家族になりたい?
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「僕の偽物?」
「はい」
店を出たその足でライブラに向かったレオと結理は、執務室で書類仕事をしていたスティーブンに二人が遭遇した偽物のことを報告した。流石に養子の申し出とプロポーズのことは伏せたが、特に襲撃される訳でもなくただ雑談をして、余りにも何事もなくそのまま立ち去ったので思わず取り逃がしてしまったことを伝える。
「よく似た気配を持ってたんで、コピー的なものだと思います。何か心当たりありませんか?どっかで変な呪術師に遭遇したとか」
「て言われてもなあ……ここ最近は呪術に関連した調査も騒動もないし……」
問われたスティーブンは天井を仰ぎ見て難しげに顔をしかめた。ここ数日の自分の行動を省みて、関連したことがないかを思い返していると、出入り口の扉が開いた。入ってきたのはザップで、スティーブンの顔を見るなり何故か見てはいけないものを見てしまったように顔を引きつらせる。
「……え……あれ?スターフェイズさん…?」
「どうしたザップ?僕がいちゃ都合が悪いのか?」
「いやそういうんじゃないっス!今さっき外で会ったんで……」
「僕は朝からずっとここにいたけど?」
「じゃあわたしとレオ君が遭遇した偽物ですね」
「は!?あー……」
結理があっさり言うと、ザップは訳が分からないと言いたげにぎょっとしてから、納得気に顔をしかめた。その様子に、その場にいた全員が訝しげにザップを見る。
「そのスティーブンさんに何かされたんですか?」
「いや……別に……世間話しただけで……」
「何かされたんですね?」
「…………」
問い詰めるが、ザップは気まずそうにスティーブンをちらちら見やるだけで話そうとしない。
「ザップ、どんな些細なことでも構わないから話してくれ。今の所実害はなさそうだが、それもいつまで続くか分からない」
「…じゃあ言いますよ?言えっつーから言いますよ?つか別にニセモンのやったことだからいいですよね?」
「いいから、早く話せ」
「ハグされました」
「…………は?」
「だから!ハグされて頭撫でられて、「可愛い奴だな」ってものすげえ笑顔で言われたんすよ!」
「あ、僕も何かすげえ上機嫌な感じで頭撫でられました」
「わたしもやられました。引くぐらい機嫌よさそうだったから最初酔っ払ってんのかと思いました。そのおかげでニセモノって気付けましたけど」
ザップの証言に結理とレオも続き、全員の視線が今度はスティーブンに集まった。注目の的になっているスティーブンは、証言を聞いて唖然とした表情を見せていたが、我に返ったように頭を抱えてうな垂れる。
「……凹むとこありました?」
「自分のキャラじゃねえことされて恥ずかしいんじゃねえの?」
「普段から似たようなことしてるんですけどねぇ……」
「つるぺたのチビガキにやるんならともかく、俺にやった上に可愛いなんて言ったらドン引きもんだろ。レオ相手ですらギリだぞ」
「成程」
「一体何なんだその偽物は…!」
どことなく呑気な会話を結理とザップが交わしていると、二人の会話は耳に入らなかった(もしくはそれどころではないのでスルーした)らしいスティーブンが、項垂れたまま大きなため息をついてから嫌悪と戸惑いの混じった声で唸った。
「いやこっちが聞きたいですよ」
「何か……スティーブンさんがやんないけどやりそうなことをする、って感じですよねぇ…プr」
「!!」
「プ?」
「プ…ロスフェアーの戦績とか聞いて来ましたし。わたしとクラウスさんの」
(ユーリ!!)
