くえない関係
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たまたま視線が向いた路地の奥に、彼女はいた。自分より遥かに体格のある人類の男達に囲まれているにも関わらず、どこか冷めた目で彼等を見上げている。それに気付いていない彼等は下卑た笑みを浮かべながら少女に手を伸ばした。
それらを眺めながら一瞬考えて、ダニエル・ロウは路地に踏み込んだ。
「おい、そこまでだ」
「ああ?」
声をかけると男達が一斉に振り向き、彼等に囲まれていた少女はぱちくりと瞬きをした。それに構わずダニエルは続ける。
「昼間っからカツアゲか婦女暴行か知らねえが、それ以上やんならしょっ引くぞ」
「げ!警察かよ…!」
言い放つと男達は一斉に顔を引きつらせて呻き、少女から離れて横道に駆け込んだ。追いかけず適当に見送ったダニエルは、路地の奥で突っ立ったままの少女に視線を移した。
「ようお嬢ちゃん、こんなとこで奇遇だな」
「……あ!ダニエル警部補!」
「おい何だその間は…?こっちの顔忘れてたってか?」
「いえ、その……逆光で顔が見えなかったんです!」
「清々しいぐらいの嘘っぱちだなオイ。光こっちに当たってんだろうが」
「あはは……」
半眼で言い返すと少女、一之瀬結理は顔を引きつらせてから苦笑を漏らしてダニエルに駆け寄った。近くまで来ると、思っていた以上に少女は小柄だ。確かに、知らない者が見れば何とも絡みやすそうな容姿をしているが、いくつか『現場』を見ているダニエルからしてみれば、この容姿だからこそ侮れないと思っている。
「助けてくれてありがとうございました」
「連中相手に猫被る理由でもあったのか?」
「いえ、そろそろぶっ飛ばそうと思った所に警部補が来てくれただけです」
「ほーそうかい。邪魔して悪かったな」
「そんなことないですよ!目立つことはできるだけ避けたいですし」
「目立ってくれりゃ、こっちも心おきなく手錠かけられるんだがな」
「…………」
言葉を放り込むと、結理の笑顔が固まった。どうやら、ダニエルと自分の所属との関係性を失念していたようだ。あっさり近づいてくるから簡単に切り抜けられると判断されていたのかと思っていたが、そうではなかったらしい。
「……案外無防備だな、お嬢ちゃん」
「う……いや、その……こ、この距離でも逃げられますよ!」
「そういうことにしといてやるよ」
顔を引きつらせたまま妙に不格好な構えを取る少女の頭を、ダニエルは何の気なしに撫でた。結理は避けることも払いのけることもせずに、驚いたように瞬きをする。警戒心がないわけではなさそうなのに、こちらが近づくことを簡単に許す少女が何を思っているのかは分からない。もしかしたら何も考えていないのかもしれない。
「所で、昼はもう済んでんのか?」
「え?あ、いえ、これからです」
「じゃあ一緒に食うか?」
「え……」
「心配しなくても餌づけじゃねえよ。お嬢ちゃんから取れる情報なんてたかが知れてるだろうしな。普通に飯食うだけだ」
「……はい、それじゃあご一緒したいです」
ようやくまともに警戒する様子を見せたが、ダニエルがため息交じりに念を押すと結理はすぐ様警戒を解いたようにへらりと笑ってみせた。ダニエルも笑い返して、少女の頭をわしわしと撫でる。
「よしよし。そんじゃとっておきの店紹介してやる」
「ほんとですか!?やったー!!」
(やっぱ無防備だな……)
嬉しそうに顔をほころばせる少女の態度を見て、そんな感想が胸中で漏れた。