くえない関係
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「ふはー……おいしかったー!ありがとうございましたダニエル警部補。HLもまだまだ美味しいお店ありますねぇ…!」
「ここもいつ消し炭になるかは分かんねえけどな」
並んで店を出て、結理が満面の笑顔で隣のダニエルにお礼を言った。向かい合って食事をしながら軽い雑談もして、時には遠回しに探りを入れてみても、少女は気付いた様子もなくごく普通に受け答えをしていた。時折こちらがどきりとする質問を切り込まれもしたが、誤魔化されているのに気付いた様子もなかった。
流石に決定的な質問は正面から拒否をしていたものの、結局隣にいる少女はただ無防備なのではないかという疑念が深まるだけに終わった。
「なあお嬢ちゃん、」
「はい?」
それならばいっそここで手錠をかけた方が早いんじゃないかと思いかけたが、何となくそれは止めておいた。こうも警戒心なくいられると、こちらが悪いことをしようとしている気になってしまう。それに先程自身で口にした通り、この少女から得られる情報など微々たるものだろう。
「いや、あー……さっき言いそびれたが、いくら腕っ節に自信があろうと路地には気をつけな。そのみてくれはいい餌でしかねえぞ」
「はい。注意します。じゃあすいません、わたしはこれで」
「おう、気ぃつけろよ」
指摘すると結理は苦笑を漏らしつつも頷き、ダニエルから離れた。それからすぐに、何かを思い出したように足を止めて、笑いかける。
「あ、そうだダニエル警部補、」
「ん?」
「もし機会があったら、またご飯行きませんか?今度は、腹の探り合いはなしで」
「……っ!?」
少女の口から出た言葉に、ダニエルは思わず息を呑んだ。その顔には、先程までの無邪気そうなそれとはまるで違う種類の笑みが浮かんでいた。無防備な子供の顔ではない。それは世界の暗い黒い部分を知っている女の顔だ。
今更になって気付いた。いや、気付かされた。つまるところ、結理は始めからダニエルに対して警戒を抱いていたのだ。先程の探りも全て分かった上で、分かっていないふりをしてはぐらかしてもいたし、少女からの問いも意図して切り込まれたものだった。
何が無防備だくそったれ、と胸中で悪態をつく。侮れないと思っていながら、いつの間にか侮っていた。目の前にいるこの少女も、紛れもなくあの秘密結社の一員だ。それもどちらかと言うと……
「……とんだくわせ者だな、お嬢ちゃん」
「ありがとうございます。それじゃあまたいつか、この街のどこかで。ご飯おいしかったです」
皮肉気に笑うダニエルにそう返して、結理は雑踏の中へ駆けて行った。
end.
2024年8月25日 再掲