歪な寂しがり屋
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今日も今日とて、ヘルサレムズ・ロットは賑やかに破砕音が響き渡っていた。
「どっ……せいっ!」
気合のかけ声と共に、結理は自身の三倍の体長はありそうな異界生物を投げ飛ばした。団子虫のように丸まった異界生物は、同じように投げ飛ばされた同種類の山の中に落ちる。それを見届けるよりも早く、少女は術を放っていた。
「『炎術』!!」
放たれた炎は巨大団子虫もどきを一瞬で炎上させて、消し炭にした。自らが放った炎を横目に、結理は飛びかかってきた気配に意識を向けながらグローブをはめた手を打ちつけるように合わせ、地面に手をつく。
「『血術―ブラッド・クラフト―』……『血の乱舞―レッド・エクセキュート―』!」
少女に襲いかかろうとした巨大なトカゲのような生物達が、地面から生えた赤い棘に貫かれて動きを止め、周囲一帯が静かになった。見回すと、仲間達もそれぞれの担当の処理を終えたようで、戦闘態勢を解いている。結理は一息つきながら、血晶石を取り出そうとコートのポケットを探った。
普段ならば術を放つと同時に血晶石で補給をするのだが、今回は戦闘の終わりが見えていたのでそれをしなかった。
そして、その普段と違う行動が、最大の隙となった。
「っ!」
突然頭上に現れた気配に反応が遅れた次の瞬間には何かに捕まり、少女の小柄な体は宙に浮いていた。
「っひゃあああああああああ!!?」
「とーったぞー!!」
「っ!?」
「結理!!?」
「ユーリ!!」
悲鳴と一緒に楽しげな声が響く。そこでようやく結理が何者かに捕獲されたことに気付いたライブラの面々が慌てて振り向くが、その時には一本釣りされた少女は空に空いた穴のような何かに放り込まれ、穴は閉じるように消えていた。
「……ぶっ殺す…!」
「まあまあ待ちたまえ一之瀬結理」
「誰が待つか……っ……」
どこかに放り出されるなり、結理は即座に起き上がって待ち構えていた相手に向かって駆け出そうとした。だがその瞬間、目の前がくらんでそのまま床に崩れ落ちるように倒れてしまう。大技を使った後の補給が出来ていない為、貧血を起こしてしまったのが嫌になるほど分かった。
「ほらー、貧血で無理に動くもんじゃないよ」
「く……!」
得意げに言う相手に、それだけで人を射殺せそうな視線を向けるが、結理は床に倒れたまま動くことができなかった。
恐らく、というより確実にそのタイミングを狙って目の前の相手、堕落王フェムトは結理の捕獲を計画したのだろう。
「な ん の よ う で す か…!!?」
「いつものお誘いさ。ここ最近はちっともつれないから、今日は物理的に釣り上げてみたよ!」
「最近も何もあんたのお誘いに喜んで乗ったことは一度もないんですけど…!?」
「床に寝そべったままだと話もし辛いな……一旦座ろうか」
悪態を軽く聞き流した堕落王が息をつくと、いつから控えていたのか影から顔の下半分だけ仮面をつけた二人の女性が現れた。女性達は丁寧に結理を抱え上げ、全体重を預けられるように椅子に座らせて、自分達はその横に立つ。
(補給させないってことね……)
彼女達は結理が何か行動を起こそうとすればすぐに止められる距離にいる。まるでこちらが相手を迎えているような体勢のまま、結理は向かいに置いた椅子に座った堕落王を睨みつけた。
「さて結理、調子はどうだい?」
「最高の皮肉ありがとうございますご覧の通り最悪です」
「ははっ!この圧倒的不利な状況で尚強気な態度をとれる所は実に好感度が高いよ」
「あんたに弱み見せるぐらいなら死んだ方がマシですからね…!むしろ今全力で自決したい気分です」
「だが少々、その自分を平気で切り捨てられる所には苦言を呈したいね。君を大事に思う者達がこの世界にはそれなりにいるというのに……例えば僕とか?」
「ふざけんな死ね実験対象としてだろうが」
「どんな理由であれ大事にしているのには変わりないよ!」
はっはっは!と大笑いしてから、堕落王は一瞬だけ真顔になってから奥の見えない笑みを張り付けて、少女の顔を覗き込んだ。結理は仮面に隠れて見えない目を見るように睨みつける。
「平気で殺そうとする癖に大事にしてるとかよく言いますね……」
「そりゃあ君は僕の玩具で研究対象なんだから、壊す権利だってあるさ。できれば壊れずにいて欲しいけど、そのギリギリのラインを探るのもまた一興だ」
「……あんた、何でそんなにわたしに執着するんですか?」
それはずっと抱いていた疑問だった。
「こう言っちゃあれですけど、わたしは異次元の存在ってことを含めても、ヘルサレムズ・ロット基準じゃ普通です……いや……普通とは言い切れないけど、そこまでおかしくも珍しくもない」
自分と似た存在はこの異界都市には少なからずいる。それなのに、目の前の稀代の怪人はそれらには目もくれず、結理だけをゲームと称した実験へ引きずり出そうと画策する。格好の退屈凌ぎ相手として以上の何かを、結理は堕落王から感じていた。
「あんたにとって、そんなわたしの何が魅力的に映るんですか?」
「そんなの、君が『普通』じゃないからに決まってるだろう?」
「いやだから……」
「君は『普通』とは到底かけ離れてるんだよ。君自身が思っている以上にね」
答える堕落王は笑みを浮かべていたが、茶化すような態度ではなかった。一つ一つ言い聞かせるように、同時に説明するのが楽しくて仕方がないといった風に、少女の問いに答える。