家族になりたい?
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「……どっちだと思う?」
「何が?」
「キーファさんの式神。成功作なのか失敗作なのか」
「俺的には失敗作であって欲しいけど…!」
「……それもそうか」
混じりっ気のない本音を聞いた結理は苦笑を漏らして、歩きだった歩調を小走りに変えた。レオもそれを追いながら、式神のオーラを探す。
最悪の場合ヘルサレムズ・ロット中を駆けずり回る羽目になるかと思われた探索だったが、意外にも早く式神を捕捉することが出来た。
「……何これ……」
それぞれ気配とオーラを辿って行くと、何故か周辺の気温が異常に低かった。嫌な予感がしつつも現場に向かうと、予想通りに辺り一帯が凍りついている。氷同士がぶつかり合ったような痕跡もある為、一方的な攻撃ではないようだ。
「すごいな……能力までコピーできるのか。ああでも、流石に威力はそうでもないかな…?押し負けてる感あるし」
「ってユーリ!呑気に解析してる場合じゃないって!」
感心したように呟く結理に突っ込みつつ、レオは慌てて『爆心地』を探そうと目を凝らした。人に危害を加えないと術者が言っていたはずなのに、何故か戦闘が起こっている。予想外の事態に早く元凶を見つけなければと思った次の瞬間、爆発音のような大きな音と共に目の前の路地から氷が突き出し、同時に人影が飛び出してきた。
「うわびっくりしたー……」
「っ!スティーブンさん!?」
呑気な声を上げる結理に庇われながらも目を離さなかったレオが思わず名前を呼ぶが、同時に気付く。『義眼』を通して見える姿には実体がなく、オーラの塊が人の形を作っている。これはキーファの式神だ。
呼ばれたスティーブンの姿をした式神は、レオと結理の姿に気付くと驚いた様子で目を丸くした。
「っ!?レオナルド!結理!どうしてここに…」
「術者から消していいって言われたんで来ました。てゆうかあんた……いや、あんたら?ですか?何こんな白昼堂々盛大に喧嘩してんですか」
「それは」
「そいつがいきなり襲いかかってきたんだ」
答えたのは目の前の相手ではなく、路地から出てきたスティーブンだった。何かを言われたのか違う理由なのか不機嫌を隠すことなく表情に出していて、バリバリと氷の足音を立てている。スティーブンの方に視線を戻し、式神は忌々しげに顔をしかめて吐き捨てる。
「当然だ。スティーブン・A・スターフェイズは一人いれば十分だ」
「だったら消えるのそっちじゃないですか」
「そんな酷いこと言わないでくれよお嬢さん…!」
至極真っ当な突っ込みに落ち込んだようにため息をつきながら返して、スティーブンの姿をした式神は何気ない動作で結理を抱き寄せて方向転換をさせると、後ろから抱き締めるように腕を回した。余りにも自然な動作と予想していなかった事態に、結理は数秒程呆然としてからぎょっとして表情を引きつらせる。
「え…?ええぇっ!?」
「ユーリ!!」
「え、ちょ、な、何すんですか!!?ああレオ君危ないから下がって!」
「すまない結理、しばらく協力してくれ……やっぱりちょうどいいな君」
人質よろしく結理を抱えた状態のまま、式神はどこか追い詰められているような表情で相手を睨みやる。
「さあどうする?お嬢さんごと僕を貫くかい!?」
「何本人らしからぬことしてんですかあんた!!?繕う気ゼロじゃないっすか!!」
「仕方ないだろう!この場を切り抜けるにはこれしかないんだ!!」
「どんだけ余裕ないんすか!」
「ある意味ニセモノが分かりやすくていいけどね」
言われた通りに下がりながらも思わず突っ込みを入れるレオに苦笑しつつ、結理は対面にいるスティーブンを見た。流石に結理ごと攻撃をするのは躊躇ってくれているようで、表情は凶悪にしかめられたままだったが構えが中途半端になっている。そんな上司に、結理は若干困った表情を浮かべながらも極めて普通に問いかける。
「……どうしましょう?スティーブンさん。自分でぶちのめしたいですか?」
「そうしたいのは山々だが、その胸糞悪い姿を消し去れるんならもう何でもいいさ」
「……自分で自分の姿が胸糞悪いとか言いますか?」
「無様にお嬢さんを人質に取る俺なんて吐き気がするね。どうせやるんならもっとスマートにやるよ」
「……あー成程……じゃ遠慮なくいきます。ちょうど顔も見えないし」
「なあ結理、レオナルドも、この間の話は考えて」
「『血術―ブラッド・クラフト―』……」
雑談を終えた結理は一つ息をついてから真顔になると、嬉々とした表情で何かを言いかけた式神を遮るように術を紡いだ。
「『蝟―ヘッジホッグ―』!!」
「―――っ!!?」
次の瞬間、技名の通りに結理の背中から一斉に突き出た針のような血刃が、容赦なく式神を貫いた。悲鳴も上げることなく相手は文字通りに崩れ落ち、後に残ったのはいくつもの穴が空いた人型に切り抜かれた掌大の紙だけだった。それを炎の術で跡形もなく燃やし尽くしてから、結理はポケットから血晶石を取り出して噛み砕くと、鋭くため息をついた。
「だから、断るって言ってんでしょうが」
燃え痕を数瞬睨みやっていた結理は、その表情を緩めるとスティーブンに向き直った。結理と同じかそれ以上に忌々しげに燃え痕を睨んでいたスティーブンは、少女が自分の方を向いたことに気付くと誤魔化すように軽く咳払いをする。
「……式神に何か言われたんですか?」
「口にするようなもんでもないさ。それより二人ともすまなかった。間接的にだが僕のせいでいらん面倒をかけたね」
「そんなことないですよ。むしろスティーブンさんの方が災難だったじゃないですか」
「いつもの騒動に比べたら全然楽でしたし、ミス・キーファも次回に限り悪戯抜きで協力するって言ってましたよ?」
「それは助かる。さて、ちょうどいい時間だし、今回の労いとお詫びも兼ねてランチでも行くか」
「え!?スティーブンさんのおごりですか!!?」
「勿論」
「やったー!ありがとうございますスティーブンさん大好き!!」
歓声を上げて、結理はうきうきとスティーブンの横に並ぶように歩き出した。それをどこか微笑ましげに見ながらスティーブンも歩き出し、それに続こうとしたレオはふと、先程キーファから聞いた式神の能力を思い出していた。
―あの式神なんだけどね?貴方達が遭遇した通り対象者の精巧なコピーを作り出すものなの。まあ中身まではコピーできない失敗作が多いんだけど、たまに成功すると普段自分の中で押さえてる願望を表に出す、なんて奴が出来上がることもあってね?今回のが成功作だったら、最っ高に楽しいネタなんだけどねえ……―
例えば、もしも、式神の人格がスティーブンそのものだとしたら、レオや結理に放り投げた発言は……
(流石に……ないよな?)
「レオくーん!置いてっちゃうよー?」
「っ!ごめん!今行く!」
胸中で浮かんでしまった疑念は気がつかなかったことにして、レオは二人の背中を追いかけた。
end.
2024年8月28日 再掲