Only and Only
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「さあ!ネタは上がってるのよ!とっとと白状なさい!!」
「……えっと……」
詰め寄られたツェッドは、テーブルを挟んだ向こうで仁王立ちしているK·Kを戸惑った表情で見上げた。
いつものように起こった世界の危機にいつものように総出で立ち向かい、いつものように騒動を終結させて事後処理も終えた少し後、ツェッドはK.Kを筆頭とした女性陣に事務所近くのダイナーに連行されていた。よく分からないまま連行され、よく分からないままひとまずと各々注文したものが届いてから詰問の態勢をとりだしたK.Kに、恐る恐る質問を投げる。
「一体何の話ですか…?」
「ズバリ!ユーリっちに恋してるでしょ!?」
「え!?あ、はい」
「やっぱりー!」
「…………そんなに分かりやすいですか?」
尋ねると全員から即答で頷かれて、ツェッドは思わず頭を抱えてうなだれた。結理とはいつも通りに接していたつもりだったのだが、端から見ればそうでなかったようだ。それからふと最悪の予感がよぎって、再び恐る恐る尋ねる。
「……あの、結理さんはこの事を……」
「全然気付いてないんじゃない?結理って人の感情に敏感なくせに恋愛事にまあまあ鈍感だし」
「ならいいんですが……」
「なんにしろいいじゃないいーじゃなーい!そうこなくっちゃー!!」
複雑そうな表情のツェッドに構わず、K.Kは一転して破顔しながら座り直した。戸惑いっぱなしの当人をよそに、若人達の恋愛事情に興味津々といった様子でうきうきと尋ねる。
「それで?告白はしたの?手ぇ貸してほしかったら遠慮なく言いなさい?いくらでも協力するわよー!」
「いえ、告白するつもりは今のところありません」
「…………は?」
が、返ってきた言葉に表情を歪めた。目の前のドリンクに視線を落としていてK.Kの変化に気付いていないツェッドは続ける。
「結理さんは僕のことを友人で後輩としか思っていませんし、無理に関係性を変えるなら今の距離感で十ぶ」
「はああああっ!?」
最後まで言わせずに、K.Kは椅子を鳴らして再度立ち上がった。何事かと一瞥する周囲の客をものともせずに詰め寄られたツェッドは、その圧に思わず及び腰になる。
「なーによその弱気な姿勢は!!好きな子がフリーですぐ近くにいて告白もしないってどーゆー了見よ!!?」
「まーまー姐さん」
掴みかからんばかりの勢いのK.Kを、既に一杯目を空にして二杯目のジョッキを注文したチェインが止めた。不満を顔全面に出したK.Kがひとまず止まってくれたのを確認してから、チェインはツェッドに問いかける。
「結理がツェッドのこと友達としか思ってないって、直接言われたの?」
「……はい。大好きな友達で自慢の後輩だときっぱり……」
好意を伝えた時のことを思い出して、ツェッドはうつむき気味に答えた。チェインの介入で一旦落ち着いたK.Kと、二杯目のジョッキを半分空けたチェインは、そんなツェッドの様子をうかがいながらといった風に話を聞いている。
「……結理さんはきっと、特別な一人を作らないんだと思います」
僅かに躊躇いながら、だが確信を持ってツェッドは考えていたことを口にした。
「僕達(ライブラ)のことは気の置けない仲間として、特別な存在だと思ってくれているのは分かります。けれどその中から更に一人は選ばない。僕達のことを信頼していても、どこか線を引いているように感じるんです」
「あ、それなんか分かる。ユーリって人懐っこいけど自分からは甘えてくんないのよね」
「人に頼るの下手くそだよね。結理って」
ツェッドの言葉にK.Kとチェインは同意の頷きを返す。件の少女はK.Kが評した通り人懐っこく振る舞ってはいるが、全てを明け透けにしているわけではなく誰に対しても明確な一線を引いている。まるで孤独であることを前提としたような境界線があることに気付いている者は少なくないだろう。
「……前に」
