日常に至る経緯1
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
―ん?何だ君は?どこから入った…?―
―……『普通』だな。まったく……何だってこんな人間が……―
―だが……落ち着くまでそうしてるといい。『普通』に嘆いて、気が済んだら……―
…………思い出した。
『あの人』か……
「…………」
最初に視界に入ったのは灰色の天井だった。知らない場所。だけど、点滴打ってもらってるから、多分、病院の類。寝てても分かるぐらい頭がぐらんぐらんする……ダメだこれ、貧血だ……
「お?気がついたね?」
「……すいません、牛乳ください」
「は?」
「牛乳じゃないと貧血治んないんです……」
とりあえず目に入った白衣を着たおじさん(後で知ったけどわたしの手当てをしてくれた先生だった)に、わたしはそう注文していた。
「ふはー……生き返るー……あ、クラウスさん!」
看護師さんが持って来てくれた牛乳を二本飲み干した所で、クラウスさんがスティーブンさんと一緒に来てくれた。
「君が目を覚ましたと聞いてね。気分はどうかな?」
「すこぶるいいです。補給もできましたし。あ、堕落王どうなりました?」
「彼はいつでも神出鬼没だからね。今回も悪態をつきながら何事もなかったかのように消えてしまったよ」
「そうですか……」
まあ確かに、ずっとモニター越しに面白おかしくこっちを眺めてただけだから、捕まえるのは無理だろう。でもその内探しだして殴るのだけは忘れない。絶対だ。
「一之瀬結理君、まずは君に感謝をしたい」
「え…?」
そう切り出して、クラウスさんは九十度近くまで腰を曲げておじぎをした。いきなりのことにわたしがびっくりしてる間に、クラウスさんは続ける。
「ありがとう。君が傷を負い、血を流しながらも立ち向かってくれたおかげで、我々は堕落王の目論見を阻止することができた。そして協力を申し出ておいて君に傷を負わせてしまい、申し訳なかった」
「え、あ、謝らないでください!!ケガは堕落王が全面的に悪いんですし、クラウスさんが守ってくれなかったらあんなめんどくさいしかけなんて解けなかったし…こちらこそ!わたしを信じて助けてくれて、ありがとうございました」
ものすごいていねいに謝るもんだから、わたしも思わずベッドの上で正座して座礼をしていた。
マーキングを付けられたわたしを、堕落王の共犯者じゃなくて被害者だと信じてくれたこと。得体の知れないわたしを信じて一緒に戦って、守ってくれたこと。これがなかったらきっと今頃わたしは誰かに殺されるか、そうでなくても時間切れで、魔獣がこの街で暴れ回ってた。
クラウスさん達がいなかったら、この危機は乗り越えられなかった。
「それで、これは提案なのだが……」
顔を上げてクラウスさんが続けた。提案…?
「君は定住先を探していると言っていたが、どうだろう?『ライブラ』に加わってはくれないだろうか?」
「『ライブラ』?」
「このヘルサレムズ・ロットは少々不安定で危うい街でね、一歩間違えば世界の均衡が崩れて全て異界に呑まれてしまう危険性を常にはらんでいるんだ。その均衡を保つ為に暗躍する非公式の秘密結社。それが『ライブラ』だ。クラウスはそのライブラのリーダーを務めている」
「あー仕事ってそうゆう……でも、わたしみたいなのが入っていいんですか?多分、怪しいですよね?」
「うん、君が意識を失っていた一日の間に色々調べさせてもらったけど、君の経歴はどこからも出てこなかった」
いつの間にか喋り手を交代したスティーブンさんがあっさり頷いてそう言った。ていうかわたし、丸一日寝てたのか……『飛んだ』直後で結構無理したからなあ……
「けれど逆にその経歴が一切出てこないことで、堕落王が言っていた異次元人という説に信憑性が出てきた、ということになってね。保護と言う名目もあっての勧誘になるんだ」
「はあ……成程」
むしろメインは保護って言うより監視っぽいけど……わたしにやましい所はないから別にいいか。監禁とかされたら困るけど、この感じだとそれはなさそうだし。
「それを踏まえて聞きたいんだが、君の扱う血法は君が元いた世界で習得したものなのかい?」
「血法?ああ、『血術』のことですね。うーん……『血術』は習得したっていうより、血統に元々宿ってる能力なんです。血自体に『同族殺し』の力があるから、それをうまく表に出す為の……体質、になるんですかね?」
「『同族殺し』?」
「はい。簡単に言うと吸血鬼を殺せる吸血鬼の血統です」
「「………………」」
わたしが何気なく言った言葉で、室内の温度が一気に下がった気がした。さっきまでどこか和やかだったクラウスさんもスティーブンさんも、表情が硬くなってる。
……あ、やばい、この世界吸血鬼タブーだ。いや、タブーじゃない世界なんてほぼないけどこの反応はやばい。かなりマズイレベルの『敵』だ。人外率高いから油断した……!!
「……君は血界の眷属……吸血鬼なのか?」
「て言っても、この世界の吸血鬼とは無関係ですし、そもそも純粋な吸血鬼じゃないです。人間と吸血鬼とそれ以外の人外との混血なんで。銀とか太陽の光も平気だし、ほら、鏡にも映るでしょ?純血の人達みたいなとんでもない再生力もほぼないです。死ににくいって言えば死ににくいけど……あ!家系図見ます?」
わたしは急いでベッドの側にさげてあったコートのポケットから家系図を書いた紙を出して渡した。今まで渡った世界で血統のことを聞かれることがちょいちょいあったから、何かあった時の為にとっといたものだ。
家系図を見たクラウスさんとスティーブンさんは、最初は深刻な顔をしてたけど、だんだん不思議そうというか複雑そうというか、もしかしたらドン引きしてるんじゃないかって顔になっていった。うん、言いたいことは、分かんなくはない……人外率高いし人間率低いもん。もしかしたらこの世界だと都市伝説みたいな種族もいるかもしれない。それが普通じゃないことぐらいは分かる。特にお母さん側のじいちゃんなんて、ハイブリットどころの話じゃない色んな人外の血が入ってるし。
「これは……本当なのかい?」
「はい。証拠はないですけど、嘘は一切書いてないです」
「何と言うか……随分複雑な家系のようだね……」
「血統の中でもかなり異端だったみたいです。親戚以外の同血統に会ったことないですし」
「……どうするクラウス?異次元の存在とはいえ血界の眷属の血を持つ者だ……」
クラウスさんに聞くスティーブンさんの言葉の裏には、監視や監禁以外に、殺すべきか?という意見がちょっとだけど透けて見えた。何つー種族差別……いや、この世界のブラッドブリードとやらがそれだけ理不尽な存在なんだろう。一体何してくれてんだ血界の眷属達……
しかし……放り出されるのはまだいいけど『処分』や飼殺しは困る。戦って楽に勝てるどころかそもそも勝てる気もしないし……
……に、逃げようかな…?それも生存率低そうだけど正面切って戦うよりは……時間切れ狙って次の世界に飛べば……