Only and Only
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「戻りましたー」
「お帰りお嬢さん……って、相変わらずすごい量だな」
「新作出てたんでつい買い過ぎちゃいました!」
「君が食べ終わるまでは平穏だといいんだけどなあ……」
「変なフラグ立てないでくれません!?でもまあ、平穏の内に食べきっちゃいます。いっただっきまーす!」
例えば、軽く五人前はあるだろうデリの惣菜を前に満面の笑顔で両手を合わせ、その笑顔のまま一時間程で完食した時
「うわあ…!何ですかこの子可愛いー!!」
「この間スーパーのくじ引きで当たったんだけど、家に置くにはちょーっとでかくてね」
「こらこらK.K、事務所は物置じゃないぞ」
「インテリアよインテリア!ほら、クラっちの植物と並べたらいい感じじゃない?」
「いい感じ、かなあ…?」
「仮眠室に置くのとかどうですか?こんな可愛い子と一緒に寝たら安眠間違いなしですよ!」
「大の男がそれ抱いて寝るのか…!?」
「わーふわふわー!」
例えば、一抱えはあるぬいぐるみを宝物を見つけた子供のような顔で抱きしめた時
「うえーん終わらないー…!!」
「半分までは減ってるから、もう少しの辛抱だお嬢さん」
「だってここから先は先週分でしょー?ザップさんの始末書枚数新記録週間じゃないですかあ…!もう全部捨てちゃうかザップさんを処理しましょうよー…!!」
「そうしたいのは山々だが、そうできないのが現状なのは君も分かってるだろう?」
「分かってますよぉ……」
「ところでお嬢さん」
「何でしょう?」
「ここに僕が受理した覚えのない始末書が何故かサイン済みであるんだが」
「ビャッ!!」
「これは、一体、どういうことかな?お嬢さーん?」
「えー……それはそのぅ……なんと言いましょうか……」
例えば、隠し事が露呈して怯えた小動物のように身を縮こまらせながらしどろもどろに視線を泳がせている時
「じゃあ気を付けて。この通りは生存率が高めで保証されてますんで、看板を確認して進めばほぼ安全に『門』に着けますから」
「本当にありがとうございました…!」
「バイバイお姉ちゃん!」
「うん、バイバイ」
例えば、普段のはっきりとしたそれとは違う綻ぶような笑顔で子供に手を振る眼差しが慈愛に満ちていた時
そして今日も、
「え!?マダム・アイリーンがですか!?」
「ああ。お嬢さんに是非にということだ。ついでにこの封書と小包を届けてくれ」
「はい喜んで!やったー!マダム・アイリーンのお茶会だー!!いってきまーす!!」
「……結理さんはどうしてあんなに愛らしいんでしょう」
「……え?」
唐突にこぼれ出た言葉に、レオは咄嗟に一文字でしか返せなかった。そんな相槌とも生返事ともつかない返答を気にせず、ツェッドはたった今元気よく少女が出ていった扉の方を眺めている。
「……愛らしい、ですか」
「はい。結理さんがとても愛らしく、それでいて輝いて見えるんです」
「あー……確かにユーリって、なんか小動物っぽいとこありますよね。よくちょこまかしてるし」
「小動物……」
「違うんすか」
「いえ、僕もそう思う時があります」
「なーにが愛らしいだ」
そんな会話に異を唱えながら、レオとツェッドが座っているソファの向かいにどっかりと腰かけたのはザップだ。
「ザップさん。報告書の直し終わったんですね」
「どいつもこいつもあのちっこい見てくれに騙されてるだけなんだよ。可愛げなんざかけらもねえだろうが!」
「主観の話をしてるんですから、貴方に同意は求めてません」
レオの問いかけをスルーして悪態をつくザップに、ツェッドはむっと顔をしかめて言い返す。それが気に食わなかったらしいザップもしかめっ面で弟弟子に詰め寄った。
「その主観がズレてるって言ってんだよ!あの大食らいのどこが可愛いってんだ!」
「沢山食べるのは悪いことではないですし、いつでも美味しそうに食べてる姿も素敵じゃないですか」
「すぐキャンキャン噛みつくし」
「それは貴方が怒らせるようなことを言うからでしょう?この間も要点の抜けた報告書を出したそうですね」
「ち、猪突猛進バーサーカー……」
