のまれたあと
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本日の飲み会は、ライブラの事務所に程近いバーを貸し切りにして行われていた。
次の日のことを考えると自宅に運ぶより色々楽だろうと考え、スティーブンは何人ものメンバーにハグとキスをするという襲撃を行った後に酔い潰れて眠りに落ちた結理を、事務所の仮眠室に運ぶことにした。余程酒に弱いのか飲まされた量が多かったのか、運んでいる最中も扉を開ける際に何度か抱え直しても、結理はうにゃうにゃと言葉にならない声を上げるだけで、全く起きる気配がない。
酔った結理の暴走には、正直に言うと相当驚いた。レオの手前何でもない風を装ったが、先にクラウスが被害に遭っている光景を目にしていなかったら、自分ももっと動揺していただろう。流石に頭から湯気は出しはしなかったろうが。
けれど、驚きはしたしこの騒動の元凶には色々思うところがあるものの、今まで知らなかった少女の酒への耐性の低さを知れて、逆によかったとも思っている。比較的潜入捜査の多い結理に不測の事態が起こった際の選択肢がこれで増えた。
すぐに仕事に結びつける自分も大概だと息をつきつつ、スティーブンは仮眠室の扉を開けた。今更ながら結理がいつも羽織っているコートを着ていないことに気づき、後で回収しないとなと考えていると、腕の中の少女がもそもそと動いた。
「……ん……」
「起きたかい?お嬢さん」
「……すてぃーぶんさ~ん……」
声をかけると、顔を上げた少女はへらりと笑ってから先程と同じようにキスをして、猫のように擦り寄ってきた。ああこれは駄目だ、まだ酔ってると即座に判断して、スティーブンはひとまずベッドの上に降ろそうとするが、結理はぶら下がるように首に抱きついて離れようとしない。
「こらこら……一緒に寝る気か?」
「……スティーブンさん大好きです~……」
「それはさっきも聞いたよ」
「一目惚れだったんですよぉ……」
「…………え?」
少女の口からぽんと出てきた言葉に、スティーブンは思わず止まった。相手のそんな様子に気づいていない結理は、縋りつくように抱きついたまま続ける。
「初めて見た時……すごい綺麗だなあって思って、それからず~っと目が離せなくて……いつも目で追うようになって……見るたびに、あー好きだなあって、何回も思ったんです……」
突然始まった大告白を止められず、というより少女が何を言っているのか若干以上ついていけず、スティーブンはただただ固まっていた。
「だから、疑われてる間は……正直悲しかったんです……でも、いいかなあとも、思ったんです……疑われて、氷漬けにされても……それはそれで……構わないかなあって……そう思えるぐらい、惚れこんでて……自分でもびっくりしたんです……」
結理は一体何の話をしている?一目惚れ?誰が?誰に?氷漬けにされても構わない?本気か?むしろ正気か?いや、正気なわけがない。何故なら彼女は紛うことなき酔っ払だ。だとすればこの告白は、嘘でも誤魔化しでもからかいでもない少女の本音ということになる……のか?
理解が追いつくと、ぶわっと音がしそうな勢いで顔に熱が集まった。そんな自分の反応に更に動揺する。酔っ払いの言葉を真に受けるほど純情じゃないと少年に言った自分はどこへ行った?仲間から真っ直ぐな好意を向けられて悪い気はしない。だがこの類の好意は……
「……結理、待ってくれ」
「それぐらい……綺麗で……強くて……大好きなんです……」
混乱しながらもどうにか吐き出せた制止の声も聞かずに続けながら、縋りつくのを止めた結理はベッドに仰向けに落ちてへにゃりと笑いかけた。
「エスメラルダ式血凍道……かあ~っこいいですよねぇ~……」
満面の笑顔で言い切り、結理は大きく息をついた。その後聞こえてくるのは寝息だけになり、少女がそれ以上何かを言おうとする様子は全くない。
「…………………………」
言いたいことは言い尽したのか満足げに眠る少女を数秒、数十秒、もしかしたら数分見つめて絶句していたスティーブンは、崩れ落ちるようにその場にがっくりと膝をついてうな垂れた。
(そっち(血凍道)かーーーーーーーー!!!)
思い切り騙された。いや、あの台詞で勘違いしない方が無理だ。そんな鈍感なつもりはないし、対象はどうあれ確かにあれは告白だ。
思い当たる節は多々ある。結理と初めて出会った時、彼女はスティーブンが作り上げた氷像を見るなり真っ先に歓声を上げてあっさり警戒を解いたし、戦闘後に輝く表情で氷を眺めている姿を見たことがある。それ以前に面と向かって言われたこともある。けれど人をここまで動揺させておいて、その落ちは少し酷くないだろうか?
「く…!俺も酔ってるってことか……」
とりあえず口に出して自分を落ち着けた。真実はどこにあるか分からないが、もうそういう、酒が入っていた為に酔っ払いのたわ言に柄にもなく振り回されたということにしておきたい。実際今日はいつもより早いペースで酒が進んでいたんだと、思い込むように思い出す。
ついでに今回の元凶のあの度し難いクズには大いに八つ当たりの的になってもらおうと心に決めて、スティーブンは結理を見た。散々振り回しておいて呑気に寝ている姿に若干イラっとしたが、どうせ次の日に大ダメージをくらうのは少女も同じだとため息をついて、毛布をかけてやる。触れた布を握り、結理は毛布を巻き込むように丸まった。
「……すてぃーぶんさ~ん…」
「まだ何かあるのか……」
「……氷以外もすきですよ~……」
「……なあ、本当は起きてるんじゃないのか…!?」
あまりのタイミングの良さに尋ねるが、返ってきたのは寝息だけだった。