のまれたあと
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「いやだから、挨拶みたいなもんですって。僕らもよくやるでしょ?」
「しかし、日本人の彼女がそんなスキンシップを取る所は見たことがない……」
「それ以前に酔っ払ってて変になってただけですよ。ほら、K.Kさんとかだってお酒入るといつもより絡むじゃないすか。それがちょっと過剰になっただけっすよ」
「むう……そう、か……」
「そうですって。だから大きな意味は…あ、スティーブンさんおかえりなさ……っ!!?」
説得と解説と憶測を重ねてようやく落ち着いてきたクラウスの後ろを、少女を送ってきたスティーブンが通った。姿を見つけたレオは声をかけたが、言葉を中断して顔を引きつらせる。
「レオ?どうかしたのか?」
「いや、そのー……」
怪訝そうに尋ねるクラウスがレオの視線の方を振り向くが、そこには既に少年を凍てつかせた主はいない。
(やべえええこええええ何だあの顔ーーーーー!?ユーリ何かしたの!!?)
胸中で叫びつつ、レオは引きつった笑みを張り付けながら、どうにか絞り出して返答していた。
「……ザップさんが無事に済むか、急に不安になりまして……」
「?」
「だぁー……意味なく疲れた……」
「全ての元凶は貴方にあることを忘れないでくださいね……」
「俺だってあんなことになるなんて思わなかったんだよ………っ?」
少女の『襲撃』からようやく立ち直り、並んで椅子に腰かけているザップとツェッドがうな垂れながら言い合っていると、不意にザップに影が落ちた。訝しげに顔を上げて自分の真ん前に立つ人物を見たザップの顔から、今あった表情がすべて消える。
そんな、ザップの前に立って氷の殺気を放っている相手は、恐ろしいほどにこやかな顔で、恐ろしいほど自然な動作でザップの座る椅子に彼の肩ごと縫い止めるように足を押しつけた。
「やあザップ、随分愉快なことを仕出かしてくれたね」
「す、す、スターフェイズ、さん……?」
「お前がやらかしてくれたおかげで色々と被害が大きいんだが、どうしてくれる?まずはお嬢さんに酒を飲まそうと思った理由から聞こうか?ああ、その前にお前の酔いを醒ました方がいいか?まともに使えないグズグズの脳味噌も固めれば少しは機能するようになるかな?」
「……ぅ……ちょ……待っ……ぎゃあああああああああああああああ…!!!!」
「…………!!!」
自分の真横で氷の像が出来上がっていく光景を、ツェッドは恐怖とドン引きの表情で見ていることしかできなかった。
次の日少女は、己が巻き起こした嵐の全てを、綺麗さっぱり忘れ去っていた。
「う゛えぇ~~~~……」
「その分じゃ、今日一日使い物にならなそうだな」
「すいません~……」
「お嬢さんが悪いわけじゃないさ。まあ……そんなに弱いんなら、出された飲み物が酒かどうか分かるようになった方がいいけどね」
ソファに寝転がったまま盛大に顔をしかめて唸っている結理に、スティーブンが苦笑交じりに声をかけた。ギルベルトから渡された二日酔いの薬は飲んだはずなのだが、あまり効いていないらしい。
「しかし……しつこいようだけど本当に何も覚えてないのかい?」
「……はい……自分でもびっくりするぐらい……任務中にお酒飲まされたら危ないってぐらい覚えてないです……こんなに覚えてないの、この間の42番街の時以来です」
「それは……危険だな」
「割と真面目に、お酒の匂いは覚えておいた方がいいかもしれないです……」
「じゃあ昨夜のあの言葉も覚えてないのか……」
「……あの言葉?」
億劫そうに顔を上げると、妙な表情をしているスティーブンと目が合った。苛立っているようにも見えるし、楽しげに何か企んでいるようにも見えるし、どこか残念そうにも見える。一体自分は何を言ったのだろうかと不安になったが、藪をつつくような気がしたので、はっきり質問をするのは躊躇われた。
だがスティーブンは、結理がこぼした言葉尻をしっかり捕まえて返答する。
「昨夜あんなに熱烈な告白をしてくれたのに、すっかり忘れてるなんて酷い子だな君は」
「……こ、くはく……って……はあ!?あいたたた……」
「一目惚れだった。いつも目で追っていて、その度に好きだと思った。氷漬けにされても構わないほど惚れこんでいた。後は……何だったかな?僕もそれなりに酔っていたからなあ……」
「まままままま待ってください誰が誰にそんなこと言ったんですか!?おぉう……」
「結理が僕にさ。そんなに想われてたなんて驚いたよ」
「あり得ないですよ!!!ぁううぅぅ……」
「……そこまではっきり否定されると傷つくなあ」
「いや、その……もちろん上司としては敬ってますけど……ぅぅ……」
叫んでは頭痛に苛まれてソファに沈む結理を、スティーブンはいつの間にかにやにやと楽しげに笑いながら眺めている。それで察した。こちらの記憶がないのをいいことに、完全に面白おかしくからかわれている。
「わたし被害者のはずなのに何でぇぇぇ……!!?」
「……ザップに八つ当たりしてしまったからかな?」
「意味分かんないですぅぅ……わたし何したんですかぁぁぁ…!?」
「何もしていないよ。ただ酔い潰れただけだ」
(絶 対!嘘なんだけど…!!!)
藪をつつく覚悟で質問したというのに、あっさりはぐらかされた。こちらが引けばぽんと爆弾を放り込んできて、こちらから切り込めばかわされる。全く以ていつも通りの会話に、二日酔いの頭痛も相まって酷い疲労を感じた。
色々な意味でうんうん唸る結理を眺めていたスティーブンは、楽しげな笑みはそのままで続ける。
「少しからかいすぎたかな?」
「……少しどころの話じゃないです……」
「酔い潰れただけなのは本当だよ。そこは気に病まなくていい。けれど金輪際何があっても酒は飲むな。僕達も全力で君を酒から遠ざける」
「……はいぃ……」
言われなくてもそうする、とまでは言い切れず、結理は返事をしながら力尽きたようにがっくりとうな垂れた。
end.
2024年8月28日 再掲