肩を組まれた。振り向くと顔を真っ赤にしたザップがへらへら笑いながら酒瓶を傾けている。
「ちょっとザップさん……飲み過ぎですよ!」
「こーゆー会で飲まねえでどうすんだよー?お前もスカしてねえで飲め飲め!」
「わたしお酒飲めないですから。てゆうか離れて…!」
今夜は絡み酒らしい酔っ払いの顔を押し返すと、視線を正面に向けたザップは見知った顔を見つけたらしく、勝手に納得したように組んだ肩をぺしぺしと叩いてきた。
「んあ?なんだ魚類に置いてかれて寂しかったってかー?」
「違いますから…!あーもーめんどくせえ酔っ払いだなあ…!!」
「そーゆー時こそ飲むんだよ!あーそれもらいやす!」
「だからお酒飲めねえっつってんでしょうがこの唐変木!!」
ウェイターから受け取ったグラスを突きつけられて拒否をしたが、ザップは特に機嫌を損ねることもなくまた肩を叩く。
「ジュースだよじゅーす!!おこちゃまにゃちょーどいいだろぉ?」
終始ご機嫌そうに笑うザップはある程度絡んで満足したのか、山吹色の液体がなみなみと注がれたグラスをテーブルに置くと少女から離れてバーカウンターの方に歩いていき、今度はレオに絡みだした。
なんてはた迷惑な……と盛大に顔をしかめた結理は、八つ当たり気味にザップが置いていったグラスを呷る。彼が言った通り味はオレンジジュースで、酔っ払いのくせに気遣いはできるのかと思いつつ一気に三分の二ほどを飲んだ。
「……っ……あ、れ…?」
視界がぐにゃりと揺らいだのはその直後だった。何故か頭がふわふわとしているのに重く、体が熱い。立ち上がろうとしても足に力が入らず、急激な眠気に襲われてまぶたが勝手に落ちていった。
疲れているのだろうかという疑問を最後に、結理の意識はそこで途切れた。
「それにしても、本当に聞いてた通りね」
「え?」
歓談が盛り上がっている最中、しみじみとそう言われたツェッドは怪訝そうに発言者を見た。
「結理がよく貴方の話するのよ。とってもできた後輩だってね」
「そうだったんですか」
「うん」
「私も聞かされたよー!ザップと真反対の真面目だってベタ褒め!」
「結理がここまで人のこと話題に出すのって珍しいよね」
「ねー?」
頷き合った女性二人は機嫌よくグラスを合わせた。酔いが回ってきているのか話し始めた時よりもご機嫌で、二人で徐々に盛り上がっていっている。
「いやーでも分かる!オブライエン君みたいな真面目ないい子うちにも欲しいよ」
「アタシらんとこゴロツキ多数だもんねー」
「オブライエン君いたら仕事回りそー!」
「引き抜きたーい!」
「マジでスターフェイズさんにお願いしてみようか!」
「あの、流石にそれは」
流れが変わり始めた気配を察して止めようとしたツェッドだったが、不意に後ろからぶつかられて言葉を中断した。振り返ると見慣れた黒コートの少女が腰に抱きついて、ツェッドは思わず固まる。
「…………結理さん…?」
「……らめれす」
呼んでから、結理の様子がおかしいことに気付いた。ここまでのスキンシップを取ってくることもそうだが、顔が紅潮していて目が据わっている。他の面々も少女がいつもと違うことに気付いて、驚き混じりの警戒したような目を向けた。
「つぇっろくんはわらしの大事な後輩なんれらめれすよぉ……」
「結理……酔ってる?」
「真面目でいい子らから好きになるのはわかりまひゅ。けろつぇっろくんはわらひの後輩なんれらめれす」
心配そうな問いに答えず呂律が回っていない口調で言い切ると、結理はツェッドを見上げて蕩けた笑顔を見せた。
「つぇっどくんらい好きだよ〜」
突然の告白にツェッドは再度固まり、へらへら笑う結理をただ見下ろすことしかできない。今現在の状況が突拍子もなさすぎて正確に把握できなかった。もしかして自分も酔っているのだろうかと思考があさっての方向へ飛んでいく。
「ちょっと!これとんでもなく強い酒じゃん!!」
「誰よ結理にこんなの渡したの!!」
「わたしはね〜?つぇっどくんにしあわせになってほしいんだ〜」
手に持っていたグラスを取り上げられたことにも、残っていた中身が何かを知った周囲が騒ぎ出しても、結理は構わずにツェッドに語りかける。
周囲に何もないかのように、少女はツェッドだけを見つめていた。
「つぇっどくんはいい人で〜つよくて〜かっこよくて〜真面目で〜やさしくて〜ずぇ〜ったい、色んな人がほっとかないから〜きっとそのうち恋人とかできるんだろうね〜」
「……っ……」
「でも〜つぇっどくんが誰かとお付き合いしても〜ず〜っと友達でいてほしいなあ~」
「……その誰かが」
意味がない、駄目だと分かっていても、ツェッドは少女に向き直っていた。今の結理はどう見ても泥酔している。言葉に信憑性はないしこちらの話を認識できるかも怪しい。
けれど酔いは本音を引き出すとも言う。
だとすれば……
「僕とお付き合いする誰かが、貴方では駄目ですか?」
そんな真偽不明の誘惑が、ツェッドに問いかけさせていた。水を持ってきたアーシャが驚愕に目を見開き、相棒と顔を見合わせる。騒ぎに気付いて野次馬気分で楽観していた周囲も、ツェッドの問いを聞いて思わず真顔で沈黙した。少女の返答次第では、この場は地獄にも天国にも変貌するであろうと、誰もが感じ取っていた。
「うーん……」
まるで爆弾の解体作業をしているような緊張感の中、当の本人は問いの内容を吟味するようにふらふらと首を左右に倒す。
やがて、少女はにこにこ笑いながら答えた。
「ツェッドくんは〜大好きな友達で大事な後輩だよ〜?」
「……………………………………………そうですか」
どうにかできた返事は、それだけで周囲を押し潰せてしまえそうなほど重苦しい響きだった。野次馬達もいたたまれない顔で見ていることしかできず、何人かは自分が意図せず犯罪を犯してしまったかのように顔を真っ青にしている。
そんな空気にただ一人気付いていない結理は、上機嫌な様子でツェッドに抱きついた。
「えへへ~ツェッドくんだいすきだよ〜」
その好意は、今のツェッドにとってはどんな刃物よりも鋭く、どんな責め苦よりも心を抉るものだった。
酔いは本音を引き出すという。
だとすれば、これが混じりっけのない少女の本音なのだと、無慈悲に突きつけられた。
「……あの、オブライエン君……」
「……彼女をお願いします」
酔い潰れて眠ってしまった少女を引き渡して立ち去るツェッドに、誰も声をかけることができなかった。