(ごめんごめん……)
うっかり口を滑らせかけた結理だったが、隣にいたレオが思い切りコートの背中部分を掴んできたのですんでの所で言葉は飲み込めた。聞き咎められた頭文字はどうにか誤魔化して、レオと小声で会話を交わしてから難しげに眉を寄せる。
「共通点はやたら好意的ってぐらいですよね……でも、それに何の意味があるんだか……」
「……もしや、ミス・キーファではないか?」
行動の理由が不透明な偽物について考えていると、クラウスが何かに気付いた様子で一人の女性の名前を出した。その名前を聞いて、思い当たったスティーブンは舌打ちをしそうな程盛大に表情を歪め、相手を知っているらしいザップも顔をしかめる。
「ああ……そういえばこの間顔を見せに行ったな。成程、彼女ならあり得る」
「ミス・キーファっていうのは?」
「6番街で占い師を営んでいる異界側の女性だ。呪術にも精通していてそういった関連で頼れる情報屋なのだが、時折悪戯を仕掛けてくるのだ」
「つまりその人が、わたし達に偽物のスティーブンさんをけしかけたってことですか。でも、何で?」
「今クラウスが言った通り彼女は悪戯好きでね。情報料に悪戯を要求してくる程だ。今回も本命は僕だろう」
「何なんですかその逆トリックorトリートみたいな人は……でも、まあ、実害があるって訳じゃないんですよね?」
「少なくとも、無関係な人に直接的な危害を加えるような悪戯は仕掛けない。けどザップはともかく、少年やお嬢さんにまでけしかけたってことは……君達を連れて来いという事か?」
「面識はないはずなんだけどなあ……」とぼやきながら立ち上がってから、スティーブンは申し訳なさそうな苦笑を浮かべて、レオと結理を見た。
「と言う訳だ。結理、レオ、悪いがこれから一緒に来てくれないか?」
「はい」
「了解です」
「俺はいいんですか?」
「あの店に出入り禁止になった事をもう忘れたのか…?」
「ぅ……はい……待機してます……」
訪れた店は、呪術に精通している占い師が営んでいるというイメージを覆す、明るく落ち着いた雰囲気の内装だった。
「あらやだ!見つからないと思ってたら貴方達の所に行ってたのね!」
「やっぱり貴女の仕業だったんですね……ミス・キーファ」
訪問の理由を聞いて目を丸くした、尖った耳と青い肌を持つ異界人の言葉に、スティーブンが呆れたようにため息をついた。占い師を本業とする情報屋キーファは、ばつが悪そうに苦笑しながら頭を掻いて、所在なさげに突っ立っているレオと結理に視線を向ける。
「ごめんなさいね?スターフェイズ用に仕込んでおいた式神だったんだけど、掃除した時に落っことしちゃって、勝手に発動して出てっちゃったみたい。ザップのバカたれはともかく、無関係な子達にまで迷惑かけちゃって申し訳ないわあ……」
(すごい当たり前みたいにスティーブンさん用とか言ってるんだけど…!)
(ザップさん一体この人に何したの…?)
「けどまあ、式神の方は話聞く限り人に危害加えたりはしないから、見つけ次第切り刻んじゃってくれる?本体は紙だから切って燃やせば効果は消えるわ」
「式神って…キーファさんの専門って東洋系の呪術なんですか?」
「ええそうよ。研究すればするほど面白い発見があるからハマちゃってね?あ、西洋系もそれなりに手ぇ出してるから基本的に呪術なら何でもござれよ。ご要望の際は是非御贔屓に~」
「……はあ……」
「その式神をこちらから辿ることは可能ですか?」
「今回はアタシの落ち度だから、これ貸してあげる。この赤い針が射す方にいるわ」
「お借りします。じゃあ今回はこれで」
「ああ、ちょっと待って」
手渡されたコンパスに似たアイテムを一瞥してから、スティーブンはさっさと踵を返した。レオと結理も一礼してから後に続こうとするが、キーファに呼び止められて三人同時に振り向く。
「スターフェイズじゃないわよ。そこの坊やとお嬢ちゃんだけ」
「……何を吹き込むつもりですか?」
「あー……スティーブンさん先行っててください。わたし達なら大丈夫ですから」
「……くれぐれも、気をつけて」
恐ろしく渋い表情をしたが、自分の偽物をとっとと処理したい気持ちが勝ったらしく、スティーブンは一応釘をさしてから店を出ていった。残されたレオと結理は、妙に楽しげににこにこと笑っているキーファに向き直る。
「……ザップさんがここ出禁になってる理由って、聞いてもいいですか?」
「うちの従業員に手ぇ出した上に金銭系のトラブルまで持ち込んでくれやがったの。まあ、おかげでスターフェイズに貸しが出来て色々潤ったけどね」
「成程。で、わたし達だけを残したってことは、あの式神の能力を教えてくれるってことですよね?何でかは知らないけどスティーブンさんには内緒で。」
「その前に教えてくれるかしら?貴方達はあの男の姿をしたアタシの式神に、何を言われたの?」
「え……っと……」
「わたしは養子になって欲しいって言われました。こっちのレオ君はプロポーズされたそうです」
「!!?」
「……ぶっ!」
言い淀んだレオに代わって結理が正直に答えると、キーファは数秒程唖然とした表情を見せてから、盛大に噴き出した。そのまま、堪え切れなかったように腹を抱えて笑いだす。
「あっははははははははははっ!何それチョーウケル!!プロポーズに養子!?スターフェイズが!?成功作だったら本気でウケルんだけど!!ヤバイ!次の悪戯ネタに使いたい!」
「……成功作って……どうゆう意味ですか?」
「あの式神なんだけどね……」
成功作という言葉にあまりいい予感はしなかったが、好奇心を捨てきれなかった結理が先を促す。笑い過ぎて切れた息をどうにか整えながら、キーファはにやにやとした笑みを張りつけて自身が作り出した式神の能力を少年と少女に教えた。