霧の向こうで
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旧サイト一万打企画リクエスト「ライブラがもし夢主の滅びる前の世界に行ってたらな話」
その日は妙に霧の濃い日だった。
ただ、それを除けばいつも通りに平穏に物騒なヘルサレムズ・ロットで、いつものように突然現れて暴れ出した謎の巨大生物の殲滅に、ライブラのメンバーは出動していた。
現れた場所はいつもならばもっと霧が薄い大通りなのだが、今日は何故か霧が濃く視界も悪い。それにもかかわらず、というより見えていようがなかろうがお構いなしといった様子で、巨大生物は蔦状の触手を見境なく振るう。
『5時と12時から来ます!あ、ザップさん十歩下がって!』
その為今回の戦闘は、結理が探知能力を駆使してスティーブンとザップに攻撃の来る方角を指示し、レオが『神々の義眼』の力でクラウスの視界を補助するという作戦で展開させていた。
作戦が功を奏し、参加メンバーは一人も蔦の攻撃を食らうことなく早急に巨大生物を殲滅させることが出来ていた。
『……OKです。復活の気配ありません』
結理からの通信に、それぞれが戦闘態勢を解いて息をつく。
その瞬間、霧が更に濃く、煙のように立ちこめた。
「……嫌な霧だな」
「今日はやけに濃いですよね。そう異界(あっち)側に近いって訳でもねえのに……」
言葉の通り嫌そうに顔をしかめるスティーブンにザップがぼやくように返している間に、霧は風に流れるように少しずつ晴れていっていた。
だがその違和感に、どちらともなしに眉を寄せる。霧が少しずつ引いてきているにもかかわらず、辺りがやけに暗い。時刻はまだ夕方にも差し掛かっていないはずなのに、こんなにも暗いのはおかしい。
そう思っている間に霧は完全に晴れ、
「「………………」」
晴れた視界に映った光景に絶句した。
今まで立ち込めていたのが嘘のように霧はなく、星が瞬いている闇色の空が見えるそこは、見慣れた元紐育の異界都市ではなかった。人っ子一人いない寂れたアーケードの入口に、スティーブンとザップは立っている。慌てて周囲を見やると、十メートル程離れた場所にクラウスとレオがいて、二人も状況が飲み込めていない様子で、特にレオの方は盛大に慌てて周囲を見回している。
互いの姿を見つけた四人は合流し、呆然と顔を突き合わせた。
「ここは……どこだ?」
「ヘルサレムズ・ロット……どころか紐育ですらないな、どう見ても……」
「つーかちんちくりんどこ行った?」
「あれ?さっきまですぐ近くにいたのに……っ!」
「?どうした少年?」
「血界の眷属です!」
『!?』
ある方向を見たレオが緊迫した声を張り上げ、三人が反射的に構えた直後にアーケードの屋根の上から三人組の男が飛び降りてきた。それぞれ違う系統の顔立ちをした男達は、クラウス達の姿を認めるとにやりと笑って鋭い犬歯を見せる。
「お?人間か!」
「なんだ男かよ……」
「まあいい。逃げ回って喉乾いてきたところだ。おいしくいただかせてもらうぜ!!」
楽しげに言い放ちながら三体の吸血鬼が距離を詰めようと地を蹴った。クラウス、ザップ、スティーブンは抗戦しようと構え、レオは慌てて下がりながら諱名を読み取る為に目を見開く。
「『血術―ブラッド・クラフト―』……『針―ニードル―』」
だが両者がぶつかり合う直前で、よく通る声が響くと同時に吸血鬼の目の前に大きな赤い針が雨のように降り注いて地面に突き刺さった。攻撃の乱入に足が止まった間に、二つの人影が割って入るように降り立つ。
間に入った第三者は、鏡で映したように同じ顔立ちをした二人の青年だった。揃いの黒のサマーコートを羽織った二人の内の片方がクラウス達の方に振り向き、告げる。
「……下がっててください」
「『同族殺し』…!もう来やがったのか!」
「お前らの足が遅すぎなだけ!まあ、そのおかげで無駄な被害者出さずに済んだけどね」
