日常に至る経緯1
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「……う……あっつ……っ!」
魔獣が真っ二つになってすぐにまた魔法陣が、さっきとは比べ物にならないぐらいの熱を持った。その場所が燃えてるんじゃないかってぐらい熱いし痛い。
まさか、魔獣が再生する度に魔法陣が反応する…?いや、この場合魔法陣の力……違う……この感じ……多分、わたしの魔力も使ってる……?
シャツを引っ張り下げて見ると、魔法陣が最初に見た時と違って真っ赤に輝いてた。肌に直接傷はついてないけど、この魔法陣がわたしを害してるのは丸分かりだった。
……た、試してみる……?
この魔法陣が回復の要ってことは、これを消せば少なくとも魔獣は再生しなくなるかもしれない。
そう思って自分の身体に浮かぶ毒々しい色をした魔法陣を、わたしは意を決して引っかいた。はっきり言って危険な賭けだったけど、どうせ痛いんなら一気に済ませたい。
魔法陣は思いの外あっさり破けて消えた。
けどすぐに、何でか魔獣の気配が流れ込んでくるような感覚がして、
「――――――っ!!あ……っ……か、は……っ!!?」
想像してた以上の、声も出せないぐらいの痛みと熱さが全身に襲いかかった。経験したことないけど硫酸ぶっかけられたらこうなるんじゃないかってぐらい、息もできないぐらいの痛みと熱さで意識が飛びそうになる。
馬鹿、馬鹿、馬鹿…!わたしほんと馬鹿……!!!何で試そうと思った……!!?
「っ!?結理君!」
空中でバランスを崩したわたしに気付いたクラウスさんが、慌てた感じで落ちてきたわたしを受け止めた。何か言いたいけど、その余裕はない。息を整えようとするので精一杯だ。
「…まさか!魔獣が再生する際に君にダメージが…!?」
「……っ……そう……みたい、です……っ!」
というか半分以上自業自得なんだけど、それをはしょってどうにか答えた時には、魔法陣は何事もなかったみたいに元に戻って、また赤く輝きだした。それに呼応して魔法陣が熱を持って、6体の魔獣がもごもご動きながら再生してすぐに襲いかかってきた。クラウスさんは魔獣の攻撃を難なく避けるけど、わたしを抱えて動いてるから……と、多分、実質攻撃したらわたしにダメージが行くから反撃に転じられない。わたしはというと、痛みの余韻で動けないでいる。
まずい……わたしの魔力はそう盛大には使ってないけど、魔獣を倒し続けたらそう遠くない内に魔力は枯渇する。魔法陣は消すのは簡単でその間は魔獣も再生しないみたいだけど、消せば魔獣の魔力が逆流してきて過剰なぐらいわたしを害しながら再生する。これじゃ堂々巡りって言うか、体力が尽きるか魔力が尽きるかどっちかのジリ貧でわたしが力尽きる。
堂々巡りを断ち切る方法……ゲームだって言ってる以上、それは絶対にあるはず……
考えろ、考えろ、考えろ……今まで得た全部を洗い直せ…!
魔法陣の力で魔獣は再生する。魔獣の魔力で魔法陣は再生する。魔獣が再生する数が多いほど魔法陣が熱くなってわたしにダメージが行く。魔法陣は削れるけど再生する時にやっぱりわたしにダメージがくる。
つまり……魔獣と、魔法陣と………わたし、が繋がってる…?
それと、同時攻撃のヒント……
「……もしかして……」
ヒントが本当にヒントならこれが正解かもしれないけど、不正解だったら……いや、とにかく試してみよう。痛みは大分引っ込んだ。もう動ける。
「クラウスさん、今度はわたしにやらせてください」
「何か気付いたことがあるのか?」
「多分……でもわたしが直接やらないと試せない方法です。あと、チャンスは一回なんで、もし失敗したら…大変申し訳ないんですけど後は丸投げします」
「それは……君に危険が及ぶ手段をとるという解釈をしていいのかね?」
「いえ、大きい技使うんでしばらく動けなくなります。でも現時点ではこれしか方法がないです」
「……承知した」
たった今やばい目に遭ったわたしを目の当たりにしてるからもっと渋るかと思ったけど、クラウスさんは詳細も聞かないで承諾してくれた。ただものすごく何か言いたそうな顔をしてるから、大丈夫ですって笑いかけてから、わたしは軽く息を整えて痛みの余韻を消してクラウスさんの腕から抜け出した。魔獣達はすぐにわたしに狙いを定める。突進してくるのを避けながら、魔獣達がわたしを取り囲むように誘導して、輪の真ん中にわたしが降りた。
過剰に反応する魔法陣と、堕落王の人物像から思い当たった一つの可能性。あり得ないからこそあり得るかもしれない解決方法。
魔獣が一斉にわたしに向かってくる。わたしは右手を魔法陣に、左手を地面に置いた。今から放つのはわたしの切り札の大技で、その分消費も激しい。この思惑が外れたら完全アウトだ。割とマジで、死ぬしかない。
どうか成功しますように!!!
