一歩先へ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
旧サイト二万打企画リクエスト「K・Kとお出かけ。いつも遠慮がちで人に甘えられない女の子にK・Kが1日かけて人に甘えること、頼ることを教えるアットホームなお話」
昼下がりのライブラ執務室には、スティーブンと少女しかいなかった。二人はそれぞれの作業スペースで事務仕事に勤しんでいて、静かな空間の中でペンを走らせる音やキーボードを叩く音、あるいは紙をめくる音が響いている。
窓の外ではいつものヘルサレムズ・ロットらしい喧騒と、時々破壊音のようなものが聞こえてきたが、緊急招集や大騒動の一報もなく順調に作業ができていた。
「ふう……あ、スティーブンさん、これあと承認印だけです」
「ありがとうお嬢さん。キリもよさそうだし少し休憩にしたらどうだい?」
「え?あ、いえ、大丈夫です。それにまだ書類も残ってますし……」
「そう言って昼食もロクにとってないじゃないか。あまりのめり込み過ぎるのもどうかと思うぞ?」
「いや……それそっくりそのまんま返しますけど…?」
「……じゃあこうしよう。急ぎの書類は大体片付いてるから一緒に休憩だ」
少女と同じかそれ以上に詰め込んだサイクルで業務をしていたスティーブンが、若干気まずげに黙ってから降参したようにペンを置いて軽く両手を上げた直後、執務室の扉が開いた。入ってきたのはK.Kで、少女の姿を見つけるなり表情を綻ばせて駆け寄ってわしわしと頭を撫でる。
「ユーリっちー!お疲れー!」
「うわわ……お疲れ様です、K.Kさん」
「ほら、タイミングも丁度いい」
「……そうですね……」
「あらやだ何?アタシ時計代わりにされてる?」
「あ、そうじゃなくて!」
「お嬢さんが休憩を渋ってた所に君が来てくれたんだ。助かったよK.K」
「もー……また仕事詰め込んだのね?」
「あ、いえ……そんなにたくさん入れたわけじゃ、ないです……けど……」
「頑張るのはいいけど、やりすぎはダメよ?」
「……はい……」
目線まで屈んで言い聞かせるK.Kに、少女はためらいがちに頷いてから「でも……」と続ける。
「……頑張らないと……皆さんにご迷惑、かけちゃいますし……それに私は、まだまだ色々至らない所だらけですから……」
「謙虚なのはいいけど一人で抱えすぎるのも問題だよ。この間の3番街の案件も連絡が遅れたせいで危うかったじゃないか」
「あ、あれは対処しきれなかった私に非があります!それにあの程度でヘルプかけるなんて申し訳ないですよ!」
「…………はーーーーーーーー……」
「っ!?あ、あの……K.Kさん…?」
慌ててスティーブンに言い返した戸惑いながらも迷いのない少女の言葉を聞いて、K.Kは長い長いため息をついて項垂れた。そのため息で相手の機嫌が下降したと判断した少女は、自分が何か失言をしたのかとおろおろしながら、捨てられた子犬のようにK.Kを窺い見て眉尻を下げる。
数秒の沈黙の後、K・Kは項垂れたまま鋭い声を張り上げた。
「……スカーフェイス!」
「え!俺!?」
叩きつけるような名指しに、二人のやり取りを苦笑が混じりながらも微笑ましげに眺めていたスティーブンが不意打ちをくらったように身じろいだが、K.Kは構わずに要求だけを告げた。
「明日私とユーリ全休にして頂戴!」
「ちょ……ちょっと待ってくれ………一週間以内に調整するからそれでいいかい?」
「直近で空けんのよ。ユーリ!」
「はい!」
呼ばれた少女は反射的に返事をして背筋を伸ばした。K.Kはそんな少女の両肩をしっかりと掴み、獲物を見つけた肉食獣のような笑みを浮かべて言い放つ。
「次の休みはトコトン!付き合ってもらうからね!」
「は、はい…!」
色々な意味で逃げられなかった少女は、泣きそうに表情を引きつらせながらもどうにか頷いた。
それが、二日前の話だった。
