徹夜明けにご用心
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その週はたまたま騒動のオンパレードだった。
異界人が起こす大規模な事件だったり犯罪組織の決起集会だったりただの喧嘩から発展した大戦闘だったり堕落王の気まぐれ実験だったりとある構成員の女性関係から起こった暴動だったり、それらの事態を収束させれば終わりではなく、その後処理が積み上がり、その結果……
「おはようござ……」
扉を開けた結理は、いつも元気にしようと決めている挨拶を強制終了させた。執務室内の空気が危機を感じるほどに重く、寒い。堕落王の実験に巻き込まれた揚句負傷した自分が不在になった間に様変わりした空気の発信源を恐る恐る見ると、山のように積まれた書類とその山に埋もれるような状態でペンを走らせ続ける上司の姿が目に入った。
「……やあお嬢さん退院おめでとう。見舞いに行けなくて悪かったね」
「いえ、検査入院だったんで別に構わないです」
「病み上がりのところ悪いが君に仕事を頼みたい」
「はい喜んで。何なりとお申し付けください」
「この書類の仕分けと処理を頼む」
「了解しました」
顔も上げず手も止めず、色々な理由から影の落ちた表情で要請するスティーブンに、結理は敬礼でもしそうな勢いで即答して、既に書類の山が出来あがっているデスクに向かった。
普段はどれだけ仕事が立て込もうと迅速に終わらせ、残業をしても日付が変わる前には片付けるスティーブンだが、〆処理の時期に任務や騒動が立て込んでしまうとこうして書類仕事に追われてしまう時がある。確か最後に見た(堕落王が楽しげに実験開始を宣言した瞬間に誰よりも殺気立って舌打ちしていた)時点で既に徹夜をしていたようだったので、何日目に突入しているのか結理には分からなかった。
専門の事務員を雇わないのかと尋ねたことがあったが、機密情報が多過ぎる為に雇いたくても雇えないと返答をもらっている。実際、結理が手伝う分の書類はザップの報告書の手直し以外はそう重要な案件ではない。他にも事務作業のヘルプに入る者はいるが、皆結理と同様に本来の役割の片手間に手伝うといった状態で、事務に専念するということはできない。辛うじて経理担当はいるものの、そちらも以前雇い入れた者が情報を持ち逃げしようとしたことがあった為に、最も信頼のおける最古参しかおらず、立て込むと似たような状況になるらしい。
自分がまだ十分な信頼を勝ち得ていなかった頃、ザップの報告書を解読した時のスティーブンの感動ぶりが嘘でなかったことを、結理は大分後になってから知った。
「……これ全部ザップさんのですか?」
「いや、今回は半分もないよ。残りは機密性は薄いが期限が迫っている」
「月末って感じですねえ……」
「本当に、こんなくそ忙しい時に本部のジジイ共がクラウスを呼び出してくれやがったおかげで処理が遅れたような案件ばっかりだ。連中はカレンダーも読めないのかくそったれ。いっぺん自分で期限付きの書類の処理でもしてみればいいんだ…!」
「本音ダダ漏れになってますよ……」
中々見られない追い詰められた様子の上司に苦笑しつつ、結理は座る前にコーヒーを注いで邪魔にならない場所に置いた。そこでようやく、スティーブンはペンを走らせる手を止めて顔を上げた。
「……ありがとう。助かるよ」
「何徹でも付き合うんで、何でも言い付けてください」
疲労を隠し切れていない苦笑を見せるスティーブンに笑い返して、結理は自分に割り振られた仕事に向き直った。