のんでのまれて
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「よかったなー魚類。その葛餅肌が役に立ってんじゃねえか」
「うるさいですよ」
「くずもちよりところてんが好き~」
ニヤニヤ笑いながら揶揄の言葉を投げるザップに言い返すと、結理が噛み合っていない返答をして顔を上げた。至近距離で向けられる緩み切った笑顔に、ツェッドは思わずどきりとする。そんな心情は勿論気付いていない結理は、笑顔のままよじ登ると両手で挟むようにツェッドの顔に触れた。
「でもツェッド君はもっと好き~……」
「……え……」
気がついた時には少女の顔が間近にあった。
「「「!!?」」」
「えへへ~」
ちゅ、と軽い音を立てて結理がツェッドの額にキスをした光景を、ザップも水を持って戻ってきたレオも思い切り見てしまい、驚愕の表情で絶句した。張本人の結理は相変わらずふにゃふにゃと笑っていて、ツェッドは数秒ほど固まった後、
「――っ!!!」
ぼふっと音がしそうなほど全身を真っ赤にして引っ繰り返った。
「わー!!ツェッドさーーん!!!」
「ぶふっ…!魚類が茹だった…!」
「言ってる場合か!!ツェッドさん!しっかりしてください!!」
「レオ君も好き~」
噴き出すザップに言い返しながら、レオは慌てて介抱に向かう。すると結理はふにゃりと笑うと今度はレオをターゲットに定めた。流れるような動作でレオの顔を両手で持って無理矢理下げさせて、額にキスをする。
「っ!!ユーリ!?」
「えへへ~ソニちゃんも~」
「こいつキス魔かよ……」
「これはマズイっすね……」
「つかお前よく平然としてんな」
「いや平然とはしてないすけど……妹と母親がこの手のスキンシップ多かったんで何とか……とにかく人のいないとこに運びましょう。このままほっといたら絶対ヤバいことになりますよ。ほらユーリ、起きて」
「あらあら、どうしたの?」
割と深刻な性癖を暴露した結理をどこかに隔離しようとしたところで、上から声がかかった。振り向くと酒瓶を持ったK.Kが立っていて、レオは天の助けとばかりに表情を輝かせた。
「K.Kさん!すみません、手伝ってくれますか?ユーリが酔っ払っちゃって。」
「けーけーさん?」
名前に反応して結理が顔を上げた。首と視線をふらふらとさまよわせ、K.Kの姿を見つけると満足げに笑ってレオから離れ、飛びつくようにK.Kに抱きつくと、
「けぇ~けぇ~さん好き~」
と言って頬にキスをした。K.Kは最初は驚いたように目を丸くしたが、すぐに破顔して結理を抱きしめ返すとわしわしと頭を撫でる。
「やーんもーありがとー!!いつにもまして可愛いじゃな~い!」
「うへへ~…ありがと~ござま~」
「今日の疲れ全部ぶっ飛んだわー!やっぱ家の娘になりなさいよユーリっち~!!」
「えへへ~くすぐったいですよぉ~!」
じゃれ合うようにひとしきり結理を可愛がった後に、K.Kはソファに崩れ落ちるとそのまま寝息を立て始めた。抱きしめられていた結理は腕から抜け出して、自分のコートを脱いでK.Kにかけると、ふらふらと立ち上がって何かを探すように周囲を見回しだした。
「あ、あれ…?K.Kさん?」
「そういやさっき向こうでパトリック達と飲み比べやってたな……」
「ああもう救世主かと思ったのに……ってユーリ!」
レオが思わず頭を抱えている隙に、結理はまた誰かをロックオンしたらしくふらふらと歩きだした。談笑している構成員の隙間を抜けて迷わず向かった先には、チェインが一人で杯を傾けている。
「チェインさ~ん」
「ん?結理、顔真っ赤だよ。酔ってる?」
「えへへ~……」
「大丈夫?」
結理の様子がおかしいことに気付いたチェインが尋ねるが、結理はへらへら笑いながらチェインの腕を引いた。怪訝そうにしながらも、チェインは素直に少女の視線まで屈む。
「あーーーー!チェインさん危ない!!」
「は?」
「チェインさん好き~」
レオが叫ぶが一足遅く、結理の唇がチェインの頬に当たる。チェインは数秒ほど何が起こったのか分からないといった様子でぱちぱちと瞬きをしていたが、結理に何をされたのかを理解した瞬間に目をまん丸に見開いてその場から消えた。レオの目には、消える直前の彼女の顔が酒のせいでなく赤く染まっていたように見えていた。
「おいおい……あと何人制覇する気だあいつ……」
「手当たり次第だとしたら洒落になりませんよ…!」
「ったく、しゃーねーな…!」
収まる気配のない事態にぞっとした様子でレオが呟く。似たような心境のザップも、元凶が自分のミスにあることも相まって、悪態をつきながらも結理の回収に急いだ。
「オイ待て結理!いい加減止まれ!」
「はっ!」
「ぐはっ!!?」
歩幅の差もあって距離はあっという間に縮まった。ザップは誰かを探している様子で周囲を見回しながら歩いていた結理に追いつくと、首根っこを捕まえて持ち上げる。
だが、その瞬間に少女の後ろ蹴りがザップのみぞおち辺りに突き刺さった。完全な不意打ちで防御もできなかったザップは、思わず結理を落としてその場にうずくまる。
「てめえ……!!」
「ふへへ……ゆだんたいてきです」
「ほんとはシラフだろ大福!」
心底楽しげにへらへら笑う結理を睨むが、少女はどこ吹く風といった様子で膝をついたザップの目線までしゃがみ、先程のレオ達同様両手で顔を挟むとザップの瞼にキスを落とした。
「……!!?」
「きらいじゃないですよ~先輩」
虚をつかれた様子で絶句しているザップに満足げな笑みを返して、結理はまたふらふらとどこかへ歩き出した。
「ザップさん!」
そこに、ようやくレオが追いついてきた。床に座り込んで手で目元を覆っているザップを見て、レオはまさかと思う。
「くっそ…!」
「……え、ザップさんもやられたんすか?」
何があったのかは分からなかったが、すぐに復活して協力は望めなさそうだったので、レオはザップを置いて結理の姿を探した。近くには見当たらず、仕方なしに『義眼』を使って会場内全体を見渡す。覚束ない足取りの割に誰にもぶつからず、普段と変わらないペースで歩く結理は相変わらず誰かを探しているようだった。
レオは考える。結理を確保するのと、先回りして結理のことを伝えるのと、どちらが確実か。