当日のヘルサレムズ・ロットは天候にも恵まれ、霧の隙間から陽光が差す暖かな日だった。待ち合わせ場所の公園では散歩中の老夫婦や、休日らしい子供連れの異界人の夫婦が寄り添って歩いていて、少女はそんな穏やかな光景をどこか緊張した面持ちで眺めていた。
「ユーリっちー!」
「っ!」
緊張を紛らわせるように何度か深呼吸をしていると相手、K.Kがやってきた。少女はびくりと身じろぎながらも振り返り、若干硬い笑顔で挨拶を返す。
「お、おはようございますK.Kさん」
「遅くなってごめんねー?出かけに子供が靴下がないー!って騒ぎ出しちゃってさ」
「い、いえ!大丈夫です!」
「そんな堅くなんなくてダイジョブよー!ただのデートなんだから!」
「……デート……ですか?」
「そ。ユーリの行きたいとこ行くわよ!」
「……え!?私が決めるんですか!?」
「あったりまえじゃない!」
予想外の言葉に少女はぎょっとして目を見開くが、K.Kはそんな少女に楽しげに笑いながら即答した。
「今日はユーリのわがまま一杯聞く日なんだから!」
「……と、言いますと?」
「ユーリはいつも自分の意見を言わなすぎだし一人であれこれしようとしすぎ!たまにはわがまま言って人を振り回すくらいしないと!」
「……いや、そんなことは……」
「今日はその訓練よ!さ、たっぷりアタシを振り回しなさい!どこ行く?」
「……えっと……」
期待満々といった風なK・Kを見て、ああこれは覆せないなと察した少女は、慌てて思考を巡らせた。
K.Kの行きたい所に付き合うと思っていたので、自分では何も考えていなかった。どうしようかと盛大に悩んでいると、見かねたらしいK.Kが助言を投げかける。
「いつも休みの日はどうしてんの?」
「いつもは……買い出しして軽く家事して後は寝てるか気になる案件の書類読んでます」
「社畜の休日じゃない!」
「す、すいません…!!でも他にすること思いつかなくて…!」
「どっか行きたいとこないの?ほら、今話題のスポットとか」
「話題のスポット…ですか…?えっと……」
再度助言を受けて、少女は眉間に似合わないしわを寄せた。仕事がない日はK.Kに答えたことを主にしているが、だからといってその手のチェックを一切していない訳ではない。何かあっただろうかと最近目を通した情報を記憶から引っ張り出して、それらしい話題を探す。
「……あ、じゃあ……」
そうして思いついた場所を、少女は口に出した。
K.Kと少女が訪れたのは、最近出来た大型ショッピングモールだった。主に人界向けの店が立ち並ぶが、時折明らかに異界向けの店やどちらにも対応できそうな商品の並ぶ店も見受けられた。道行く人々も店員も、人界・異界の比率は半々といった所で賑わっている。
「前にラジオで宣伝してて、一回来てみたかったんです……」
「そういえばちょっと話題になってたわねー」
「あ、あのでも……本当にここでいいんですか…?」
「もっちろんよー!どこから行く?」
「K.Kさんはどこか行きたいとこありますか?」
「今日はユーリっちの行きたいとこに行く日!」
「ぅ……そ、そうでした…じゃあ、案内板見ましょうか」
びしりと断言されてこっそり息をついてから、めぼしい店を探すことにした少女はすぐ側にあった案内板に向き直った。時々人類の喉では発音ができなさそうな文字列が並ぶ部分があるものの、概ね品物が想像できそうな店や有名チェーン店の名前も見られる案内板を一通り見て、しばらく考え込む。
「……ここに、」
やがて、少女はやや躊躇いがちにとある一角を指差した。
「行ってもいいですか…?」
「いいわよー!」
二つ返事をしたK.Kは促すように少女の肩を軽く抱いて歩き出す。
モールの中心部でもある吹き抜けの大通りは親子連れが多く、ずらりと並ぶ店をのんびりと歩きながら見て回っている姿は絵に描いたような幸せな家族の光景だった。手をつないで今日の夕飯は何にしようかと楽しげに話している親子を、少女は何となく目で追う。
それに気付いたK・Kが少女に冗談めかして声をかけた。
「アタシ達も手つなぐ?」
