リトル・レディ・ラプソディー
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「う゛う゛う゛う゛……ザップさんのばかあ…!あほー…!えすえすぅ…!くそったれえ…!ぜったいゆるさないんだからあ…!」
「ああそうだな。元に戻ったら殺さない程度に遠慮なく仕返しするといい」
泣きながら怨嗟の呻きを漏らす結理に、彼女をおぶって事務所への帰路を歩いているスティーブンはさらりと報復の許可を出した。本当に、今回の色々は一から十まであの度し難いクズが元凶であるので、庇う理由も諌める理由もどこにもない。
本人も含めて各々が何だかんだと楽しんでしまったが、少女が抜けた約二週間の穴は小さくはなかった。
「ほんとに……ほんとにこわかったんですよぉ…!じぶんがどこいるかわかんないし、人いっぱいいるし、みんなおっきいしぃぃ…!」
「……普段も君から見た周囲は大きいだろ?」
「……どうしてスティーブンさんたまにデリカシーゼロになるんですか…?」
「いや……悪い。今のは失言だった」
「3だんアイスおごってくれたらわすれます」
「お腹が冷えるから一段にしときなさい」
「じゃあLサイズがいいです」
「本当にタダじゃ折れない子だなあ……」
「……ふふ……」
ぐすっと鼻を鳴らしながらも、結理は笑みをこぼした。少女がようやく泣き止んでくれたことにスティーブンも内心胸を撫で下ろしていると、前方に見知った姿を見つけた。
「「「あ……」」」
互いに遭遇した相手を見て、三人は一斉に止まった。特にスティーブンと結理の視線の先にいる男……ダニエル・ロウはいつも半眼気味な目を見開いて二人を凝視して、若干口元を引きつらせている。
「……あーあ……」
数秒程流れた沈黙を先に破ったのはダニエルだった。憐れむようにスティーブンを見ながら、くわえている煙草を噛み潰しそうなほど顔をしかめる。
「とうとうやっちまったなスカーフェイス。未成年略取で手錠かけるのは流石にあんたの名誉に関わるから避けたかったが……現行犯じゃしょうがねえ。しかも自分の子飼いそっくりな幼女とかドン引き通り越して恐怖だわ……」
「不名誉極まりない勘違いをしてくれてるようだけど違うからな?それとお嬢さんは子飼いじゃないって何度言ったら聞いてくれるんだ」
「……パパー、このおじさんパパのおともだち?」
「結理!こんな時に悪ノリするんじゃない!!」
「……うわー……お前自分のガキに部下の名前つけたのかよ……変態じゃねえの?」
「今ので察しろよ!!」
「むしろさっしてるからじゃないですか?」
結理が冷静に指摘しながら見やると、ダニエルはドン引きしていた表情を楽しげな笑みに変えた。恐らく最初の時点で、幼女が結理であることは察していたのだろう。
「随分可愛くなっちまったなあお嬢ちゃん。パパの背中は居心地いいか?」
「はいとっても。いろいろかんちがいされやすいけど、わるい人じゃないんでつかまえないでください。」
「おーおー、腹黒なパパには勿体ないくらいの出来たお子さんだ。あ、絵面が面白いから一枚撮らせろ」
「こらこらこら…!」
言うなりダニエルは返事が来る前に携帯を取り出すと、幼女を背負う伊達男を遠慮なく撮影する。取り上げようとするスティーブンだったが、結理をおぶっているせいもあって難なくかわされた。
「ダニエルけいぶほ、あとでそれおくってください」
「おー任しとけ」
「何で今日は普通に意気投合してるんだ君達……」
ある意味板挟みになっている現状に、スティーブンはがっくりと肩を落とした。
結理が元の姿に戻ったのは、それから二日経ってからだった。
「皆さんどうもご迷惑をおかけしました!」
軽くお辞儀をしながら、いつものサマーコートを羽織った結理はにこやかにそう言った。少女の足元では全力の不意打ちをまともに食らったボロ雑巾……もといザップが転がっている。
「戻っちゃったー…!」
「戻っちゃったかー…」
「……戻ってしまったか……」
「クラウスさんまで本気で残念そうにしないでくださいよ…!!あの姿どんだけ大変だったと思ってんですか…!!」
転がされたザップはスルーして、心底残念そうに肩を落とす大人達を遠慮なく半眼で睨んでから、結理はレオに向き直った。同じく幼女が少女に戻ったことを残念に思っていたようで、目が合うと焦った様子で逸らされた。それを指摘してやろうかと思ったが止めて、代わりに笑いかける。
「じゃあレオ君、お願いね?」
「え?何が?」
「しゃーしーん。元に戻ったらもう一枚撮ってって言ったじゃん」
「あ、そっか」
言われて思い出したレオは、カメラを取り出してレンズを結理に向けた。得意げに笑ってピースサインを出す少女を二枚程撮ってから、レオは笑みをこぼす。
「?何?」
「いや……やっぱユーリはその姿の方がいいなって思ってさ」
「……レオ君それもっと大きな声で!特にあっちの方に向かって!!」
「えー?ちっちゃいユーリっちだって可愛かったじゃなーい!」
「もうあの姿はこりごりですよ…!いつもより変なもん感じ取っちゃうし色々感覚違うしで、ほんとにしんどかったんですから……」
「それで眠れないからと僕の所に来たりもしましたね」
「ちょ……ツェッド君!それ言わないでよ!!」
思わぬ暴露をされてむくれた結理の顔は、どことなく幼女の時の面影を残していた。
end.
2024年8月31日 再掲