のんでのまれて
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「よし…!」
即決して、レオはくるりと方向転換をした。あっちへふらふらこっちへふらふらしている少女を追いかけるよりは、先回りをした方が止められる可能性は高い。
「うわ…!」
そう思ったのだが、それは裏目に出た。進行方向はテーブルと人で埋まっていて、とてもではないが通れる状態ではなかった。自分で思っているよりも慌てているらしい、酷い見落としだ。急いで迂回して目的地に着いた時には、既に結理がそこにいた。
「クラウスさ~ん!」
「ん?」
高い声で呼ばれ、スティーブンと談笑していたクラウスは声のした方を見る。自分を呼んだ結理がどことなく覚束ない足取りで駆け寄ってくるのを見つけると、怪訝と心配の混じった表情で少女に呼びかけた。
「結理?ふらついているがどこか具合でも」
「えへへ~」
問いかけが終わるの待たずに、結理は自分の目線まで屈んだクラウスに飛びついた。予想していなかった行動に飛びつかれたクラウスだけでなく、何となく状況を見ていたスティーブンまでもぎょっとした表情になるが、当の結理だけが全く気にしていない。
「だあああああっ!クラウスさん!!ユーリから離れ」
「クラウスさん大好きです~」
ようやく追いついたレオが声を張り上げるが、結理の方が早かった。クラウスの首に腕を回すと彼の頬、犬歯の真横辺りにキスをして、満足げにふにゃりと笑う。
「………………………………っ!!!?」
少女の『襲撃』を受けたクラウスは数秒程固まっていたが、やがて慌てて、だが丁寧に結理を自分から引き離すと顔を背けた。
「……っ……結理……これは一体どういった……いや、それ以前に、レディが、公衆の面前で、そんな……は、はしたない行動は……よろしくない……いや、その、公衆の面前でなければ、いいという訳では、ないのだが……」
「あー遅かったー…!!」
健闘空しく一足遅かったレオは、頭から湯気を出してうつむいているクラウスを見て、がっくりと肩を落とした。結理を捕まえる方向に行けばこの事態を止められたかもしれないが、起こってしまった今となっては全て憶測の話にしかならない。
「レオには心当たりがありそうだね」
「ザップさんのせいで酔っ払って色んな人にキスして回ってるんすよ」
「そうか……ザップは?」
「向こうで撃沈してます」
尋ねるスティーブンの声が一瞬氷点下になったが、今のレオにはそれに恐怖する余裕もない。むしろ制裁を加えてくれれば願ったり叶ったりだとすら思っている。
「じゃあ結理を止めるのが先か」
そう言ってスティーブンは息をついて、持っていたグラスをテーブルに置くと結理の方へ歩み寄る。
「随分ご機嫌だねお嬢さん?」
「っ?スティーブンさ~ん!」
声をかけられた結理はパッと顔を輝かせてスティーブンに飛びついた。スティーブンは慌てず騒がず、少女の身長に合わせる形で屈んで抱き止める。
「えへへ~……すてぃ~ぶんさん好きです~」
「嬉しいことを言ってくれるなあ」
結理は今まで同様に好意の言葉を投げて、首に縋りつきながら唇の端にキスをする。今までは誰もが色々な意味で陥落したが、スティーブンは動じた様子もなく軽く笑って結理の頬をなぞるように撫でてから、彼女の鼻先にキスを落とした。
「……?」
「お返しだよ。満足したかい?」
結理はきょとんとした面持ちでスティーブンを見上げたが、尋ねられるとすぐにへらりと笑ってしがみつくようにもたれかかる。
「うへへ~……はい~……」
そのすぐ後に寝息が聞こえてきた。つい今まで止まる気がしなかった少女がいとも簡単に止まり、レオはあんぐりを口を開ける。
「ええええええ……すげえ…!!」
「この手の酒乱には何度か遭遇してるものでね。ま、何人も回って気が済んできた所だったってのもあるだろうけど」
呆然とした様子のレオに何でもないように答え、スティーブンは結理を横抱きにして持ち上げた。少女の寝顔はだらしなく緩み切っていて、時折小さく笑みを漏らす。
「……何つーか……流石っすね」
これだけ無防備に真っ直ぐに好意を伝えられて行動を起こされているのに、全く動じない上に逆に大人しくさせる手腕は酷く手馴れていた。これが大人のなせる技か……と思いつつ、レオが感心のような違うような気持ちで呟くと、スティーブンはやはりどうとでもなさそうに肩をすくめる。
「酔っ払いの言葉を真に受けるほど純情じゃないよ。さて、僕はお嬢さんを送ってくるから、少年はクラウスの方を頼むぞ」
「え!?あ、はい……」
返事をしてから、レオはかなりの無理難題を押し付けられたことに気付いたが、その時にはスティーブンの姿はなかった。
それから少し後、レオがどうにかこうにかクラウスを立ち直らせた頃、飲み会の会場の一角が氷で覆われることになるのだが、その件に関しては厳密なまでの緘口令が敷かれた為に、それ以降一度も誰の話題にも上ることはなかった。
「ちなみに私は手の甲にして頂きました」
「ギルベルトさん?誰に向かってしゃべってるんすか?」