のまれてしまえ
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「よかったじゃない。いつも可愛がってる後輩に懐かれて役得でしょ?」
「てんめー…!」
「けどお持ち帰りは断固阻止するから」
「誰がこんなガキ持ち帰るか!」
「おもちかえりはだめですよ~」
「だから持ち帰んねえよ!黙ってろ酔っ払い!!ちょ……スターフェイズさん!こいつ何とかなんねえすか!?」
酔っ払いの少女を一番どうにか出来そうな相手に助けを求めようとしたザップが顔を上げると、その相手は既にその場にはいなかった。一体いつの間に出ていったのか、スティーブンは見事に逃走と事態の丸投げを成功させていた。
「嘘だろオイ…!逃げやがった…!!」
「いついなくなったの…!?」
不可視の人狼もびっくりな気配の消し方をしてデスクを空にした主に、ザップとチェインは愕然とするしかなかった。それから互いに、自分も同じ表情をしているのだろうなと思う顔を見合わせる。
扉が開く音がしたのは二人が言葉を発しようとする直前だった。
「「っ!ギルベルトさん!!」」
「ギルベルトさ~ん?」
入って来たのは別室で仕事をしていたらしいギルベルトで、室内にいた面々に注目されて数瞬怪訝そうな顔をしたが、すぐ様事態を察したらしくザップに抱きついたままの結理に視線を移して笑いかけた。
「結理さん、今日はいつも以上にご機嫌が宜しいようですね?」
「えへへ~そうですか~?いつも通りですよ~」
声をかけられた結理はへらへら笑いながら答えてザップから離れ、ギルベルトの方へふらふらと駆けていく。その間にギルベルトはザップとチェインに目配せをしながら、抱きつこうとしてきた結理をごく自然な動作で受け流して椅子に座らせた。数秒遅れて目配せの意味を察したザップとチェインは、慌てて水を取りに給湯室の方へ向かう。
「うおおぅ……流石だぜギルベルトさん…!」
これでしばらくは持つ、あるいは無事に鎮静化するだろうと息をついたザップとチェインが給湯室に入った直後、二か所の扉が同時に開いた。入って来たのはクラウスとツェッドで、座ったままふらふらと体が揺れている結理とその傍らにいるギルベルトに気付くと訝しげに眉を寄せる。
「……?何か」
「っ?クラウスさ~~~ん!!」
「!?」
疑問が投げかけられるよりも早く、少女は動いていた。クラウスの姿を見つけるなり即座に立ち上がって駆け出し、ふらついた足で行ったとは思えない跳躍をして飛びついた。反射的に受け止められた結理は、満面の笑顔でクラウスに抱きついて擦り寄る。
「ふへへ~……くらうすさ~ん……」
「……結理……一体どうしたというのだね?」
「お酒を飲まれてしまったようです」
「成程」
ギルベルトの返答に頷いたのはツェッドで、即座に少女の視界に入らないようにできる限り遠くに離れた。抱きつかれたままのクラウスは、どう対応すればいいのかを盛大に悩んでいる表情を顔全体に出しながらも、今にも引っ繰り返ってしまいそうな結理を慎重に支える。そのまま数秒程沈黙してから、クラウスは何を思ったのか少女を抱き上げると自分の膝に乗せる形で一緒にソファに座った。
「……何故その体勢を選んだんですか?」
「……これが一番安定感があるのではないかと思って……」
「安定感バツグンですよ~クラウスさ~ん!」
「そうか。それはよかった」
結理からのお墨付きをもらって安堵するクラウスに、ツェッドは何か突っ込みを入れるべきか大分悩んだが、水を持ったチェインとザップが戻って来たので言うのを止めた。
「おー……旦那に捕獲されたか」
「ほかくされました~えへへ~」
「結理これ飲んで」
「は~い……」
差し出されたコップを受け取って、結理は中身を一気に飲み干した。ほうと息をついて、満足げにクラウスに寄りかかってへらへら笑う。
「……今日は比較的大人しいですね。」
「飲んだ量が少ねえからか?」
「また貴方が飲ませたんですか…!?懲りない人ですね」
「こっちも騙されたんだよ…!」
「このまま酔いが醒めるまで大人しくしててくれたらいいが……」
「うぉっ!!?スターフェイズさんどこ行ってたんすか!?」
「こんちわーっす」
今の所は大人しくしている少女を囲むように眺めていると、出入り口の扉が開いてレオが入って来た。いつも通りに挨拶をしたレオは、メンバーが一か所に集まっている状況とその中心にいる……というよりはクラウスの膝に乗せられている結理を見て、驚いたように止まる。
「……え、何すかこの状況」
「このどクズSSウジモンキーが結理にお酒飲ましちゃったのよ」
「えええっ!?またですか!!?アンタほんと懲りないな!!」