「危ない橋をノータイムで渡ったり怪我をするのは心配ですが、それだけ任務や戦いにひたむきということですよ」
「……つるぺたのちんちくりん」
「他人の容姿を勝手にジャッジして貶めるのは下劣です。だいいち、小柄でスレンダーなことがどうしていけないんですか」
「だあああああポジティブか!!」
全てに反論されたザップは癇癪を起こしたように地団駄を踏むと、びしりとツェッドを指差す。
「いちいちポジティブに返しやがってお魚ちゃんの初恋かアアン!?拗らして盲目ってかオオン!?」
悔し紛れのように吐き出された言葉に、迷惑そうな顔でもう二、三言返そうとしたツェッドが止まり、ストップをかけるかスルーするか迷っていたレオが固まり、ついでに書類仕事をしながらなんとなく会話を耳に入れていたスティーブンの手も止まった。
「…………恋、ですか?」
「そこまでべた褒めしといて無自覚たあ言わせねえぞバカヤロウコンニャロウ!!」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「少年ー、この報告書なんだが初動にあたった番地がザップのと違ってるぞ。どっちが正解だ?」
「え?あ、はい、どれっすか?」
呟いたきり、ツェッドは難しげな顔で黙り込んでしまった。すぐさま何かしらのリアクションを返してくると予想していたザップは勢いを削がれたように行き場のなくなった指を曲げたり伸ばしたりし、沈黙の間に書類仕事を再開したスティーブンがレオを呼ぶ。
「……!!」
やがて、十数秒ほど経ってからツェッドが狼狽した様子で赤面しだした。余りにも時間差のある反応にザップが「おっせえええよ!!」とツッコミを入れる。
「ちょ、ちょっと待ってください!何を急に言い出すんですか!?」
「惚れてもなきゃ一人の女そこまでべた褒めしねえだろうが!」
「貴方と一緒にしないでください!どうしてすぐそういう方向に持っていくんですか!!」
「僕もお嬢さんのことを手放しで褒めてる自覚はそこそこあるんだけど、まあ黙っとこう」
「あー、はい。ややこしくなるんで」
「しかし恋ねえ……」
「気になるんですか…!?」
「構成員同士でいざこざに発展しなければいいという意味では」
「……そっすか」
「お嬢さんとツェッドならどう転ぼうと大丈夫だとは思うけどね」
「はあ……」
顔を突き合わせてぎゃあぎゃあ言い合っている兄弟弟子を遠巻きに見つつ、スティーブンとレオはこっそりとそんな会話をしていた。
そんなやり取りがあった数日後、
「どうしてこんなことに…!!」
「ほんとにねー……」
崩れ落ちるように膝をついて愕然と頭を抱えるツェッドに、隣で膝を抱えて座っている結理が遠い目で返した。
二人は現在、自走式のコンテナの中に閉じ込められている。
事の発端はとある魔術師で、荷物の積み下ろしや運搬を全自動で行えれば配達員の負担や危険を減らせるのではないかという発想で術式を組み立ててコンテナに施したまではよかったのだが、なんの不備があったのか術をかけられたコンテナがひとりでに動き出したと思ったら住人達や車に襲いかかっては次々と飲み込むモンスターボックスと化してしまった。
ちなみにその魔術師は関係各所に一切連絡も許可取りもせずに事に及んだので即座に捕縛され、現在は事態終息の手伝いに奔走している。
二人がそんな詳細を知ったのは、いもづる式に襲いかかってきた騒動を順番に片付けている最中に、突如飛び出してきたコンテナに飲み込まれて閉じ込められた後で、非常事態を知らせようと連絡をとった副官に全容を知らされてからだ。中からの破壊も試みたが、強化の術式も付与されているらしく壁はびくともしなかった為、大人しく救助を待つという結論に落ち着かざるを得なかった。
そして正直なところ、ツェッドにとっては原因よりも現状の方が由々しき事態であった。
先日クズの代名詞のような兄弟子がいらんことを言い出したせいで、結理のことを嫌でも意識するようになってしまったのだ。まだ自分が彼女に抱いている感情に確信があるわけではない。ないのだが、さして広くもない密閉空間に二人きりという状況が無意味に緊張を膨れ上がらせている。
「なんか前にもこんなことあったなー……」