「『愚王』の血統。大人しく投降して二度と他者を襲わないと誓うのなら、相応の対応はする。君達が暴れなければ、こっちはこれ以上戦闘をするつもりはない」
「……はっ!『穢れた血』が偉そうな口叩くじゃねえかよ!」
「お前らこそ百年未満(ひよっ子)の癖に生意気言ってんじゃねえっての!ボク達が平和的に終わらそうって言ってる内に諦めなよ。命は大事にした方がいいよー?」
「諦める?それはてめえらの方だ!!」
「……仕方ない」
ため息交じりの言葉が合図になったように、『同族殺し』と呼ばれた二人の青年と『愚王』と呼ばれた三人組の吸血鬼が同時に地を蹴った。
「あ……あの二人も血界の眷属です…!」
「「『血術』……『爪―クロウ―』」」
レオが掠れた声を漏らす中、乱入した二人の吸血鬼が同時に手に赤をまとわせ、ぶつかり合う。
吸血鬼同士が戦っている状況を、クラウス達四人は戦闘態勢こそ解かなかったものの、ただ呆然と見ていることしかできなかった。
「……何……なんだよ、これ……訳分かんねえ…!」
四人が四人とも少なからず思っていただろうことを、ザップが口に出した。
状況は全く以って訳が分からない。突然ヘルサレムズ・ロットでないどこかに放り出されたと思ったら、今度は血界の眷属が合計で五人現れて当人同士で争いだしている。
超常現象が日常の都市に年単位で暮らしていてもついていけない状況に、どう動いていいのかすら判断がつかない。
「……分かることは、ここがヘルサレムズ・ロットでないことと、タチの悪い集団幻覚ではなさそうなことくらいか…?あとは……」
「恐らくあの二人の吸血鬼は敵ではない、ということだ」
戦況からは目を離さずに難しげに顔をしかめたスティーブンの後を、クラウスが続けた。
「『同族殺し』と呼ばれた彼等のコートに、見覚えはないだろうか?」
「……あ!ユーリの…!」
言われて改めて彼等を注視したレオが、そのことに気付いて声を上げた。『愚王』と呼んだ吸血鬼達と交戦中の二人の青年が着ている黒のサマーコートは、よく知る少女が着ているものと同じデザインだ。
加えて『同族殺し』という呼称と彼等が手に纏っている赤い刃爪に、まさかという一つの可能性がよぎる。
「……おいちょっと待て。彼等が本当にそうだとしたらここは……」
よぎった可能性を口に出そうとした直前、背後で重い音がした。振り向いた時には音の持ち主であろう二足歩行の獣のような姿をした何かが、距離を詰めながら一番近くにいたレオに向かって鋭い爪を振り翳していた。
「っ!しまっ……」
それに気付いた吸血鬼の青年が慌てた様子で獣に向かおうとするが、それよりも早くクラウス達が動いていた。
拳が、蹴りが、赤い刃が、少年を引き裂こうとした獣を難なく打ち倒す。一瞬遅れて、標的にされていたレオが腰を抜かしたように尻餅をついた。
「ひゅー!強いじゃんあの人達!」
「はっ!余裕ぶってられんのも今の内だぜ!」
歓声を上げる青年に吸血鬼の一人が吐き捨てた直後、地面に落ちて動かなくなったはずの獣がゆっくりと起き上がった。傷は目に見える速度で塞がり始めていて、苛立たしげに牙をむいて再び爪を振り上げる。
「……使い魔か」
「結構再生早いじゃん。いや……元が妖だからかな…?」
「……聡、3分だけそっち任す」
「あいよ」
聡と呼んだ青年に言い置いたもう一人の青年が、一足で距離を詰めながら腕を振るった。
「『血術』……『縛―バインド―』」
放った赤い縄で地面に縫い止めるように獣を拘束しながら、青年はクラウス達四人の方に振り向く。
「すみません。見ず知らずの人にいきなりこんなこと言うのも悪いんですけど、戦えるんなら少し協力して頂けませんか?」
「元よりそのつもりです」
「助かります。多分、最低でも後三人は敵が潜んでます。それと、あの獣はあっちの奴らを倒さない限りは再生し続けます。僕達が奴らを何とかするんで、それまで迎撃をお願いします」
