日常に至る経緯11
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
…………わたくし一之瀬結理、本日大失態を犯しました。
任務中にクラウスさんに抱えられたまま寝落ちしてお迎えが来たのも気付かず爆睡して事務所のソファで目が覚めました。とりあえず死ねわたし。むしろ……いややっぱ死ねわたし…!
起きた時は最悪としか言いようがなかった本当に!ザップさんは超にやにやしてるしチェインさんとK.Kさんは携帯のカメラ構えてるしギルベルトさんやスティーブンさんまで微笑ましそうに見てるし……
何より!クラウスさんの!膝枕ですよ!前もやったよねこれ!!つか枕じゃなくてほぼベット代わりにしてたからね!!猫のお昼寝のごとく膝の上で丸まってたからね!!真っ当な乙女なら胸キュンな光景だろうけどそれどころじゃねえよ!騒動の真っ只中で寝落ちした上に上司の膝占拠するって馬鹿かわたし!しこたま説教されたっておかしくねえよ!!まかり間違ってスティーブンさん相手だったら真っ黒な笑顔で延々嫌味言われた揚句に書類の山押し付けられてたわ!!むしろ何で起こしてくれなかったの!!!
もう全力で謝り倒した(ついでにあんまりにもからかってくるザップさんは念動力で転ばした)けど、クラウスさんはいつもみたく紳士な対応で許してくれた。その優しい対応が心に痛い…!って、ついさっき似たようなこと思ったな…!
けど、許してはくれたんだけど、クラウスさんの態度は何かおかしかった。怒ってる訳じゃないんだけど、何か困ってるというか複雑そうというか……そんな雰囲気で何でか変な質問をされた。
「わたしの父……ですか?」
その質問というのが、わたしのお父さんがどんな人だったのか。何だ?一体どっからそれ出てきた?前から聞いてみたかったにしてもこのタイミングでする質問か?
「どんなって……簡単に言うとふわっとした人でしたね。滅多に怒らないし、結構うっかりしてて家の中でよく物なくしたりもしてました。わたしが小さい時はいきなりひょいひょい持ち上げるわ反抗期前後は軽率に頭撫でるわ母と一緒になって抱きついてきたりやたら構ってくる時もあるわでまあまあ迷惑な人でもありましたね。けど……強くて頭も良くて博識で、尊敬する優しい父親でしたよ」
聞かれたから正直に答えたら、一緒に聞いてたスティーブンさんとK.Kさんとザップさんが一斉に噴き出して、チェインさんとギルベルトさんも何か納得したような顔をした。ついでにスティーブンさんはK.Kさんに「アンタに笑う権利なんてないわ!」って詰め寄られてたけど……何だ…?一体何なんだ…?
で、質問した当のクラウスさんは、何でかものすげえ複雑そうな怖い顔で「そうか……」とだけ返事をした。
な、何かわたし……時々みんなが分かってるぽいのに一人だけ分かってない空気に放り込まれるんだけど、本当に何なの…?
そんな疑問は解決することもなく、多分これからも解決しないだろう予感もしつつ、その日は一応何事もなく終わった。強いて言うなら事後処理の書類まとめてる時にスティーブンさんに、「君には毎度笑わせられるよ」って小言なのか褒められたのか貶されたのか分かんないこと言われたぐらい。寝てる間にわたしが何かしたのか聞いてみたけど、図太く(の所をすごい強調されて)熟睡してたとしか答えてくれなかった。
……まあ、解決しないだろう疑問はこの際置いとこう。気にしたら負けだ多分。
それより今は……
「……よし、あとは……」
『予習』を終えて、わたしは読んでいた紙束をファイルに入れた。それをベットの上に置いて、ポケットから血晶石を取り出してファイルの上に乗せる。
ライブラに入ってヘルサレムズ・ロットで暮らすようになって、ちょっとだけ悩んでたことがあった。事務所で見つけた本はその悩みを解決できるかもしれない内容で、幸いわたしでも理解できて応用が利きそうだったから、今回試させてもらおうともう本当に誰にも……特に一際察しのいいだろうスティーブンさん辺りにバレないようにこっそり内容を写させてもらった。
そうやって写させてもらったのは、血界の眷属が使う空間連結術式に対する仮説をまとめたもので、仮説の中には空間転移の術式や座標認識や捕捉、それに座標固定の方法なんかも書かれていた。
今回はこれを使わせてもらう。
これで失敗したら……とっても残念だけどまた世界から世界を巡る根無し草の旅人に戻ろう。
でもできれば帰ってきたい。
そう思いながら、わたしは慣れ切った手順にいつもと違う手順を組み込んで、慎重に術式を展開させた。
ヘルサレムズ・ロットでも、人界でも、異界でもない、次元の壁を越えた向こうにある世界に向かって飛び立つ術式。ざっくり言えば異世界トリップをする為の魔法だ。
で、いつもなら旅立つ世界には大して未練がないけど、今回は違う。だから誰にも言わないで異世界トリップしようとしてるし、戻る為の『楔』とそれを固定させる為の術式だってちゃんと用意した。
……まさか魔術の解析やら応用やらが苦手なわたしがこんなに苦労して研究するようになるとは……人生ってのは分からない。
……でも、戻ってきたいとは思っててもそれ以上に、わたしは異世界を渡り歩くことを止められない。だってまだ何も見つけていないから。
見つかるまで、止めるつもりもない。
「……いってきます」
まるで願い事でもしてるような気分で言葉を口に出してから、わたしは世界を飛び出した。
降り立った世界でどうか見つけられますように。
そして、わたしが混ざることのできるあの物騒で剣呑でびっくり箱のような世界に、どうか戻ってこられますように……
日常に至る経緯11 了
2024年8月18日 再掲
蛇足:このままいなくなっちゃいそうな〆ですが夢主は普通に戻ってきます