ぽつりと、事情聴取についてきていながら今まで我関せずといった様子で黙々と料理を平らげていたニーカが言葉をこぼした。三人分の視線が集まる中、ニーカはマイペースにメニューを開きながら続ける。
「ユーリからちょっとだけ聞いたことあるけど、今まで大事な人は作らないようにしてたらしいよ。全部失くしてからずっと根無し草で、HL(ここ)に来るまではこの先もずっとそうだろうと思ってたからって」
「……けどそれって、逆に言えば定住してる今は大事な人なりものなりを作るかもってことにならない?だとしたらチャンスあるじゃない!」
「だとしても、」
希望に表情を輝かせるK.Kに、ツェッドは表情を曇らせながら首を振った。
「僕は結理さんが引く一線に踏み込むべきではないと思います」
「ええーっ!どうしてよー!?」
「自分の感情を押し付けて無闇に線を越えて、彼女を傷つけたくありません」
「あー……うーん……そう言われちゃうとねえ……」
きっぱりと言い切られ、K.Kは勢いを削がれたように顔をしかめてエールを呷る。一気に中身を飲み干したグラスを置いて、やや不満の残っている表情で続けた。
「…………まあ、ツェッドっちがそれでいいってんならいいけどさ、アタシ達はこういう生業じゃない?毎日斬った撃ったして、誰かが死ぬのも殺すもの日常茶飯事で、今日この後死んじゃってもおかしくないような街で生活してる。まあタダで死んでやる気なんてひとっつもないけど、平穏平凡な人生じゃないワケよ」
グラスの縁を指でなぞりながら話すK.Kを、三杯目のジョッキを傾けているチェインも、追加の料理に手を付けたニーカも、口をつけていないグラスを両手で持ったツェッドも黙って見ている。
「でもだからって、人並みの幸せを求めちゃいけないなんてことはないわ。アタシも旦那と息子達がいて、家族で平穏に過ごせてる時もある。そういうのってとても大事なことよ。ま、よーするによ!」
ずいと乗り出したK.Kは真剣な、けれどどこか楽しそうな表情でツェッドを見据えて先達の言葉を投げる。
「後悔するような選択はすんなってこと!」
「…………はあ」
「あ!分かってない感じ!」
「っ!いえ、そんなつもりは……」
「とにかく何かあったら相談しなさい?全力で応援するわ!」
「結理の好きなものくらいならアドバイスできるよ」
「好みの店の情報なら知ってる」
「それは……ありがとうございます…?」
口々に協力の言葉をかけられたツェッドは、戸惑い混じりの返事をすることしかできなかった。
「で?あんたはどう思ってんのよ?」
「……何がだい?」
「ユーリっちとツェッドっちのこと!!」
「あー……」
「なーによその気のない返事は!?」
「あーいや……当事者同士で結論を出した方がいいだろうと思っててね。いらんアドバイスで拗れてもよくないし」
「見守ってないわけじゃないんでしょ?」
「そりゃあ……収まるとこに収まってお嬢さんが多少は大人しくなったらなあとは思ってるけど」
「あんたってどーしてそう……」
「何にしろ、若人って感じで眩しいよなあ……」
「…………ムカつく」
「何で!?」
いつかのどこかでそんな会話があったとなかったとか……
それはさておき、今日も今日とてヘルサレムズ・ロットは剣呑に平穏な日々を営んでいた。
「…………………………」
「あ、ツェッド君おつかれー」
「…………その子は……」
「この子?スポンサーのお子さんで、会合の間だけ預かってほしいって頼まれたの」
普段とはかけ離れた光景に呆然と尋ねたツェッドに、結理はにこにこ笑いながら答えた。腕には赤子が抱かれていて、自分を抱き上げている少女を不思議そうに見つめている。
「本当はシッターさんに預けるはずだったんだけど、急に来られなくなっちゃったんだって」
「成程」
「かーわいーよねー」
そう言って赤子をあやす結理はずっと破顔していて、心の底から可愛らしいと思っているのが見て取れた。可愛いのはあなたもですと出かけた言葉をどうにか飲み込んでいると、ふいに赤子がツェッドの方を向く。
