ある幸せの形
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旧サイト一万打企画リクエスト「ライブラがもし夢主の家族に出会ったら」
今日も今日とて、一之瀬結理は事務仕事に追われていた。理由は色々あるが、簡単にまとめればヘルサレムズ・ロットはいつでも騒動のオンパレードだからだ。
「だああああもおおおお!!あんのシルバーシットヒトモドキ!!古文書出すなって何回言ったら聞いてくれんの!!!」
そうして出てきた見飽きた報告書もどきを目にした結理は思わず叫びつつ、手元だけはペースを緩めることもなく処理を続けていく。叫んで書類が片付くのならばいくらでも叫ぶが、そんなことは非日常が日常のHLでもあり得ない。
「ああもうやだー……ツェッド君の超綺麗な書類だけ処理したいー……古文書の手直しなんてやだー……手流派同じなのに差があり過ぎるー……一般常識もちゃんと教えてよお師匠さーん…!!」
「そうやって文句言いながらちゃんと古文書を引き受けてくれる所は大いに評価するよ」
「ありがとうございます」
泣き言を漏らしながらもやはり手は止めない少女に、同じように書類処理に追われているスティーブンが苦笑交じりに称賛すると、結理は嫌そうにしかめていた表情を正してさらりと返した。
「それを形にしてくれるとなお嬉しいです。事務要員増やすとか」
「そろそろ少年が戻って来る頃合いかな?そうしたら休憩にしよう」
「(さらっと流されたし…!)うわー…もうお昼通り越しておやつの時間じゃないですか……お腹空いたー……!」
「おつかれさまでーす」
両手いっぱいにビニール袋を提げたレオが入って来たのは、そんな雑談を交わしている最中だった。丁度書類を一つ処理し終えた結理は、ばっと顔を上げて立ち上がる。
「お帰りサブレオナルドウェイ君!」
「どんだけ飢えてんだよ!」
「ネジかよ!」と突っ込むレオが袋をテーブルに置いた時には、少女はデスクから離れてすっ飛んできていた。いそいそと袋から出していると着信音が鳴り、持ち主であるスティーブンが電話に出る。
「やあ久し振り。ああ、元気にしているよ。その件ならこっちの手続きは大体終わってるから、後は君達待ちだ」
「うわ……とうとう異界系メニュー始めたんだ……いやバブラデュゴおいしいけどさ……」
「何かお試しメニューで始めたらしいけど、結構人気ありそうだったよ。このままレギュラーメニューになるかもなあ……」
「やっぱチェーン店も……いやチェーン店だから?HL(この街)のニーズには応えていくのかな…?その内ジャック&ロケッツとかも異界系メニュー出したりして」
「いやー……あそこはゲットー・ヘイツの中だから流石にやんないんじゃないかなあ…?」
「お嬢さん、ちょっと代わってくれ。君と話したいそうだ」
「はい?」
袋に入っていたチラシに目を通し、レオと話しながら一つ目のサンドウィッチの包み紙を開こうとした所で、結理はスティーブンに呼ばれた。一体誰がと思いながら側まで行って電話を受け取り、通話を代わる。
「もしもし代わりました……っ!?え?ちょ、どうしたの!?えええっ!!?来るって……明日あ!!?だって渡航許可、つか諸々の許可とか……嘘お!!?またえげつない手使ったんでしょ…!いやいや三年かかったじゃないし!」
「……誰と話してるんすか?」
「お嬢さんの父親だ」
「あー父親……」
盛大に驚き続けている結理を見ながら尋ねるレオに、スティーブンが簡潔に返した。返答を聞いて普通に納得しかけたレオは、
「……え!!?」
驚愕の表情で固まっていた。
「結理の両親が来る!?」
翌日、いつものようにやや遅く出勤したザップは、話を聞いて顔を引きつらせていた。