口早にそれだけ言うと、青年は再び戦場へ戻っていった。
その日は妙に霧の濃い日だった。
ただ、それを除けばいつも通りに平穏に物騒なヘルサレムズ・ロットで、いつものように突然現れて暴れ出した謎の巨大生物の殲滅に、ライブラのメンバーは出動していた。
現れた場所はいつもならばもっと霧が薄い大通りなのだが、今日は何故か霧が濃く視界も悪い。それにもかかわらず、というより見えていようがなかろうがお構いなしといった様子で、巨大生物は蔦状の触手を見境なく振るう。
『5時と12時から来ます!あ、ザップさん十歩下がって!』
その為今回の戦闘は、結理が探知能力を駆使してスティーブンとザップに攻撃の来る方角を指示し、レオが『神々の義眼』の力でクラウスの視界を補助するという作戦で展開させていた。
作戦が功を奏し、参加メンバーは一人も蔦の攻撃を食らうことなく早急に巨大生物を殲滅させることが出来ていた。
『……OKです。復活の気配ありません』
結理からの通信に、それぞれが戦闘態勢を解いて息をつく。
その瞬間、霧が更に濃く、煙のように立ちこめた。
「……嫌な霧だな」
「今日はやけに濃いですよね。そう異界(あっち)側に近いって訳でもねえのに……」
言葉の通り嫌そうに顔をしかめるスティーブンにザップがぼやくように返している間に、霧は風に流れるように少しずつ晴れていっていた。
だがその違和感に、どちらともなしに眉を寄せる。霧が少しずつ引いてきているにもかかわらず、辺りがやけに暗い。時刻はまだ夕方にも差し掛かっていないはずなのに、こんなにも暗いのはおかしい。
そう思っている間に霧は完全に晴れ、
「「………………」」
晴れた視界に映った光景に絶句した。
今まで立ち込めていたのが嘘のように霧はなく、星が瞬いている闇色の空が見えるそこは、見慣れた元紐育の異界都市ではなかった。人っ子一人いない寂れたアーケードの入口に、スティーブンとザップは立っている。慌てて周囲を見やると、十メートル程離れた場所にクラウスとレオがいて、二人も状況が飲み込めていない様子で、特にレオの方は盛大に慌てて周囲を見回している。
互いの姿を見つけた四人は合流し、呆然と顔を突き合わせた。
「ここは……どこだ?」
「ヘルサレムズ・ロット……どころか紐育ですらないな、どう見ても……」
「つーかちんちくりんどこ行った?」
「あれ?さっきまですぐ近くにいたのに……っ!」
「?どうした少年?」
「血界の眷属です!」
『!?』
ある方向を見たレオが緊迫した声を張り上げ、三人が反射的に構えた直後にアーケードの屋根の上から三人組の男が飛び降りてきた。それぞれ違う系統の顔立ちをした男達は、クラウス達の姿を認めるとにやりと笑って鋭い犬歯を見せる。
「お?人間か!」
「なんだ男かよ……」
「まあいい。逃げ回って喉乾いてきたところだ。おいしくいただかせてもらうぜ!!」
楽しげに言い放ちながら三体の吸血鬼が距離を詰めようと地を蹴った。クラウス、ザップ、スティーブンは抗戦しようと構え、レオは慌てて下がりながら諱名を読み取る為に目を見開く。
「『血術―ブラッド・クラフト―』……『針―ニードル―』」
だが両者がぶつかり合う直前で、よく通る声が響くと同時に吸血鬼の目の前に大きな赤い針が雨のように降り注いて地面に突き刺さった。攻撃の乱入に足が止まった間に、二つの人影が割って入るように降り立つ。
間に入った第三者は、鏡で映したように同じ顔立ちをした二人の青年だった。揃いの黒のサマーコートを羽織った二人の内の片方がクラウス達の方に振り向き、告げる。
「……下がっててください」
「『同族殺し』…!もう来やがったのか!」
「お前らの足が遅すぎなだけ!まあ、そのおかげで無駄な被害者出さずに済んだけどね」