ようやく他者の存在に気付いたらしい赤子は、驚いたように目を丸くするとすぐ様表情を歪めて盛大に泣き出した。
「!!?」
「わ、わ!知らない人にびっくりしちゃったかなー?」
慌てふためいて距離を取るツェッドとは対照的に、結理は苦笑しながらも慣れた様子で赤子を宥める。
「大丈夫だよー?このお兄さんとっても優しいからねー?」
「あの……」
「ああ、本当に大丈夫。びっくりしただけだから、ちょっとしたら落ち着くよ。ねー?」
おっかなびっくりといった様子で尋ねるツェッドに結理が笑顔で返した通りに、赤子は少女が揺らすリズムにつられるように少しずつ泣き声を小さくしていった。少女は腕の中の赤子を愛おしげに見つめながら、軽く息を吸ってから静かに歌を口ずさむ。
それは生まれた子を祝福する母親の歌だった。生まれたことへの感謝と、これからの幸せを心から願う。そんな思いのこもった歌だ。
そんな結理の姿に、ツェッドはしばらく見惚れていた。彼女は特に幼子に対して無償の慈愛を見せることが多く、よく懐かれている。まるで聖母のようだと思ってからはたと我に返り、惚れた弱みにしても流石に大仰過ぎると恥ずかしくなって、内心で自省する。
そうしている間に、祝福の歌を向けられていた赤子はいつの間にか寝入っていた。その後もしばらく様子を観察してから、結理は赤子を慎重にベビーカーに横たえさせた。そっと腕を外して赤子が起きないのを確認して、こっそり安堵の息をつく。
「……すみません」
「大丈夫だよ。赤ちゃんってどうあっても泣く時は泣いちゃうし」
小声で謝るツェッドに結理も小声で返し、ベビーカーから少し離れたソファに腰かけた。少し迷ってからツェッドも隣に座る。
「子供、好きなんですね」
「え?」
「とても慣れていたようだったので」
「あー、昔孤児院のお手伝いしてたことがあってね。まあ嫌いじゃないよ。たまに小生意気なのもいるけど可愛いし」
「歌もその時にですか?」
「あれはね、お母さんがよく歌ってたの」
そう言って、少女はくすぐったそうに苦笑をこぼした。
「歌うのが好きな人でね、ラジオとかテレビとかで聞いた歌をしょっちゅう鼻歌で歌ったり、音楽聞きながら家事したりして……歌う時は、いつも楽しそうだった」
「だから結理さんも歌が好きなんですね」
「え……そうかな?」
「はい。よく即興で歌ってますよ」
「……そ、そっかぁ……」
指摘された結理はどこか気まずそうに赤面した顔を背けた。どうやらしょっちゅう鼻歌をこぼしているのは無意識だったらしい。
「なんか恥ずかしいな……」
「それだけ、結理さんの中でお母さんが大きな存在だということですよ」
「……」
ツェッドがそう言うと、結理から恥ずかしげだった表情が消えて、少しずつ綻んだ。
少女が今は亡き家族のことを何よりも大切にしているのは知っていた。彼女はいつも、とびきりの宝物が入った箱を開けるような面持ちで家族との思い出を語る。その思い出は、どれだけ月日が経とうとも決して色褪せることはないのだろう。
「本当に大切だったんですね」
「…………うん」
そうして少女は、大切な宝物を胸の奥で抱きしめて頷いた。
「大切で、大好きだった。家族はわたしの全部だったから……」
その慈しむような笑顔に、愛おしさが増した。彼女が抱く大切なものごと抱きしめてしまいたいと、思ってしまう。
今なら改めて想いを告げられるだろうかと、そんな考えがよぎった。踏み込んで一線を越えるべきではないと今も思っている。少女は特別な一人を作らない。きっと誰にも彼女が引く線の向こうに踏み込むことはできないのだ。
だが同時に、先日のK.Kの言葉も胸に残っていた。
後悔するような選択はするな、と。
「……結理さん」
「そういえば、」
ここで改めてきちんと想いを告げて、きっぱりと断られれば今度こそ割り切れる。そう思ってツェッドは少女を呼んだ。だがそれとほぼ同じタイミングで結理も声を上げ、思わず二人で顔を見合わせる。
「ごめん、何?」
「いえ、結理さんからどうぞ」
「じゃあ……」
促された結理は何故か窓の方に振り向いて、そこに向かって声をかけた。