「!?いえいえいえいえいーーえ!!そんな子供じゃないですし…!あ、ほ、ほら!向こうですよ!」
K・Kの問いに大慌てで即答した少女は目的地に駆け出す。小さく息をついてからK・Kも後を追おうとし、
「!ユーリ!!」
「!」
鋭く声を放った時には警告音が鳴っていた。
モールの中心路である大通りを貫くように轟音が響き渡り、音を鳴らしている主が姿を見せる。
それは例えるなら、モップを被った列車だった。レールのない道を爆走するモップ列車は真っ直ぐに少女に向かって突き進んでいる。
「あ…!」
それに気付いた少女もすぐ様避けようとしたが、モップ列車の車線上に子供が立ち尽くしていることに気付いて飛び退こうと力をこめた足を前へ向けて踏み出した。呆然とした様子で自分に迫り来る脅威を凝視している小さな体を、横から攫うように抱きかかえて跳ぶ。
巨大な姿が通り過ぎるのと、少女が雑貨屋の棚に激突するのとはほぼ同時だった。轟音に紛れて金属が落ちる甲高い音が響く。
『ただいま清掃車両が通過中です。お客様方は自己責任で回避をお願いいたします』
「言うのが遅過ぎんのよバカッタレ!!ユーリ!大丈夫!?」
「だ……大丈夫です…!」
呑気な放送に悪態をつきつつ、K・Kは慌てて少女に駆け寄った。商品の雪崩の中から手を出して返事をした少女は、次いで鍋を押しのけながら顔を出す。まだ何が起こったのか把握しきれていない様子の子供の服を軽くはたいてやり、にこりと笑いかけた。
「……うん、怪我はないね」
そんな少女の元に母親らしき女性が駆け寄り、恐縮しきった様子で何度も頭を下げた。少女は何でもないように笑顔で首を振って返し、最後にもう一度頭を下げる母親と無邪気に手を振る子供を見送ってから、K・Kに振り返る。
「さっすがユーリっち!やるじゃない」
「ありがとうございます」
賞賛の言葉に照れくさそうに返してから、少女は若干躊躇いがちに続けた。
「えっと……買い物の続き、しましょうか」
「そうね」
K・Kも頷き、改めて二人で連れ立って店の中に入っていった。
「……っ……」
「ユーリ?どうかした?」
「!あ、いえ!大丈夫です」
昼下がりのライブラ執務室には、スティーブンと少女しかいなかった。二人はそれぞれの作業スペースで事務仕事に勤しんでいて、静かな空間の中でペンを走らせる音やキーボードを叩く音、あるいは紙をめくる音が響いている。
窓の外ではいつものヘルサレムズ・ロットらしい喧騒と、時々破壊音のようなものが聞こえてきたが、緊急招集や大騒動の一報もなく順調に作業ができていた。
「ふう……あ、スティーブンさん、これあと承認印だけです」
「ありがとうお嬢さん。キリもよさそうだし少し休憩にしたらどうだい?」
「え?あ、いえ、大丈夫です。それにまだ書類も残ってますし……」
「そう言って昼食もロクにとってないじゃないか。あまりのめり込み過ぎるのもどうかと思うぞ?」
「いや……それそっくりそのまんま返しますけど…?」
「……じゃあこうしよう。急ぎの書類は大体片付いてるから一緒に休憩だ」
少女と同じかそれ以上に詰め込んだサイクルで業務をしていたスティーブンが、若干気まずげに黙ってから降参したようにペンを置いて軽く両手を上げた直後、執務室の扉が開いた。入ってきたのはK.Kで、少女の姿を見つけるなり表情を綻ばせて駆け寄ってわしわしと頭を撫でる。
「ユーリっちー!お疲れー!」
「うわわ……お疲れ様です、K.Kさん」
「ほら、タイミングも丁度いい」
「……そうですね……」
「あらやだ何?アタシ時計代わりにされてる?」
「あ、そうじゃなくて!」
「お嬢さんが休憩を渋ってた所に君が来てくれたんだ。助かったよK.K」
「もー……また仕事詰め込んだのね?」
「あ、いえ……そんなにたくさん入れたわけじゃ、ないです……けど……」
「頑張るのはいいけど、やりすぎはダメよ?」
「……はい……」
目線まで屈んで言い聞かせるK.Kに、少女はためらいがちに頷いてから「でも……」と続ける。