「『愚王』の血統。大人しく投降して二度と他者を襲わないと誓うのなら、相応の対応はする。君達が暴れなければ、こっちはこれ以上戦闘をするつもりはない」
「……はっ!『穢れた血』が偉そうな口叩くじゃねえかよ!」
「お前らこそ百年未満(ひよっ子)の癖に生意気言ってんじゃねえっての!ボク達が平和的に終わらそうって言ってる内に諦めなよ。命は大事にした方がいいよー?」
「諦める?それはてめえらの方だ!!」
「……仕方ない」
ため息交じりの言葉が合図になったように、『同族殺し』と呼ばれた二人の青年と『愚王』と呼ばれた三人組の吸血鬼が同時に地を蹴った。
「あ……あの二人も血界の眷属です…!」
「「『血術』……『爪―クロウ―』」」
レオが掠れた声を漏らす中、乱入した二人の吸血鬼が同時に手に赤をまとわせ、ぶつかり合う。
吸血鬼同士が戦っている状況を、クラウス達四人は戦闘態勢こそ解かなかったものの、ただ呆然と見ていることしかできなかった。
「……何……なんだよ、これ……訳分かんねえ…!」
四人が四人とも少なからず思っていただろうことを、ザップが口に出した。
状況は全く以って訳が分からない。突然ヘルサレムズ・ロットでないどこかに放り出されたと思ったら、今度は血界の眷属が合計で五人現れて当人同士で争いだしている。
超常現象が日常の都市に年単位で暮らしていてもついていけない状況に、どう動いていいのかすら判断がつかない。
「……分かることは、ここがヘルサレムズ・ロットでないことと、タチの悪い集団幻覚ではなさそうなことくらいか…?あとは……」
「恐らくあの二人の吸血鬼は敵ではない、ということだ」
戦況からは目を離さずに難しげに顔をしかめたスティーブンの後を、クラウスが続けた。
「『同族殺し』と呼ばれた彼等のコートに、見覚えはないだろうか?」
「……あ!ユーリの…!」
言われて改めて彼等を注視したレオが、そのことに気付いて声を上げた。『愚王』と呼んだ吸血鬼達と交戦中の二人の青年が着ている黒のサマーコートは、よく知る少女が着ているものと同じデザインだ。
加えて『同族殺し』という呼称と彼等が手に纏っている赤い刃爪に、まさかという一つの可能性がよぎる。
「……おいちょっと待て。彼等が本当にそうだとしたらここは……」
よぎった可能性を口に出そうとした直前、背後で重い音がした。振り向いた時には音の持ち主であろう二足歩行の獣のような姿をした何かが、距離を詰めながら一番近くにいたレオに向かって鋭い爪を振り翳していた。
「っ!しまっ……」
それに気付いた吸血鬼の青年が慌てた様子で獣に向かおうとするが、それよりも早くクラウス達が動いていた。
拳が、蹴りが、赤い刃が、少年を引き裂こうとした獣を難なく打ち倒す。一瞬遅れて、標的にされていたレオが腰を抜かしたように尻餅をついた。
「ひゅー!強いじゃんあの人達!」
「はっ!余裕ぶってられんのも今の内だぜ!」
歓声を上げる青年に吸血鬼の一人が吐き捨てた直後、地面に落ちて動かなくなったはずの獣がゆっくりと起き上がった。傷は目に見える速度で塞がり始めていて、苛立たしげに牙をむいて再び爪を振り上げる。
「……使い魔か」
「結構再生早いじゃん。いや……元が妖だからかな…?」
「……聡、3分だけそっち任す」
「あいよ」
聡と呼んだ青年に言い置いたもう一人の青年が、一足で距離を詰めながら腕を振るった。
「『血術』……『縛―バインド―』」
放った赤い縄で地面に縫い止めるように獣を拘束しながら、青年はクラウス達四人の方に振り向く。
「すみません。見ず知らずの人にいきなりこんなこと言うのも悪いんですけど、戦えるんなら少し協力して頂けませんか?」
「元よりそのつもりです」
「助かります。多分、最低でも後三人は敵が潜んでます。それと、あの獣はあっちの奴らを倒さない限りは再生し続けます。僕達が奴らを何とかするんで、それまで迎撃をお願いします」
口早にそれだけ言うと、青年は再び戦場へ戻っていった。