「あいつの両親っつったらあれでしょ?一之瀬のあれっすよね…?」
「?ユーリん家って何かあるすか?」
戸惑いと若干の恐怖らしき感情を前面に出しているザップに、レオは怪訝そうに問いかけた。ザップが来る前に話を聞いたツェッドも似たような反応をしたので、自分の知らない何かがあるのは分かるが、結理とはごく普通に接しているのでいまいちピンとこない。
「……あのちんちくりんが血界の眷属も混じった化物のごった煮なのは知ってんだろ?」
そんなレオに、ザップは嫌そうに顔をしかめて少女の家系を簡潔に説明する。
「それはあいつの親類ほぼ全員もそうで、その上半分近くが血界の眷属だ。一之瀬家っつったらこっちの界隈じゃ有名も有名な化物一族なんだよ」
「血界の眷属って……滅殺とかされなかったんですか?」
「彼等は元々、一之瀬流血創術(けっそうじゅつ)という流派の使い手だったんです。創始者も含めた術者の全員が『何か』によって血界の眷属へと転化させられたそうですが、その後も変わらずに他の血界の眷属を敵とし牙狩りとして活動すると、創始者が取り決めて協定を結んだそうですよ」
「へー……」
「そんなんが何しに来るんですか?」
「本人はお嬢さんに会う為と言っていたが、本部からの出向でライブラに加わることになった」
「マジっすか…!!?」
スティーブンの返答を聞いたザップは、思わずレオとツェッドと顔を見合わせた。似たような心境らしく複雑そうな顔をしている二人にチェインも加わり、こっそり話し合う。
「あいつの両親ってことは……あれ以上のバーサーカーってことか…?」
「それありそうっすね……」
「噂を聞く限りですけど、かなり恐ろしい一族らしいですし……」
「ある意味HL(この街)向きじゃない?」
「これ以上バーサーカー増やしてどうすんだよ…?」
「スティーブンは結理の御両親と面識があるのだろう?」
「ああ、父親の方だけね。昔何度か作戦を共にしたことがあるんだ。その縁で今でもそれなりに連絡は取り合ってるよ。まあ……基本的にお嬢さんの様子を聞いてくるばかりだけど」
戦々恐々と言った風な年少組を眺めながら、スティーブンはクラウスの問いかけに笑み交じりに答えた。結理の父親とはそれなりに交流があるのだが、あえて彼等の想像図は否定せずに放置しておいた。こちらから何かを言うより、実際に見た方がきっと早い。
「おはようございまーす!」
そうしている内に、いつものように元気よく挨拶をしながら結理がやってきた。いつでも明るさを見せる少女だが、今日はいつも以上に晴れやかに見える。
「おはようお嬢さん。二人は?」
「もう連れてきてます。入ってきて?」
スティーブンに答えた結理は出入り口の扉を大きく開けて、扉の向こうで待っていた二人を招き入れる。
入って来たのは、少女が普段着ているのと同じ黒のサマーコートを羽織った黒髪の男女だった。
「とゆうわけで、わたしの両親です。あ、スティーブンさんは父の方は知ってますよね?」
「ああ。顔を合わせるのは久しぶりだね、翔真」
「久しぶりスティーブン。それと、初めましてミスター・ブレングリード。本日よりライブラに籍を置かせて頂きます、一之瀬翔真です。」
「初めまして。一之瀬結希です」
「ようこそライブラへ。クラウス・V・ラインヘルツです。お話は予てより伺っています。ミスタ一之瀬、ミセス一之瀬」
「僕も会えて光栄ですよ。ミスター・ラインヘルツ。」
そう言って男女とクラウスは挨拶と握手を交わし、翔真と名乗った青年が力を抜くように笑みをこぼした。
「……とまあ、堅苦しいのはここまでにしようクラウス君。出向という形ではあるけれど今日から同志になるんだから、僕らのことは普通に名前で呼んでくれるとありがたいな。中身はおじさんだけど見てくれはこんなだし」
