箱の中で二人
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日常的な朝を迎えるはずだったHLは、突如現れた無数のダクト状の箱によって混乱の極みとなっていた。
『おはようヘルサレムズ・ロットの諸君、堕落王フェムトだよ。いやー、最近何だかだるくてねえ……そのせいか作りかけていたびっくりな仕掛けが失敗してしまったんだよ。それが今街中にバラまかれたその箱だ。箱は獲物を探して捉えて閉じ込めてランダムでお楽しみの罠が発動する拘束用と、10分ごとにそれなりに凶暴な合成獣が飛び出す召喚用と、一個だけある当たりの箱で構成されている。当たりを破壊すれば拘束と召喚の箱は止まるのだけれど、どーーにも当たりのサプライズがうまく出来あがらなかった上に箱が嵩張ってしょうがなくてね。まあ簡単に処理できるだろうから適当に破壊してくれ給え。ああそうそう、合成獣は箱を壊さない限りは延々と召喚され続けるから。それじゃ、僕は寝るよ』
そんな、まるでやる気の感じられない癖に物騒な内容の放送が流れ、在庫処分を押し付けられたかのような状況でも世界の危機には変わりなく、止める為にライブラのメンバーは出動し、結理はスティーブンと共に箱及び箱から解き放たれた合成獣の破壊班に回っていた。合成獣は確かに獰猛で攻撃力も高いが、召喚された箱を破壊すれば再生することもない。結理からしてみれば朝のいい運動程度の相手でしかなく、順調に退治を進めていた矢先のことだった。
「うわっ!」
「え!?」
「あ゛……」
着地した場所がたまたま滑りやすい形をしていた。立て直そうと咄嗟に伸ばした手の先にあったのが、難なく着地したスティーブンの上着の裾だったということに、結理は掴んで引っ張ってから気がついた。
意味は違えど驚愕の表情で視線がぶつかった時には、バランスを崩した二人はもつれるように真っ逆さまに落ちていた。とはいっても、高さがあることが逆に幸いして、二人はすぐさま体勢を立て直せる取っ掛かりを見つけようと辺りを見回す。
だが、
「っ!?」
「嘘ぉっ!?」
偶然なのか狙われていたのか、二人が落ちて行く先には真っ黒な穴が口を開けて待っていた。体勢を立て直す暇もなく巨大なダクトの中に吸い込まれた直後、穴の入口が格子のように塞がれた。それを見ていた結理は上下に向かって腕を伸ばす。
「『血術―ブラッド・クラフト―』……『鞭―バインド―』!」
上へ向けた五指から伸びた赤い鞭が格子に巻きつき、下に伸ばした手がスティーブンの手を掴んだ。上下から引っ張られて細い腕が悲鳴を上げる。
「うぉ重……くない?」
「危なかった……」
腕が千切れるかと思った痛みはほんの一瞬で、重さもさほどかかっていなかった。下を見ると、スティーブンが長い脚をダクトの壁に突っ張らせて、更に氷で固定していた。
「おぉ……流石ですね」
「その前に言うことがあるんじゃないか?」
「巻き添えにしてごめんなさいぃ…!!!」
色々な意味で彼でなければ出来ない芸当に感嘆の声を漏らすと真っ黒な笑顔で問われ、結理は即座に謝罪の言葉を口にした。この状態の原因は全て交じりっ気なしに自分にある。
「てゆうかこれ……何なんですか?」
「さっき言ってた拘束の箱だろう。底がどうなってるかは分からないが……まあよろしくないものなのは確かだ」
むしろただの槍か何かだったら当たりな方だと、スティーブンは白い息を吐いた。ダクトの底は暗闇に覆われていて見えないが、何かが動く気配はしないのでひとまずは大丈夫だろうと判断する。それから結理の方を見て、未だにつないだままの手を軽く引っ張った。
「っ?何ですか?」
「降りてきていいよ」
「え、でも……」
「その体勢じゃ何をするにも辛いだろう。肝心な時に動けなくなっても困る」
「……はい、じゃあ遠慮なく」
言葉とは裏腹に遠慮がちに言いながら、結理は格子に絡ませた赤い鞭をゆっくり解いて、向かい合う形で慎重にスティーブンの腿の辺りに乗っかった。少女の身体は想像以上に軽く、スティーブンは思わず目を瞠る。
「随分軽いな……これでよくあれだけのパワーが出せるもんだ」
「あー……筋力じゃなくて、魔力を纏って瞬間的に馬力を出してるんです。だから不意打ちな力比べとかは得意じゃないです。まあ、体質的にこれでも筋力はある方なんで、素の腕力も多少は自信ありますけど」
「それにしても軽過ぎる。ちゃんと食べてるか?」
「牛乳は毎日飲んでます」
「その割には、色々寂しいけど……」
「セクハラでK.Kさんに言いつけますよ?」
「それは怖いなあ」
上から下まで、特に中間辺りに向けられた遠慮ない視線にむっと顔をしかめたが、笑い飛ばされただけに終わった。結理は不満げに小さく息をついてから、すぐにいつもの表情に戻ると何かに気付いた様子でふいと視線を逸らせる。
「どうした?」
「流石にこの距離と体勢はちょっと恥ずかしいです」
「そんなしれっとした顔で言われても説得力がないぞ」
「まあとにかく、さっさと出ましょうわっ!」
「危ない!」
視線こそ合わせないが、言葉の割に恥ずかしがりもしなければ赤面もしない結理が身を乗り出そうとした直後、ダクト全体が突然大きく揺れた。スティーブンは咄嗟に腕を伸ばして、落ちかけた結理を支えるように抱き寄せる。
「……あ、ありがとうございます……」
「どういたしまして」
ダクトは少しの間左右に大きく揺れ、その揺れが収まると重い振動音のようなものが響きだした。
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