「……頑張らないと……皆さんにご迷惑、かけちゃいますし……それに私は、まだまだ色々至らない所だらけですから……」
「謙虚なのはいいけど一人で抱えすぎるのも問題だよ。この間の3番街の案件も連絡が遅れたせいで危うかったじゃないか」
「あ、あれは対処しきれなかった私に非があります!それにあの程度でヘルプかけるなんて申し訳ないですよ!」
「…………はーーーーーーーー……」
「っ!?あ、あの……K.Kさん…?」
慌ててスティーブンに言い返した戸惑いながらも迷いのない少女の言葉を聞いて、K.Kは長い長いため息をついて項垂れた。そのため息で相手の機嫌が下降したと判断した少女は、自分が何か失言をしたのかとおろおろしながら、捨てられた子犬のようにK.Kを窺い見て眉尻を下げる。
数秒の沈黙の後、K・Kは項垂れたまま鋭い声を張り上げた。
「……スカーフェイス!」
「え!俺!?」
叩きつけるような名指しに、二人のやり取りを苦笑が混じりながらも微笑ましげに眺めていたスティーブンが不意打ちをくらったように身じろいだが、K.Kは構わずに要求だけを告げた。
「明日私とユーリ全休にして頂戴!」
「ちょ……ちょっと待ってくれ………一週間以内に調整するからそれでいいかい?」
「直近で空けんのよ。ユーリ!」
「はい!」
呼ばれた少女は反射的に返事をして背筋を伸ばした。K.Kはそんな少女の両肩をしっかりと掴み、獲物を見つけた肉食獣のような笑みを浮かべて言い放つ。
「次の休みはトコトン!付き合ってもらうからね!」
「は、はい…!」
色々な意味で逃げられなかった少女は、泣きそうに表情を引きつらせながらもどうにか頷いた。
それが、二日前の話だった。
当日のヘルサレムズ・ロットは天候にも恵まれ、霧の隙間から陽光が差す暖かな日だった。待ち合わせ場所の公園では散歩中の老夫婦や、休日らしい子供連れの異界人の夫婦が寄り添って歩いていて、少女はそんな穏やかな光景をどこか緊張した面持ちで眺めていた。
「ユーリっちー!」
「っ!」
緊張を紛らわせるように何度か深呼吸をしていると相手、K.Kがやってきた。少女はびくりと身じろぎながらも振り返り、若干硬い笑顔で挨拶を返す。
「お、おはようございますK.Kさん」
「遅くなってごめんねー?出かけに子供が靴下がないー!って騒ぎ出しちゃってさ」
「い、いえ!大丈夫です!」
「そんな堅くなんなくてダイジョブよー!ただのデートなんだから!」
「……デート……ですか?」
「そ。ユーリの行きたいとこ行くわよ!」
「……え!?私が決めるんですか!?」
「あったりまえじゃない!」
予想外の言葉に少女はぎょっとして目を見開くが、K.Kはそんな少女に楽しげに笑いながら即答した。
「今日はユーリのわがまま一杯聞く日なんだから!」
「……と、言いますと?」
「ユーリはいつも自分の意見を言わなすぎだし一人であれこれしようとしすぎ!たまにはわがまま言って人を振り回すくらいしないと!」
「……いや、そんなことは……」
「今日はその訓練よ!さ、たっぷりアタシを振り回しなさい!どこ行く?」
「……えっと……」
期待満々といった風なK・Kを見て、ああこれは覆せないなと察した少女は、慌てて思考を巡らせた。
K.Kの行きたい所に付き合うと思っていたので、自分では何も考えていなかった。どうしようかと盛大に悩んでいると、見かねたらしいK.Kが助言を投げかける。
「いつも休みの日はどうしてんの?」
「いつもは……買い出しして軽く家事して後は寝てるか気になる案件の書類読んでます」
「社畜の休日じゃない!」
「す、すいません…!!でも他にすること思いつかなくて…!」
「どっか行きたいとこないの?ほら、今話題のスポットとか」
「話題のスポット…ですか…?えっと……」
再度助言を受けて、少女は眉間に似合わないしわを寄せた。仕事がない日はK.Kに答えたことを主にしているが、だからといってその手のチェックを一切していない訳ではない。何かあっただろうかと最近目を通した情報を記憶から引っ張り出して、それらしい話題を探す。