一体どうすればと盛大に悩んでいると、コンテナの天井を見上げる結理がぽつりと呟いた。少女と少しだけ離れた場所に座り直して、ツェッドは尋ねる。
「以前にも閉じ込められたことが?」
「うん。その時はクラウスさんと一緒にもっとちっちゃい箱に閉じ込められてね、あの時もぶっ壊せないから助けが来るまで待つ羽目になったんだよねえ」
遠い目のまま息をついてから、結理は抱えた膝にもたれかかるように首を傾げてツェッドを見上げた。内心どきりとしているツェッドに気づいた様子もない少女は、何でもないように笑う。
「だから今回も何とかなるよ。スティーブンさんには連絡済みだし」
「……だといいんですが……」
言いながら、ツェッドは先程の結理に倣うようにコンテナの天井を見上げた。少女が偶然持っていた懐中電灯に照らされて、コンテナ内は互いの姿を問題なく視認できる程度にはほの明るい。まるで夜空の下にいるようだと場違いな感想が浮かぶ。
「……クラウスさんと閉じ込められた時は、どのくらいで救助されたんですか?」
「え?」
「勿論今回とは状況が異なりますが、参考になればと」
「あー……っと……」
場繋ぎのつもりで降った話題に、結理は何故か気まずげに視線を泳がせた。聞かれて困る内容だったのだろうかと思ったツェッドが話題を変える前に、少女は気まずげな表情のまま答える。
「実はね……わたし途中で寝落ちちゃって……起きたらもう事務所だったから、どれくらいかかったのかはちょっと分からないの、です、はぃ……」
「寝落ちた……」
「だ、だってクラウスさんぬくかったの!!その日ちょっと肌寒くて、前の日に結構遅くまで仕事してたのもあって……安定感と安心感に負けて……自分でも馬鹿すぎるポカだと思ってるよ…!!」
表情を隠すように膝の間に伏せて呻いてから、結理はそろそろと顔を上げた。若干羞恥にしかめられている表情のままツェッドを見やって、半眼で問いかける。
「馬鹿だなーって思ったでしょ」
「いえ、馬鹿だとは思いませんでしたが、とても肝が据わっているのだなと」
「くう…!クラウスさんの安定感がにくい…!いや全然にくくない…!!」
「……結理さんは、クラウスさんのことが好きなんですか?」
「え?」
「っ!」
思わず口をついて出た問いに、結理が不意を突かれたような表情で瞬きをした。無遠慮な質問をしてしまったと気付いたツェッドは慌てて謝罪を口にする。
「すみません、不躾なことを聞きました……」
「うーん……植物とかプロスフェアーの話で盛り上がるし、真っ直ぐですごくいい人だから好きは好きだけど、尊敬してるって気持ちの方が強いかな?」
揶揄や悪意はないと判断してくれたらしい結理は、申し訳なさに肩を落とすツェッドを咎めることもなく問いに答えた。
「わたしがHLに来た日にクラウスさん達と協力して堕落王の騒動をねじ伏せたって言ったの覚えてる?」
「はい」
「その時にね、堕落王の共犯者だって思われてもおかしくなかったわたしのことを、クラウスさんだけは真っ向から信じてくれたの」
大切な宝物を見せるような微笑を浮かべた少女は、ツェッドの方は見ずにぽつぽつと続ける。
「勿論手放しじゃなかったと思う。でもわたしを助けたいって気持ちはすごく伝わったし、疑いようもなかった」
「……」
「あの時のわたしは、クラウスさんに救われた」
断言の形で紡がれた言葉に圧はなかったが、反論の余地のない強さがあった。
「だからわたしはライブラに……クラウスさんについて行こうって思ったの。この人を裏切っちゃいけない。この人が目指すものの為にわたしの力を振るおうって」
穏やかに、けれど真剣に言い切ってから、結理は気が抜けたように表情を緩めた。
「まあ、わたしなんて助けられてばっかりで、むしろお荷物なんじゃないかとか思っちゃうんだけどね」
「そんなことはありません!」
自虐的に苦笑する少女の言葉を打ち消すように、ツェッドは即答しながら結理に向き直っていた。
自分は目の前の少女や他のメンバーと比べればライブラに加入してからまだ日が浅い。それでも彼女の自己評価が不適当であることは十分すぎるほど分かる。