「かしこまられるのも得意じゃないしね」
「うむ、ではそのように。これからよろしく頼む、翔真、結希」
「ええよろしく。皆さんのことは結理から沢山聞いてるわ。こうして顔を合わせるのをとても楽しみにしていたの」
「僕等も自慢の両親だと聞いているよ」
「!やだ結理ちゃん…!」
「ちょ、お母さん…!?」
スティーブンがそう言うと、結希は丸い目を更に丸くして勢いよく結理の方に振り向いた。強烈に嫌な予感がした結理は顔を引きつらせて逃走しようとするが、結希が捕まえる方が早い。
「自慢だなんて……そんな嬉しいこと言われたらお母さん泣いちゃうわ…!」
「小さい時はよく言ってくれてたよなあ……そうかそうか、今も思ってくれてるのか……僕達も結理は自慢の娘だと思ってるよ。あーもー相変わらず可愛いなあ…!!」
「お願い止めて二人とも。空港で散っ々やって注目の的になったからもう止めて…!親バカファミコン一家だと思われるからほんと止めて…!!」
「もう思ってるから心配ないよお嬢さん」
「話に聞いていた通り、とても仲の良い家族のようだ」
「うふふ……そう思ってもらえるととっても嬉しいわ」
「「ねー?」」
「~~~~!」
にこにこ笑う両親からは抱きしめられ、上司には微笑ましげに眺められている結理は、湯気が出そうな程顔を真っ赤にしてうつむいた。両親は尊敬しているし大好きだが、この所構わずスキンシップを取る所だけはどうにかならないかと前々から悩んでいる。顔を合わせるのが久しぶりということもあって、今日は一際強烈だ。
「なあオイ……」
そんなユーリ一家とのやり取りを眺めていたザップが、何とも言えない表情でレオ達の方へ振り向いた。
「あの春の日溜まり夫婦からどうやったらあのバーサーカーが生まれんだ…?」
「予想外に穏やかーな人達っすね……」
「噂の面影が全くありませんよ」
「つか……思いの外マブイなあいつの母ちゃん……」
「「!!?」」
「いやーでも、流石にこれから同僚になる人妻はなあ……ちんちくりんの今後に期待か…?」
「……最低の極致ねクズモンキー」
「あ、君達もよろしくー」
レオとツェッドにドン引きした表情で、チェインに心底蔑んだ目で見られながらザップがぼやいていると、色々な意味で撃沈している結理から離れた翔真が歩み寄って来た。それぞれを順番に見て、穏やかに笑う。
「えーっと……レオナルド君に、ザップ君に、ツェッド君、それとチェインさん、であってるかな?」
「あ、はい!」
「娘からもよく聞いてるよ。何だか随分世話になってるみたいで……じゃじゃ馬で無鉄砲で大変だろう?」
「そんなことは」
「ほんととんでもねえバーサーカーだぜアンタの娘」
「ちょ、ザップさん!!」
「いやいいんだ。僕等もあの子の暴走特急っぷりはちょっと悩みの種でね。危険度の高いHL(この街)で暮らせば少しはマシになるかと思ったけど……相変わらずみたいで」
困ったように苦笑する翔真の物腰はやはり穏やかで、明るく活発過ぎる程活発な結理とは中々結びつかない様子に、レオ達は気遅れをしていた。
「まあでも……家の子と仲良くしてくれて本当にありがとう。それとこれからよろしく。あと、」
一見するとこの物騒が日常のヘルサレムズ・ロットで暮らしていけるとは到底思えないと、誰もがそう思っていた矢先だった。
「いくらマブくても、嫁と娘に手ぇ出したらもぐからな」
『!!』
笑顔のままどすの利いた声で放たれた言葉に空気が一変した。先程とは真逆の意味で気後れしているレオ達が殺気に当てられていることに気付いた結理が、顔をしかめて叱責を飛ばす。
「ちょっとお父さん!何でレオ君達脅かしてんの!!」
「ごめんごめん、ちょっとね」
「本当に相変わらずだね君……」
「あはは……」