「チェインさん、何でさっきからステルスしてるんですか?」
「!!?」
「……赤ちゃん泣いちゃうかなーって思って……」
予想外の名前が出てきて思わず結理と同じ方向を見ると、煙が晴れるようにチェインが姿を見せた。表情はどこか気まずげで、ツェッドと目が合うとさりげなく逸らされる。どうやら結理とのやり取りをこっそり覗き見していたのがバレた故の気まずさらしい。そんな彼女の表情を言葉の内容故と捉えたらしい結理は「大丈夫ですよー!」と笑う。
「今は寝てますから、よっぽど大きい音立てなければ起きませ」
破裂音にも似た爆発音が響いたのは、少女が言い終わるよりも先だった。事務所の窓ガラスが震えるほどの爆発音は続けて二、三度投下され、音に驚いて起きてしまった赤子が盛大に泣き出す。
「……………………」
つい今まであった穏やかな空気が一瞬にして崩壊し、結理の顔から表情が消えた。無言無表情のまま立ち上がった少女はテレビをつけながら窓の外を見て爆心地を探り始める。テレビから流れる臨時ニュースでは、HL市街地の複数箇所で爆破テロが行われていて、首謀者から声明も届いていると報じていた。
「…………チェインさん、赤ちゃんお願いします」
「え!?」
指名されたチェインがぎょっとするが、結理は返答を聞く前に窓から飛び出していってしまった。
「…………」
「…………」
残されたツェッドとチェインは何とも言えない表情でお互いを見て、それから一つ息をつくと各々行動に移る。
「結理さんを追いかけます」
「私はボス達に連絡しとく。結理、あの顔する時は相当怒ってる時だから、暴れ倒すと思うよ」
「分かりました」
「その……なんかごめん」
「……大丈夫、です」
申し訳なさそうな表情のチェインに謝罪の言葉をかけられたツェッドは、どうにかそれだけ答えた。
テロリスト達の主張によると、ヘルサレムズ・ロットはあまりにも静か過ぎて自分達のテンションが上がらないので、爆弾の雨を常時降らせてすごしやすくしたかったそうだ。
声明を聞く前に事務所を飛び出した結理がそれを知ったのは、今まさに巨大なロケット花火のような爆弾に火をつけようとした集団を問答無用でねじ伏せた後だった。なんともはた迷惑だと思いながらもう五、六発殴ってからポリスーツに引き渡し、ひとまず騒ぎの中心を探しに走り出す。
首謀者はすぐに見つかった。神輿のような車輪付きの台座に乗った一見すると人類の男で、周囲にいる仲間らしき面々は人類も異界人も入り混じっている。一応理由だけは改めて聞こうと結理は台座に飛び乗った。
首謀者は対話には応じてくれる相手で、手下達も含めて元々は異界と人界で共同経営している花火職人らしい。要約すると派手な花火を打ち上げたいと研究に研究を重ねて開発した花火が、どこへ持ち込んでも許可が降りずに今回の凶行に及んだそうだ。
「この街は毎日祭だってのに静か過ぎんだよ!お行儀よくテロってる連中よりオレっち達のがよっぽとバカ騒ぎできるってもんだろ!!なあテメエら!!!!」
「イエス!!親分!!」
そんな主張を掲げる親分の顔面に、結理はとりあえず拳をめり込ませておいた。こういった手合いは言葉での説得は無理だと、迷わず暴力による制圧に切り替える。
「お、おやぶーーーーん!!!!」
「このガキ!!」
「女だからって容赦しねえぞ!!」
そこからは右も左も混乱の大乱闘だった。結理は次々と飛びかかってくるチンピラ達を片っ端から殴り飛ばし、蹴り飛ばし、投げ飛ばしていく。戦いの心得の多少ある者もいたのでいくらかいいのもくらったが、構わずに叩きのめしていった。
「はい、そこまでです」
「!?」
何人ぶっ飛ばしたか分からなくなり始めた頃、不意に制止の言葉と共に振りかざした拳をやんわりと掴まれた。驚いて見やると、そこには若干呆れた様子の知った顔があった。
「ツェッド君…?」
「ここからは警察の仕事です。ここにいると捕まりますよ?」
指摘と同時に遠くからサイレンの音が聞こえてきた。結理が我に返るのとツェッドが次の行動に移すのとはほぼ同時で、彼は少女の手を引いて駆け出す。