「……あ、じゃあ……」
そうして思いついた場所を、少女は口に出した。
K.Kと少女が訪れたのは、最近出来た大型ショッピングモールだった。主に人界向けの店が立ち並ぶが、時折明らかに異界向けの店やどちらにも対応できそうな商品の並ぶ店も見受けられた。道行く人々も店員も、人界・異界の比率は半々といった所で賑わっている。
「前にラジオで宣伝してて、一回来てみたかったんです……」
「そういえばちょっと話題になってたわねー」
「あ、あのでも……本当にここでいいんですか…?」
「もっちろんよー!どこから行く?」
「K.Kさんはどこか行きたいとこありますか?」
「今日はユーリっちの行きたいとこに行く日!」
「ぅ……そ、そうでした…じゃあ、案内板見ましょうか」
びしりと断言されてこっそり息をついてから、めぼしい店を探すことにした少女はすぐ側にあった案内板に向き直った。時々人類の喉では発音ができなさそうな文字列が並ぶ部分があるものの、概ね品物が想像できそうな店や有名チェーン店の名前も見られる案内板を一通り見て、しばらく考え込む。
「……ここに、」
やがて、少女はやや躊躇いがちにとある一角を指差した。
「行ってもいいですか…?」
「いいわよー!」
二つ返事をしたK.Kは促すように少女の肩を軽く抱いて歩き出す。
モールの中心部でもある吹き抜けの大通りは親子連れが多く、ずらりと並ぶ店をのんびりと歩きながら見て回っている姿は絵に描いたような幸せな家族の光景だった。手をつないで今日の夕飯は何にしようかと楽しげに話している親子を、少女は何となく目で追う。
それに気付いたK・Kが少女に冗談めかして声をかけた。
「アタシ達も手つなぐ?」
「!?いえいえいえいえいーーえ!!そんな子供じゃないですし…!あ、ほ、ほら!向こうですよ!」
K・Kの問いに大慌てで即答した少女は目的地に駆け出す。小さく息をついてからK・Kも後を追おうとし、
「!ユーリ!!」
「!」
鋭く声を放った時には警告音が鳴っていた。
モールの中心路である大通りを貫くように轟音が響き渡り、音を鳴らしている主が姿を見せる。
それは例えるなら、モップを被った列車だった。レールのない道を爆走するモップ列車は真っ直ぐに少女に向かって突き進んでいる。
「あ…!」
それに気付いた少女もすぐ様避けようとしたが、モップ列車の車線上に子供が立ち尽くしていることに気付いて飛び退こうと力をこめた足を前へ向けて踏み出した。呆然とした様子で自分に迫り来る脅威を凝視している小さな体を、横から攫うように抱きかかえて跳ぶ。
巨大な姿が通り過ぎるのと、少女が雑貨屋の棚に激突するのとはほぼ同時だった。轟音に紛れて金属が落ちる甲高い音が響く。
『ただいま清掃車両が通過中です。お客様方は自己責任で回避をお願いいたします』
「言うのが遅過ぎんのよバカッタレ!!ユーリ!大丈夫!?」
「だ……大丈夫です…!」
呑気な放送に悪態をつきつつ、K・Kは慌てて少女に駆け寄った。商品の雪崩の中から手を出して返事をした少女は、次いで鍋を押しのけながら顔を出す。まだ何が起こったのか把握しきれていない様子の子供の服を軽くはたいてやり、にこりと笑いかけた。
「……うん、怪我はないね」
そんな少女の元に母親らしき女性が駆け寄り、恐縮しきった様子で何度も頭を下げた。少女は何でもないように笑顔で首を振って返し、最後にもう一度頭を下げる母親と無邪気に手を振る子供を見送ってから、K・Kに振り返る。
「さっすがユーリっち!やるじゃない」
「ありがとうございます」
賞賛の言葉に照れくさそうに返してから、少女は若干躊躇いがちに続けた。
「えっと……買い物の続き、しましょうか」
「そうね」
K・Kも頷き、改めて二人で連れ立って店の中に入っていった。
「……っ……」
「ユーリ?どうかした?」
「!あ、いえ!大丈夫です」