察したらしいスティーブンに呆れたようにため息をつかれた翔真は、たった今の空気が最初からなかったかのように穏やかな苦笑をこぼした。
今日も今日とて、一之瀬結理は事務仕事に追われていた。理由は色々あるが、簡単にまとめればヘルサレムズ・ロットはいつでも騒動のオンパレードだからだ。
「だああああもおおおお!!あんのシルバーシットヒトモドキ!!古文書出すなって何回言ったら聞いてくれんの!!!」
そうして出てきた見飽きた報告書もどきを目にした結理は思わず叫びつつ、手元だけはペースを緩めることもなく処理を続けていく。叫んで書類が片付くのならばいくらでも叫ぶが、そんなことは非日常が日常のHLでもあり得ない。
「ああもうやだー……ツェッド君の超綺麗な書類だけ処理したいー……古文書の手直しなんてやだー……手流派同じなのに差があり過ぎるー……一般常識もちゃんと教えてよお師匠さーん…!!」
「そうやって文句言いながらちゃんと古文書を引き受けてくれる所は大いに評価するよ」
「ありがとうございます」
泣き言を漏らしながらもやはり手は止めない少女に、同じように書類処理に追われているスティーブンが苦笑交じりに称賛すると、結理は嫌そうにしかめていた表情を正してさらりと返した。
「それを形にしてくれるとなお嬉しいです。事務要員増やすとか」
「そろそろ少年が戻って来る頃合いかな?そうしたら休憩にしよう」
「(さらっと流されたし…!)うわー…もうお昼通り越しておやつの時間じゃないですか……お腹空いたー……!」
「おつかれさまでーす」
両手いっぱいにビニール袋を提げたレオが入って来たのは、そんな雑談を交わしている最中だった。丁度書類を一つ処理し終えた結理は、ばっと顔を上げて立ち上がる。
「お帰りサブレオナルドウェイ君!」
「どんだけ飢えてんだよ!」
「ネジかよ!」と突っ込むレオが袋をテーブルに置いた時には、少女はデスクから離れてすっ飛んできていた。いそいそと袋から出していると着信音が鳴り、持ち主であるスティーブンが電話に出る。
「やあ久し振り。ああ、元気にしているよ。その件ならこっちの手続きは大体終わってるから、後は君達待ちだ」
「うわ……とうとう異界系メニュー始めたんだ……いやバブラデュゴおいしいけどさ……」
「何かお試しメニューで始めたらしいけど、結構人気ありそうだったよ。このままレギュラーメニューになるかもなあ……」
「やっぱチェーン店も……いやチェーン店だから?HL(この街)のニーズには応えていくのかな…?その内ジャック&ロケッツとかも異界系メニュー出したりして」
「いやー……あそこはゲットー・ヘイツの中だから流石にやんないんじゃないかなあ…?」
「お嬢さん、ちょっと代わってくれ。君と話したいそうだ」
「はい?」
袋に入っていたチラシに目を通し、レオと話しながら一つ目のサンドウィッチの包み紙を開こうとした所で、結理はスティーブンに呼ばれた。一体誰がと思いながら側まで行って電話を受け取り、通話を代わる。
「もしもし代わりました……っ!?え?ちょ、どうしたの!?えええっ!!?来るって……明日あ!!?だって渡航許可、つか諸々の許可とか……嘘お!!?またえげつない手使ったんでしょ…!いやいや三年かかったじゃないし!」
「……誰と話してるんすか?」
「お嬢さんの父親だ」
「あー父親……」
盛大に驚き続けている結理を見ながら尋ねるレオに、スティーブンが簡潔に返した。返答を聞いて普通に納得しかけたレオは、
「……え!!?」
驚愕の表情で固まっていた。
「結理の両親が来る!?」
翌日、いつものようにやや遅く出勤したザップは、話を聞いて顔を引きつらせていた。
「あいつの両親っつったらあれでしょ?一之瀬のあれっすよね…?」
「?ユーリん家って何かあるすか?」