「行きましょう」
「う、うん……」
「まったく……どうして貴方はそう無茶苦茶なことばかりするんですか」
「うう、だって……」
ツェッドの説教に呻きながら、結理は水で濡らしたハンカチで顔を拭う。ひとまずと移動した公園は静かで、通りでの大騒ぎなど届いていなかったかのように穏やかな空気が流れていた。
「最初はちょっとムカついたから文句言ってやろうくらいの気持ちだったんだけど、あいつらが馬鹿みたいな主張してくるから……」
「だとしても、まずは一旦立ち止まるべきです」
「うぅ……」
さらりと言い返された結理は気まずげに顔をしかめつつ赤く染まったハンカチをゆすいで、まだ残っている返り血や傷を拭った。思ったよりもらったなあと胸中でぼやいていると、思考が逸れたことに気付いたらしいツェッドに無言で睨まれたのでさっと視線を逸らす。
「……誰かの為に怒れるのは、結理さんの美点です」
呆れたようなため息を一つついてから、ツェッドが静かに切り出した。顔を拭う手を止めて、結理は気まずげにツェッドを見やる。
「けれど貴方は誰かの為に自分を顧みなさ過ぎます。何の躊躇いもなく脅威に立ち向かって、危険に飛び込んで、こうして傷だらけになる」
言いながらツェッドは結理の手を取った。拳には血が滲んでいて、手の甲にもいくつか切り傷がついている。そんな手を、包むようにそっと触れる。
「貴方が弱いとか未熟だとかそういうことを言いたいんじゃないんです。貴方は決して弱くないどころか十分に強いし、戦いに身を置いてる以上負傷はつきものです。けれど」
言い聞かせるように語るツェッドの声は真剣で、結理は思わず息を呑んだ。そんな少女を真っ直ぐに見つめて、ツェッドはきっぱりと告げる。
「けれど、それでも、もっと自分を大事にしてください」
「………………は、い」
あまりにも大真面目に言われ、結理は気圧されたように頷いてしまった。
「えっと……善処します」
「善処、ですか……」
「あ、いや、だって、今ツェッド君が言った通り職業柄負傷はつきものだし?確約はできないというかなんというか……あ!で、電話だ!ちょっとごめんね!?」
どうにか言い訳を並べ立てようとした所で端末が着信を告げた。渡りに船とツェッドから離れた結理だったが、ディスプレイに表示された名前を見て盛大に表情を引きつらせる。このまま見なかったことにしたいがそうすれば後が更に怖いことになるので、仕方なしに通話ボタンを押す。
「も……もしもし結理です」
『やあお嬢さん中継を見たよ随分派手に暴れたじゃないか』
「ひえっ…!!」
出るなり一息で告げてくるにこやかな絶対零度の声音に、結理は思わず短い悲鳴をあげて直立不動になった。
「ああああああのですねスティーブンさん!これには深い訳があるようなないようなでしてありまして」
『詳しい話は事務所で……いやいい。近くにいるから拾っていこう。そこで待ってなさい』
「ひえええええ……」
『ああそうそう。会合も終わったから、クラウスも、一緒だ』
「んぎゃあああああ…!!」
重めの説教の確定ルートに入ったことを分からせる通告に、少女は踏み潰されたような悲鳴をあげた。通話が終了し、この世の終わりのような顔でツェッドに振り向いて蚊の鳴くような声で報告する。
「……スティーブンさんが迎えに来てくれるそうです」
「成程、丁度いいですね」
「味方がいない……」
「この状況で味方がいると思ってるんですか?」
「ううううぅぅぅ……」
バッサリと切り捨てられた結理は泣きそうな顔で呻くしかなかった。そんな少女を見たツェッドは、息をついてからハンカチを濡らして、少女の顔にまだこびりついていた血を拭う。
「けどまあ……客観的事実の補足ぐらいはしますよ」
「うううう……優しいのか違うのか分かんない……」
「つまり弁護の必要はないと」
「いりますいりますありがとうツェッド君大好き!!」
「!?」
何気なく放った言葉にツェッドが盛大に動揺したが、窮地に立たされている結理がそれに気付くことはなかった。