「『血術―ブラッド・クラフト―』……」
技を放つと同時に、わたしは魔法陣を肌ごと思い切り引っかいた。
「『血の乱舞―レッド・エクセキュート―』!!!」
地面から大きな赤い棘が生えて、6体の魔物をいっぺんに貫いた。あふれた血に触って拒絶反応を起こしたみたいにキーキー泣きながら魔法陣は消えて、魔獣は串刺しになったまま動かなくなった。それから何秒かして、魔獣が全部塵になって風に流れて行ったのを確認してから棘を引っ込める。魔法陣の復活する様子もなければ、さっきみたいなとんでもない痛みも襲ってこない。痛いのは引っかいた傷だけだ。
『んな……!!?』
堕落王のびっくりした声が聞こえたから、どうやら成功したらしい。わたしは血が流れる傷口をシャツで押さえて立ち上がる。ちょっと深くえぐり過ぎちゃったからシャツがどんどん赤くなってくけど、紺だからあんま目立たないし大丈夫だろう。
どっかにモニター……あ、あった。堕落王は相変わらず仮面をかぶってるから顔が半分しか見えないけど、大口開けて絶句してるから相当驚いてるのは分かった。モニターに向かって中指でも立ててやりたいぐらい、すっごい気分がいい。
「これでゲーム終了ですよね?堕落王!」
『何故だ!?何故マーキングに手を出した!!?躊躇させる為にわざわざ拷問クラスの痛みを発しながら魔獣の魔力が逆流するように術式を組んだというのに!君が死んだら66秒のインターバルの後に魔獣が再起動して分裂するように仕込んだ術式まで無駄になってしまったじゃないか!しかも!解除法まで見抜いて自らを傷つけるなど……ドMの所業だぞ!?』
「勝手にドM認定しないでください。てゆうか仕込んだのあんたじゃないですか!」
ていうかやっぱわたしがどう死んでもアウトだったのか…!!何こいつ超怖い!!
まあ確かに、堕落王の言う通り普通あれだけ痛みを発するマーキングをもう一回触ろうなんて思わない。やばいくらい痛いんだから触るのは躊躇するし、これは触ってはいけないものだと思うだろう。
「だからですよ。そうやってとんでもなく痛い仕込みすることで、マーキングには触っちゃいけないって思いこませたかったんじゃないかって、思ったんです。あえて同時攻撃っていう正しいヒントも出してね」
そう、同時攻撃のヒントは正しかった。
魔獣がいるから魔法陣が再生する。魔法陣があるから魔獣が再生する。それらは全てわたしを介して行われてる。その堂々巡りを断ち切るには、魔獣6体とマーキング、そしてわたしを同時攻撃すればいい。死ななきゃ解除できなかったらどうしようかとも思ったけど、死んだらアウトなんて言ってる以上その可能性が低かったから、賭けに出て正解だった。
本当と嘘と足りない言葉を混ぜてこっちの誤解を誘う。狡猾な奴がやりそうな手口だ。
堕落王の人となりを聞いといてよかった。でなきゃこんなひねくれた答え出すなんてできなかった。
何にしろ、わたしの勝ちだ!
わたしは思いっ切り息を吸い込んでモニターを指さした。殴りに行きたいけどその前に言ってやりたいことがある。
「……ざまあああああ……み……ろ………」
思い切り叫んでやりたかったけど、それはできなかった。息を吐いた瞬間目の前がくらんで頭がぐらぐら揺れて、意識が遠のいた。
あ…やばい……魔力切れ、と……貧血…………
「結理君!!」