戸惑いと若干の恐怖らしき感情を前面に出しているザップに、レオは怪訝そうに問いかけた。ザップが来る前に話を聞いたツェッドも似たような反応をしたので、自分の知らない何かがあるのは分かるが、結理とはごく普通に接しているのでいまいちピンとこない。
「……あのちんちくりんが血界の眷属も混じった化物のごった煮なのは知ってんだろ?」
そんなレオに、ザップは嫌そうに顔をしかめて少女の家系を簡潔に説明する。
「それはあいつの親類ほぼ全員もそうで、その上半分近くが血界の眷属だ。一之瀬家っつったらこっちの界隈じゃ有名も有名な化物一族なんだよ」
「血界の眷属って……滅殺とかされなかったんですか?」
「彼等は元々、一之瀬流血創術(けっそうじゅつ)という流派の使い手だったんです。創始者も含めた術者の全員が『何か』によって血界の眷属へと転化させられたそうですが、その後も変わらずに他の血界の眷属を敵とし牙狩りとして活動すると、創始者が取り決めて協定を結んだそうですよ」
「へー……」
「そんなんが何しに来るんですか?」
「本人はお嬢さんに会う為と言っていたが、本部からの出向でライブラに加わることになった」
「マジっすか…!!?」
スティーブンの返答を聞いたザップは、思わずレオとツェッドと顔を見合わせた。似たような心境らしく複雑そうな顔をしている二人にチェインも加わり、こっそり話し合う。
「あいつの両親ってことは……あれ以上のバーサーカーってことか…?」
「それありそうっすね……」
「噂を聞く限りですけど、かなり恐ろしい一族らしいですし……」
「ある意味HL(この街)向きじゃない?」
「これ以上バーサーカー増やしてどうすんだよ…?」
「スティーブンは結理の御両親と面識があるのだろう?」
「ああ、父親の方だけね。昔何度か作戦を共にしたことがあるんだ。その縁で今でもそれなりに連絡は取り合ってるよ。まあ……基本的にお嬢さんの様子を聞いてくるばかりだけど」
戦々恐々と言った風な年少組を眺めながら、スティーブンはクラウスの問いかけに笑み交じりに答えた。結理の父親とはそれなりに交流があるのだが、あえて彼等の想像図は否定せずに放置しておいた。こちらから何かを言うより、実際に見た方がきっと早い。
「おはようございまーす!」
そうしている内に、いつものように元気よく挨拶をしながら結理がやってきた。いつでも明るさを見せる少女だが、今日はいつも以上に晴れやかに見える。
「おはようお嬢さん。二人は?」
「もう連れてきてます。入ってきて?」
スティーブンに答えた結理は出入り口の扉を大きく開けて、扉の向こうで待っていた二人を招き入れる。
入って来たのは、少女が普段着ているのと同じ黒のサマーコートを羽織った黒髪の男女だった。
「とゆうわけで、わたしの両親です。あ、スティーブンさんは父の方は知ってますよね?」
「ああ。顔を合わせるのは久しぶりだね、翔真」
「久しぶりスティーブン。それと、初めましてミスター・ブレングリード。本日よりライブラに籍を置かせて頂きます、一之瀬翔真です。」
「初めまして。一之瀬結希です」
「ようこそライブラへ。クラウス・V・ラインヘルツです。お話は予てより伺っています。ミスタ一之瀬、ミセス一之瀬」
「僕も会えて光栄ですよ。ミスター・ラインヘルツ。」
そう言って男女とクラウスは挨拶と握手を交わし、翔真と名乗った青年が力を抜くように笑みをこぼした。
「……とまあ、堅苦しいのはここまでにしようクラウス君。出向という形ではあるけれど今日から同志になるんだから、僕らのことは普通に名前で呼んでくれるとありがたいな。中身はおじさんだけど見てくれはこんなだし」
「かしこまられるのも得意じゃないしね」
「うむ、ではそのように。これからよろしく頼む、翔真、結希」