「本当にお荷物ならクラウスさんは貴女を前線に立たせたりしませんしスティーブンさんも仕事を任せたりしません。結理さんはいつも努力を惜しまず、前を向き続けている。それは確かな結果に繋がっています」
「え、そ、そうかな…?」
「そうですよ。もっと自信を持っていいんです。貴女は、貴女自身の評価よりずっと優秀なんですから。いえ、例え優秀でなくても、貴女の姿勢はきっと誰かの士気を高めています」
「なんかすごい褒めるね!?」
「少なくとも僕はそんな、誠実でひたむきな結理さんを好ましく思っています」
「え……」
「!!」
言い切って、驚いたように目を丸くした結理を見てから、ツェッドは我に返った。
言った。言ってしまった。最後の言葉は明らかに蛇足だ。こんな、勢いで言っていいものではない。
同時に気付いてしまった。目の前の少女に確かに惹かれていることに。順番が滅茶苦茶だ。想いを伝えるのなら己の感情を自覚してからでないとならないのに、先に告げてしまった。
「あ、あの、今のは」
「……ぶふっ!」
何か言葉を繕わなければと口を開きかけたが、それは結理が噴き出したことで遮られた。予想外の遮られ方に呆然としているツェッドに構わず、少女は声を上げてけらけら笑う。
「あははは!もー!何でツェッド君がそんなに必死なの!そりゃ後ろ向きなこと言っちゃったのはわたしだけど!そこまでべた褒めしてくれなくていいよ!」
ツボに入ってしまったらしく、結理はしばらく笑い転げてから「はー笑った……」と息をついた。それからツェッドを見上げてくすぐったそうに笑いかける。
「でも、ありがとう」
その笑顔は初めて挨拶を交わした時と同じ、花が咲いたように可憐に見えた。
それで改めて自覚する。
自分は目の前の少女に恋心を抱いているのだと。
「…………!」
「?ツェッド君?」
ついでに気付いた。というより再認識した。そんな、想いを寄せる少女と密室で二人きりであるということに。思わず距離を取ると怪訝そうな様子の結理が尋ねる。
「え、何かあった?」
「いえ、その……」
言い繕うにしても正直に告白するにしても何かを言わなくてはと言葉を選んでいると、唐突にコンテナが大きく揺れて床が傾いた。
「うわっ!?」
「危ない!」
突然のことに対処できずに転げそうになった結理を、ツェッドが咄嗟に抱き止める。
が、はからずも少女を抱きしめた状態で一緒に倒れる形となってしまい、心拍数が跳ね上がった。
「ご、ごめんツェッド君!大丈夫!?」
「……だ、大丈夫……大丈夫です……!!」
慌てて謝りながら退く結理にどうにか平常心を取り戻しながら返している間にもコンテナは傾き続け、最終的に縦になると静かに上昇を始めた気配がした。
「これ……昇ってる…?」
「そのようですね」
「でも何で…?」
零れ出た疑問に答えるようなタイミングで、結理の携帯端末が着信を告げた。ディスプレイには副官の名が表示されている。
「スティーブンさんだ。結理です」
『あーお嬢さん、いいニュースと悪いニュースがあるんだがどっちから聞きたい?』
「緊急性の高い方から聞きたいです」
『そのコンテナなんだが、あと十分程で落ちる』
「……は!?」
『術者が術式を解除してくれたんだが、何をとちったのか上昇の後に効果が切れるように設定されてしまったらしくてね。端から徐々に解除されて、最終的に落ちるそうだ』
「あー……それで縦になっちゃってるんですね……って!のんびりしてたらこの中でミンチになっちゃうってことじゃないですか!!」
『そうなる前に何としてでも脱出してくれ。この』
際だ、と電話の向こうで提案が出される前に、突然床が消えた。
「へ?」
「え?」
正確には二人が床として座っていたコンテナの扉が突如として開いてしまい、空中に投げ出されてしまった。一瞬何が起こったか分からずに固まってから、状況を認識した結理が悲鳴を上げる。
「ひあああああああああああああああっ!!!!!?」
いつの間にか摩天楼よりも高く上昇していたことが幸いしてすぐに地面に叩きつけられるということはなかったが、周囲に着地できそうな場所も掴まれそうなものも見当たらずに二人は落下していった。
「ツェッド君!!」
「!?」