「あ~レオく~~ん!」
簡単に説明された状況に思わず突っ込みを入れたことで、レオがやってきたことに気付いた結理が満面の笑顔で少年の方を向き、何かを求めるように両腕を伸ばした。子が親にせがむような体勢に呆れと戸惑いの表情を浮かべつつ、レオは少女に近寄った。
「あーあー……思いきし出来あがっちゃってんじゃん…!」
「うへへ~れおく~ん……」
「はいはい。とりあえずクラウスさんから降りような?」
「レオ君がぎゅーってしてくれたら~」
返答した時には、既に少女はレオに抱きついていた。一瞬動揺したレオだったが、酔っ払いの奇行とすぐ様割り切って結理を抱きしめ返してやる。
「これで満足した?」
「えへへ~レオ君好き~」
猫のように擦り寄りながら、結理は緩み切った笑みと一緒に言葉をこぼした。
「初めて見た時からね~?ああ、いい人なんだろうなあって思ったの。だから思わず名乗っちゃって……そんなのほとんど初めてだったなあ……」
「あの……ユーリ…?」
「一目惚れみたいなもんだよねえ~」
「………………え?」
「レオ君は~優しくて~友達思いで~そりゃあ戦闘力は超低いけど、それ以外の……それ以上のすごい強い所があって……そんな~かっこいいレオ君が大好きなんだ~」
「……え……えぇ……!?」
いきなり始まった告白に、割り切ったはずの動揺が恐ろしい勢いで戻って来た。戸惑いの声を上げることしかできない相手にお構いなしに、結理は顔を上げながらレオの首に縋るように抱きつくと、背伸びをして頬にキスをしてから「えへへ……」と嬉しそうに笑う。
「大好きだよ~レオ君……」
「…………!!?」
「……レオ君みたいなお兄ちゃん欲しかったなあ…………」
「…………はい?うわわわ…!!」
ダメ押しのように放られた言葉に色々な意味で固まった直後、少女が全体重を預けてきた。慌てて抱き支えて踏ん張り、安堵の息をついてから見ると、結理は緩み切った笑顔のまま寝息を立てていた。
「…………え?何?結局俺お兄ちゃんってことでいいの?」
思わず呟いてから視線に気付いて顔を上げると、室内にいた面々がレオと結理を見ていた。にやにやと笑っているザップを除いて微笑ましげに見られていて、唯一スティーブンだけが表情を隠すように顔を手で覆っているが、多分他の面々と似たような心境なのだろうことは予測できた。
「この人数のど真ん中で大告白かますたあ大胆なちんちくりんだなあオイ!どうすんだレオ?責任とってもらってやんのか?」
「いや今の結論聞いてなかったんですか?お兄ちゃんですよお兄ちゃん」
「でも途中まで動揺したろ?紛らわしいことするお嬢さんだよなあ……」
「あ……はい。結構ドキっとしました……」
ザップのからかいは顔をしかめて切り捨てたレオは、何故か困ったように苦笑しているスティーブンに正直に頷いてから、色々と投下してくれた結理を見下ろす。
酔い潰れている少女は、場の空気にも視線にも気付かずとても満足げに眠っていた。
「……成程ねえ……それでレオっちに懐いてるのね」
「全然離れてくれないんですよ……」
騒動がひとまずの収束を見せて少し経った頃に事務所に顔を出したK.Kに状況を説明し終え、レオは若干疲れたようなため息をついた。
あれから結理は、酔い潰れて眠っているにも関わらずレオにしがみつき続けていた。引き剥がそうにもそれなりに力が強いので、無理にやれば起こしてしまうかもしれないという結論が出てしまった為に、レオは抱き枕の様な状態を仕方なしに受け入れている。少女が起きてまだ酔いが醒めていなかった場合、何が起こるか分からないからだ。
「けどまあ、たまにはいいんじゃないかしら?レオっちは大変でしょうけど」
さりげなく携帯のカメラで二人を撮りながら、K.Kは苦笑の様な笑みをこぼす。レオが視線だけで問うと、K.Kは眠り続ける結理の頭を軽く撫でながら返した。
「ユーリってさ、人懐っこいけどあんまり甘えたりはしないじゃない?でも酔っ払っちゃってる時の行動見ると、本当は結構我慢してるとこがあったりするんじゃないかなーって、思うワケよ」
「……あー……何か分かるかもしれないです」
「シラフの時にもっと甘えてくれていいんだけどねえ……レオっちも満更じゃないでしょ?」
実感のこもったため息とからかうような問いを聞きつつ、レオは渦中の少女を見下ろした。相変わらず幸せそうな顔で寝ている結理を見て色々思う所があるが、それを一言に集約してこぼす。
「……妹が一人増えたような気分です」
言いながら顔にかかった髪を払ってやると、眠っているはずの少女は満足げな笑みを漏らした。
end.
2024年8月31日 再掲