「ええよろしく。皆さんのことは結理から沢山聞いてるわ。こうして顔を合わせるのをとても楽しみにしていたの」
「僕等も自慢の両親だと聞いているよ」
「!やだ結理ちゃん…!」
「ちょ、お母さん…!?」
スティーブンがそう言うと、結希は丸い目を更に丸くして勢いよく結理の方に振り向いた。強烈に嫌な予感がした結理は顔を引きつらせて逃走しようとするが、結希が捕まえる方が早い。
「自慢だなんて……そんな嬉しいこと言われたらお母さん泣いちゃうわ…!」
「小さい時はよく言ってくれてたよなあ……そうかそうか、今も思ってくれてるのか……僕達も結理は自慢の娘だと思ってるよ。あーもー相変わらず可愛いなあ…!!」
「お願い止めて二人とも。空港で散っ々やって注目の的になったからもう止めて…!親バカファミコン一家だと思われるからほんと止めて…!!」
「もう思ってるから心配ないよお嬢さん」
「話に聞いていた通り、とても仲の良い家族のようだ」
「うふふ……そう思ってもらえるととっても嬉しいわ」
「「ねー?」」
「~~~~!」
にこにこ笑う両親からは抱きしめられ、上司には微笑ましげに眺められている結理は、湯気が出そうな程顔を真っ赤にしてうつむいた。両親は尊敬しているし大好きだが、この所構わずスキンシップを取る所だけはどうにかならないかと前々から悩んでいる。顔を合わせるのが久しぶりということもあって、今日は一際強烈だ。
「なあオイ……」
そんなユーリ一家とのやり取りを眺めていたザップが、何とも言えない表情でレオ達の方へ振り向いた。
「あの春の日溜まり夫婦からどうやったらあのバーサーカーが生まれんだ…?」
「予想外に穏やかーな人達っすね……」
「噂の面影が全くありませんよ」
「つか……思いの外マブイなあいつの母ちゃん……」
「「!!?」」
「いやーでも、流石にこれから同僚になる人妻はなあ……ちんちくりんの今後に期待か…?」
「……最低の極致ねクズモンキー」
「あ、君達もよろしくー」
レオとツェッドにドン引きした表情で、チェインに心底蔑んだ目で見られながらザップがぼやいていると、色々な意味で撃沈している結理から離れた翔真が歩み寄って来た。それぞれを順番に見て、穏やかに笑う。
「えーっと……レオナルド君に、ザップ君に、ツェッド君、それとチェインさん、であってるかな?」
「あ、はい!」
「娘からもよく聞いてるよ。何だか随分世話になってるみたいで……じゃじゃ馬で無鉄砲で大変だろう?」
「そんなことは」
「ほんととんでもねえバーサーカーだぜアンタの娘」
「ちょ、ザップさん!!」
「いやいいんだ。僕等もあの子の暴走特急っぷりはちょっと悩みの種でね。危険度の高いHL(この街)で暮らせば少しはマシになるかと思ったけど……相変わらずみたいで」
困ったように苦笑する翔真の物腰はやはり穏やかで、明るく活発過ぎる程活発な結理とは中々結びつかない様子に、レオ達は気遅れをしていた。
「まあでも……家の子と仲良くしてくれて本当にありがとう。それとこれからよろしく。あと、」
一見するとこの物騒が日常のヘルサレムズ・ロットで暮らしていけるとは到底思えないと、誰もがそう思っていた矢先だった。
「いくらマブくても、嫁と娘に手ぇ出したらもぐからな」
『!!』
笑顔のままどすの利いた声で放たれた言葉に空気が一変した。先程とは真逆の意味で気後れしているレオ達が殺気に当てられていることに気付いた結理が、顔をしかめて叱責を飛ばす。
「ちょっとお父さん!何でレオ君達脅かしてんの!!」
「ごめんごめん、ちょっとね」
「本当に相変わらずだね君……」
「あはは……」
察したらしいスティーブンに呆れたようにため息をつかれた翔真は、たった今の空気が最初からなかったかのように穏やかな苦笑をこぼした。