そんな中、結理がツェッドを呼びながら手を伸ばした。反射的にその手を掴んで引き寄せると、少女はすぐさま下に視線を飛ばして端的に告げる。
「風!!」
それだけで少女の言わんとすることを察したツェッドは術を紡いだ。結理も同様に術を紡ぎ、地面まであと少しといった地点で同時に発動させる。
「『風術』!!」
「風編み!」
地面に向かって放たれた突風はツェッドと結理の体を数瞬だけ浮かせて落下の勢いを殺し、二人は難なく着地を成功させた。通りがかりの住人達が大道芸でも目撃したように軽いどよめきと歓声を上げるのを尻目に、結理が遅れて降ってきた端末をキャッチして安堵の息をつく。
「……死ぬかと思った……」
「まさか扉が勝手に開くとは……」
『結理!!返事をしろ!!何があった!?』
「っ!あ、スティーブンさん!無事です!わたしもツェッド君も!!急にコンテナが開いて投げ出されちゃって―」
「……!」
焦った様子のスティーブンに慌てて応答した結理は、ツェッドと手を繋いだままであることに気付いていない。気付いてしまったツェッドは動揺に身じろぐが、振り解くわけにもいかずに思わず繋いだ手を凝視してしまっていた。
少女の手は見た目相応に小さい。戦いに身を置く者らしく皮が厚くて硬さがあるがそれでも丸く、この手で自身の数倍はある巨体を殴り飛ばしたり、血の刃爪をまとわせて敵を斬り裂くなど想像もできない華奢な手だった。
守りたい、と思うのはおこがましいのかもしれない。例え儚げな容姿をしていても、彼女は間違いなく戦士だ。それも決して弱くはない。戦いに向かう姿勢は苛烈で、戦場そこが己の居場所だと主張するように力を振るい、敵と対峙し続ける。
けれど、それでも……
「……はい、じゃあ後で」
通話を終えた結理はツェッドに向き直りかけて、ようやく手を繋いだままであることに気付いて顔を引きつらせた。
「あ、ごめん」
「……結理さん」
離そうとした手を、ツェッドは両手で握り直す。それから驚いて目を丸くした少女を真っ直ぐに見つめた。
「僕は、貴女に好意を抱いているようです」
「え……」
告白に大きく反応したのは言われた結理でなく周囲の住人達だった。突然始まった男女の話に悲鳴とも歓声ともつかない小さなざわめきが走り、すぐさま行く末の見守りにシフトする。そんな大衆の視線を背に受けながら、ツェッドは続ける。
「貴方が誰かの手がほとんどいらないほど強いのは知っています。けれど、それでも守りたいと、そう思うほどに、僕は貴方に惹かれていることに気が付いたんです」
「………………」
驚いたように目を丸くした結理はしばらく沈黙した。実際は数秒にも満たない沈黙だったが、ツェッドと周囲にとってはその数秒は永遠にも感じられた。
「………………わたしも」
やがて、渡された言葉の意味を噛み砕くようにぱちぱちと瞬きをしていた結理が、力を抜くように息をつくとはにかんだ笑みを見せて静かに肯定を返した。少女の返答に野次馬達が小さな歓声をあげる。
「ツェッド君のこと好きだよ」
「!!」
「強くて、真面目で、優しくて、いい人だし」
「……それは」
それはつまり、少女もツェッドと同じ想いを抱いているということだろうか?
ほんの少しの疑惑が混じった大きな期待がツェッドと、そして周囲を浮足立たせる。気の早い者などいそいそと祝福の準備を始めだした。
だが、
「ツェッド君は大好きな友達で、自慢の後輩です」
「…………え」
満面の笑顔から飛び出てきた言葉に、ツェッドだけでなく見守っていた住人達も凍りついた。この少女は今何と言った?と困惑の空気が流れ始め、何人かは嘘だろ?と言いたげに顔を青ざめさせていく。
「…………トモダチ」
「うん」
「…………コウハイ」
「あ、でも牙狩りとしてはツェッド君の方が先輩か!まあいいか、友達には変わりないし!」
明るく笑った結理は繋いだ手をいつの間にか離していて、絶望したように立ち尽くしているツェッドに気付いた様子もなく歩き始めた。
「じゃ、帰ろっか。報告もしないとだし」
「……………………………………はぃ……」
か細い返事をした後にがっくりとうなだれた青年の背や肩を、哀れみの混じった苦笑を浮かべた住人達が労うように、慰めるように優しく叩いていった。
