徹夜明けにご用心
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
朝の明るさが室内を照らした気配で意識が浮上した。一瞬自分がどこにいるのかすぐに認識できず、とりあえず現在時刻を確認しようと思った所で、スティーブンは自分に密着している温もりがあることに気付いた。
「……結理…!?」
自分の腕が少女をがっちりと固定しているという状況を認識した瞬間、意識が沈む前の記憶が一気に溢れ出した。何日徹夜したのか数えるのも馬鹿馬鹿しくなる量の書類処理を終えた直後、少女に抱き枕になれと言い出してベッドに連れ込んだのは紛れもなく自分だ。
ざっと血の気が引くような感覚がする中で、真っ先に浮かんだのが冷たい形相でこちらに銃口を向けるK.Kの姿だった。
中々まずいことをしでかした事実を思い出しながらひとまず離れようとするが、少女は少女でこちらのシャツをしっかりと掴んでいて、離れるどころか動くこともできない。
一体昨夜の自分が何を考えていたのか分からない。徹夜続きで思考力が落ちていたのは認めるが、だからって少女相手に抱き枕になれと言い出すのはどうかしているとしか思えない。もしも時間を遡れるのなら、昨夜の自分に真意を問いただしてみたい。いやその前に蹴り倒すべきか……
「……ん……」
反省なのか疑問なのか現実逃避なのか分からないことをつらつら考えていると、小さな声と一緒に腕の中の結理がもそもそと動き、ゆっくりと瞼を持ち上げた。しばらくぼんやりとした様子で瞬きを繰り返していたが、顔を上げてスティーブンと目が合うとぴたりと視線を止めた。
「……あ……おはようございますスティーブンさん」
「おはよう結理」
「……うわすいません!ああシャツがしわに…!!」
挨拶をしてから、結理は自分が思い切りシャツに握りしめていたことに気付き、慌てて起き上がって離れたが、スティーブンからしてみればそんなことは正直どうでもいい。ようやく解放し解放され、ひとまずベッドの上に座ってうな垂れる。
「いや……謝るのは僕の方だ。本当に申し訳なかった。何と言うかその……昨夜の僕はおかしかったんだ」
「重々分かってます。あれが通常運転だったら距離を考えるどころの話じゃないです。徹夜続きだったんだからしょうがないですよ……正直すごいびっくりしましたけど……」
結理は何でもないように答えて、ふあ……とあくびを漏らした。その態度が余計にこちらを落ち込ませていることを、きっと少女は気付いていないだろう。こちらが内心(外にも盛大に漏れ出ているが)大慌てしているというのに、被害者とも言っていい結理の方にけろっとされては、色々ダメージが大きい。
「眠れました?」
「悲しいことにぐっすりだ」
「ぐっすりならよかったじゃないですか」
「代わりに寝覚めは最悪どころの話じゃないよ……」
「もう一回言いますけど、徹夜続きだったんだからしょうがないですよ。てゆうかそうゆうことにしましょうよ」
「…………そうだな。お互いこのことは忘れよう。その方が平和な気がしてきたよ……」
「……ぁ……はい……そうゆうことに、しましょう………」
「…どうした?」
「っ!あ、いや……その……」
何故か落ち込んだように肩を落とす様子が引っかかって問うと、結理からつい今まで浮かべていたしれっとした表情が消え、しまったといった風に顔を引きつらせてからスティーブンから視線を逸らした。
「……結構寝心地よかったっていうか……誰かと一緒に寝るのすごい久しぶりで安心したって言うか……恥ずかしいは、恥ずかしかったんですけど……」
答える結理の顔は、いつの間にか真っ赤になっていた。
「……嫌じゃ……なかったです」
「……………………」
結理の告白を聞いて、スティーブンは何秒か絶句した。
どうしてこの少女は恥ずかしいと明言しておきながら、こういった勘違いされてしまいそうな台詞を他意なく吐いてしまうのだろう?と思い、きちんと指摘してやるべきか迷ったが、どうせ言った所で治る気もしなかったので止めておいた。
「……それはこっちを誘ってるのか?」
「違います断じて違います!!あああもう忘れてください!」
代わりに揶揄の言葉を投げると、自分の失言に気づいた結理は噛みついてきそうな勢いで即答した。その癖、忘れるのが惜しいと言いたげな表情はまだ残っている。
「……参ったな、」
「何がですか?」
「そんな風に言われると、こっちも忘れるのが惜しくなってくる」
「ふぁ!?今お互い忘れようって言ったじゃないですか!!」
「けど嫌じゃなかったんだろう?」
「結果論です!!」
いつの間にか形勢が逆転していて、今度は結理の方が慌てている。成程、さっきはこっちが慌てていたから少女は逆に落ち着いていたのかと、妙に冷静になった頭が判断した。
ついでに、昨夜の錯乱していた自分が何を思って少女を連れ込んだのかも、何となく分かった気がする。
「いやでも、お嬢さんが抱き枕になってくれたおかげでよく眠れたのは事実だ。何というか……色々調度いいんだ」
「それ昨夜も言ってたんですけど何なんですか?」
「まあ簡単に言えば、サイズかな?」
「……ええそうですよどーせわたしは抱き枕に最適なちんちくりんのつるぺたですよ…!」
「そんなことは言ってないだろう。それとも、そういう対象として見て欲しいのかい?」
「……えぇ…?」
一人で拗ねて不貞腐れる結理にからかい交じりに聞いてみると、思い切り顔をしかめて警戒した様子で唸られた。
「……スティーブンさん、もしかしてロリコンなんですか?」
「断じて違うから安心していいよ」
割と遠慮なく放たれた問いに即答して、スティーブンはようやくベッドから下りた。少女とじゃれ合っていて、いつの間にかそれなりに時間が経っている。伸びをすると体のそこかしこが音を立てたが、ここ数日靄がかかっていたようだった頭はすっきりしていた。
改めて結理を見やると若干身構えられた。自分のしたことを考えると仕方がないので受け入れて、何でもない風を装って笑いかける。
「ありがとう。寝惚けた我儘に付き合わせてしまって悪かったね」
「……いえ。まあ……わたしもよく眠れたんで……」
「またお願いしてもいいかな?」
「嫌です。そうなる前に全力でサポートします」
「それは心強いね」
「だからもう徹夜しないでください」
「この街次第の話になる」
「ですよね……はあ……」
即答すると、少女は既に疲れきったようなため息をついた。
end.
2024年8月28日 再掲