箱の中で二人
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「……移動、してますね」
「どこかへ向かっているのか…?」
「罠が発動してないから、また獲物を探してるのかも……」
「だとしたら、発動の瞬間を狙って脱出するか」
「長期戦に、なりそうですね……」
顔を伏せたまま呟く結理と会話をしていて、何故か顔を上げようとしないことに気付いた。怪訝に思って見ると、少女の細い肩が震えている。
「大丈夫か?」
「だ、だいじょぶです…!」
尋ねると答える声まで震え始めていた。まさかこの状況が怖いのかと驚きかけたが、そうではなさそうだ。
黒髪の隙間から見える耳が、真っ赤に染まっていた。
「……結理、」
「何でしょう?」
名前を呼んでも、掠れた声で返事をするだけで顔を上げない。試しに指でなぞるように耳に触れると、「ひゃ!?」という悲鳴と一緒に面白いぐらい思い切り肩が跳ねて、その拍子に耳と同じぐらい真っ赤になった顔が少しだけ見えた。
「恥ずかしいって……本当だったのか」
「か、顔には出さないように、頑張ったんですけど、今ので決壊しました。ヤバいです。恋する乙女みたいです。すごいドキドキしてます。超つり橋効果」
「自分でつり橋効果とか言うか?」
「言いますよ…!だって、こんな状況、ですし」
やはり顔を上げないまま、結理はたどたどしくもきっぱりと言い切る。スティーブンはそんな少女を見つめ、彼女から見えていないのをいいことに笑みを浮かべた。あまり見ない姿を見せる少女に、ちょっとした悪戯心が沸いた。
「……本当に?」
「え…?」
「本当につり橋効果(勘違い)かい?」
尋ねながら頬に触れて顔を上げさせると、彼女の片側の瞳と同じぐらい真っ赤になっていた。普段はリアクションは大きくともそう動じない少女が、今は見た目の年相応に緊張とそれ以外の感情を前面に出している。
「つ……り橋効果です」
「そんな説得力のない顔して言われても、信じられないよ。」
「いや、その、ちょ、ひああああああああああああ!!!」
何とか言葉を紡ごうとする結理を再び抱き寄せると悲鳴を上げられたが、それを無視して肩口に顔を埋めた。子供体温なのか羞恥のせいなのか程良い熱さで、寒い日に抱き枕にしたらさぞいい睡眠がとれるだろうなあと考えていると、結理がこちらを押し返そうと肩を掴んできた。
「な、何考えてるんですか!まさか徹夜明けですか!!?」
「そんないつも徹夜してるみたいに言わないでくれ」
「ひぅっ…!み、耳元で喋らないでください…!てゆうかもっと離れて!」
「こらこら、そんなに暴れると落ちるぞ」
「落ちた方がマシです!」
「誘っておいて先に脱落するのはずるいな」
「誘ってないですぅぅぅぅ…!!」
言い返す声には涙が混じり始めていた。流石にからかい過ぎたか?という気持ちともう少し構いたいという気持ちのどちらを選ぼうかと思った所で、スティーブンの携帯が鳴った。結理が思い切り身じろぐが、構わずに電話に出る。
「スティーブン。ああ済まない。拘束用の箱に結理と閉じ込められてしまってね。大丈夫、僕も彼女も無事だ。負傷もない。なるべく早く向かうよ。ああ、また後で」
「ほら、ほら!こんなことやってる場合じゃないですよ!!」
「そうだな。そろそろ脱出を考えるか」
「…………は?」
「まだ処理しなきゃなんない箱は沢山ある。長期戦はできるだけ避けた方がいいだろう」
「……………………」
抗議をあっさり肯定され、ぽかんと大口を開けて訳が分からないといった風だった結理の顔から、赤が消えた。彼女は察しは良い方だ。たった今自分を翻弄したやり取りが、純度100パーセントのからかいだということに気付いてくれたらしい。
「…………スティーブンさん、」
「何だい?」
「この緊急時に何ちゅうことしてくれてるんですか……!!!」
「お嬢さんの珍しい顔を見られて楽しかったよ。いい休憩になった」
「…………~~~~~~~~っ!!!!」
笑み交じりの返答に、結理はがっくりとうな垂れる。分かっていた。そうだ。そういう人だ。恥ずかしいで済んでよかった。ああ本当につり橋効果だったありがとう。けれどこの憤りを何にぶつければいい?そうだ、自分は今は任務中だ。『的』ならたくさんいるじゃないか。やっぱり堕落王殴る。今日こそ見つけ出してあの仮面ごとボッコボコにする等々、色々な心の囁きを脳内で巡らせながら、ぎりぃと音がしそうなほど拳を握りこんだ。
「さて、どうやって出るかな…?」
「…………ブチ抜きます」
「え?」
「ブチ抜いて脱出します」
「おいおい……」
「『血術』……『拳―ナックル―』!!!」
そうして放たれた赤い装甲を纏った拳は、スティーブンの顔面ギリギリの真横を見事に打ち破って、ダクトの一つを破壊した。
その後、鬼神のごとき勢いで次々と合成獣を殲滅させていく少女の姿があったとかなかったとか……
end.
2024年8月25日 再掲