霧の向こうで
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案内された場所には、一つの敷地内に豪邸と呼んでも差し支えない洋館と和風の離れが並んで建っていた。唖然とした様子で立ち尽くしたレオとザップに、燈が「ビジネスとちょっとのコネで手に入れた叩き上げよ?」と得意げに言い、洋館の方へと四人を案内した。
様々な手配の関係上、本格的な調査と帰る方法の模索は明日からという結論となり、客間の準備をするから待っていてくれと言われた四人は、応接間に通される。
「……確定的だなこりゃ」
四人だけになって少ししてから、ソファの縁に寄りかかるように腰かけたスティーブンがため息をついた。
「『同族殺し』の吸血鬼に『血術』に、一之瀬って家名とあのコート。ついでに祖父達の始祖は資産家だと言ってたな」
「やはり……ここは結理の故郷の次元なのか」
「でも滅んだって言ってましたよね?ユーリ」
「恐らく滅ぶ前の、過去の時間なのだろう。何故ヘルサレムズ・ロットとこの次元が繋がってしまったのかは分からないが……」
「つーかどうすんすかー?俺ら帰れんすかねー?」
「帰らなければならない」
どこか疲れたようにぼやいたザップに、クラウスがきっぱりと告げた。
「いかなる方法を用いても、我々はヘルサレムズ・ロットに戻らなければならない」
「……勿論だ」
「いやいや、言うのは簡単だけど行動起こすのは難しいっしょ!」
クラウスの言葉に同意の頷きを返したスティーブンに、ザップが何かを制するように軽く手を上げながら言い返し、足音を立てずに出入り口の扉の方へ向かう。三人分の怪訝そうな視線が集まる中、ザップはそっとドアノブを握ると勢いよく扉を開けた。
「うわっ!!」
「何せ、こんなお目付け役がいるんだからな」
転がるように応接室に飛び込んできたのは、十歳前後の小女だった。慌てて起き上がり、おろおろと室内を見回す。盛大に顔をしかめたザップが睨むように覗き込むと、小女はびくりと身じろいだ。
「盗み聞きたあしつけのなってねえガキだなあ?チビすけ」
「えっと、その……あの……」
「ザップ止めてやれ。怖がってるじゃないか」
「こ、怖くないです!」
呆れたようにザップを咎めるスティーブンに即答して、小女は立ち上がって室内の四人を見回した。本人としては睨みつけているつもりなのだろうが、全くと言っていい程迫力はない。
「……お、お兄さん達は、吸血鬼ハンターなんですよね?」
「おうそうだぜ。お前みてえなチビッ子吸血鬼なんざひと捻りだ」
「だから止めましょうって。いらん誤解されたらどうするんですか……」
「!やっぱりおじいちゃん達のこと殺しにきたんだ…!」
「ほらー!ややこしくなっちゃったじゃないですか!!」
眉をつり上げてザップに怒声を飛ばしてから、レオが慌てて小女に向き直った。一層表情を険しくして警戒するように構えられたが、レオはそんな小女に笑いかけて目線まで屈む。
「大丈夫だよ?僕達は迷子になってた所を助けてもらったんだ。そんないい人達に酷いことするわけないじゃないか」
「……本当ですか?」
「本当だよ」
「どうか信じて欲しい、レディ」
恐る恐る問いかけてきた小女にレオが即答して頷き、クラウスも後に続いて、小女の目線に合わせるようにしゃがむ。一瞬警戒を強めた小女だったが、クラウスに真っ直ぐに見つめられると驚いたように目を丸くした。
「我々は恩を仇で返すような真似は決してしない。君達を傷つけるようなことは絶対にしないと誓おう」
「…………」
驚いた表情のまま、小女はぱちぱちと瞬きをしながら何かを考えるように数秒黙った。それから真っ直ぐにクラウスを見つめ返して、しっかりとした様子で頷いた。
「……信じます」
「ありがとう。私はクラウス。君の名を聞いてもいいだろうか?」
「一之瀬結理です」
小女の口から出てきた名前に、そして彼女が信じると口にした直後に黒から変化した左右で色の違う瞳の色に、確信の答え合わせができた。
自分達が迷い込んでしまった世界は、一之瀬結理がかつて暮らしていた故郷の過去の世界なのだと。
「……家族でこの屋敷に暮らしているのかね?」
「いいえ。今日からお母さんとお父さんが出張のお仕事だから、わたしだけ泊まってるんです」
「結理…!?」
「あれ?結理じゃん!」
驚いた様子の声が滑り込んだのは、小女が問いかけに答えた直後だった。全員が向けた視線の先には、開け放たれた扉の前で驚きと呆れの混じった表情でいる清一と聡二が立っていた。
「あ、おじいちゃん、お兄ちゃん」
「何してんのここで……すみません家の孫が。何か失礼なことしませんでした?」
「あ、いえ!ただ話してただけですから」
「お孫さん……なのですか?」
「はい。見えないとはよく言われますが……」
「ん?あんたの孫なのにお兄ちゃんってのはどういうことだ?」
「えー?だってこの見てくれで大伯父さんとか呼ばれたくねえもん!」
「……という理由です。結理、もう遅いんだから寝なさい。明日も学校だろう」
「ええー!?まだ全然話してないのにー!」
「即行で旦那に懐きやがった……」
「あの怖いもの知らずは昔からか」
初対面では間違いなく子供受けの悪いクラウスを一切怖がる様子もなく、小女は不満げに声を上げた。最初の態度がおどおどしてたのは、祖父が連れてきた者達が敵なのかもしれないという疑惑と警戒からだったのだろう。
「Ms.結理」
そんな小女の頭を優しく撫でてやりながら、クラウスが言葉をかけた。
「我々は明日も滞在する予定だ。明日、学校が終わってからまた話をしよう」
「ほんとですか!?やったー約束ですよ!おじいちゃんお兄ちゃんおやすみー!」
歓声を上げるなり、小女はたーっと駆け出して部屋を出ていってしまった。それを何とも言えない表情で見送った清一が、申し訳なさそうに苦笑しながら室内の四人に向き直る。
「……すみません。誰に似ちゃったのか活発過ぎるぐらい活発な子で……」
「間違いなく兄貴の嫁さんの血だね」
「聡二うるさい。本当にとんだ失礼を……」
「いえ、慣れてますので」
「?家の孫みたいなのが皆さんの知り合いにも?」
何気ない問いかけに、今度は四人が何とも言えない表情で言葉を濁した。その反応に、双子の吸血鬼は怪訝そうに顔を見合わせた。