日常に至る経緯11
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「こりゃまた……」
所構わず襲いかかるモンスターボックスの処理を概ね終えて、閉じ込められたと連絡を受けた場所に向かった先に鎮座していた箱の中の光景を見たスティーブンは、思わず噴き出すように苦笑を漏らしていた。
そんなスティーブンを若干気まずげな様子で見上げるクラウスの腕の中では、結理が安らかな寝息を立てている。閉じ込められていた空間が無くなったにもかかわらず、起きる気配はない。
「この状況で熟睡とは……とんでもなく図太いお嬢さんだなあ本当に」
「どうか叱らないでやって欲しい。閉じ込められてしまったのも私の不注意のせいなんだ」
「そこに関しては君に色々言うべきか。勢い余って橋をぶっ壊したんだって?HLPDが騒いでたぜ」
「む……すまない……」
「まあいいさ。色々言うのはお嬢さんが起きてからだ」
苦笑を浮かべたまま、スティーブンは気まずげな顔をしたままのクラウスに手を差し出した。
「探しもの?」
「知りたいことがあるそうなのだ。HL(この街)へ来る前からずっと探していると」
「ふうん……」
事務所への帰路を走る車の中で、少女が眠りに落ちる前にこぼした言葉の端を、クラウスはスティーブンに話していた。クラウスに抱えられたままの結理は、相変わらず起きる気配もなく緩んだ寝顔をさらしている。
「……以前、結理が言っていた。次元を超える術式を扱うことは非常に危険で、本来ならば使うべきではないと。そう言いながらも、いくつもの異世界を渡ってきていたそうだ」
「冒すべきでない危険を冒してでも探したいもの、知りたいものか……途方もなさそうだなあそれは」
「それでいて、案外素朴な願いなのかもしれない」
「……成程」
「ん……」
頷いたスティーブンが眠る少女を一瞥したそのタイミングで、不意に結理がもそもそと動いた。起きたのかと思ったが、目は閉じたままクラウスに擦り寄りながら息をつく。
「……お父さん……」
少女の口からこぼれ出た単語に固まったのはどちらか、あるいは両方だったかもしれない。
「……抱き枕にすんのやめて……いくつだと思ってんの……」
「「………………」」
そうして不明瞭ながらしっかり形のある寝言をこぼした結理は、また寝息を立てる。唖然とした様子で少女を見ていたスティーブンは、何気なくクラウスの方を見た。
「……ぶっ…!」
そして思わず噴き出した。
「自分から擦り寄っといてそれはないだろ…!」
「……スティーブン」
「いや悪い」
恐ろしく複雑そうな顔をしているクラウスに謝るスティーブンだが、波は納まらず肩を震わせてしばらく笑う。ひとしきり声なく笑って落ち着いてから、少女の頭をそっと撫でた。
「いつだったか言ってたな。実年齢をいくつ重ねても、外見の年齢に精神が引っ張られる傾向にあるって。その通りなら、今現在が何歳だろうとお嬢さんはまだまだ子供だ」
「一人で生きていくことも不可能ではないが、大人の庇護も必要だろう」
「お嬢さんはやんわり断りそうだなあ……」
「だとしても、私は彼女を放っておくことはできない」
「……だな」
断定の形で放たれた言葉に、スティーブンも頷きを返す。
初めて出会った時の少女の表情は今も覚えている。
敵意こそないが、強い拒絶と警戒。何よりも誰にも頼るわけにはいかないといった感情を前面に出した、おおよそ子供らしさのない表情。それが最初だったせいもあってか、直後に氷塊を見た途端あっさりと警戒を解いて、子供らしさを全開にしたきらきらと輝いた笑顔を見せられた時は戸惑ってしまった。
それらを思い出しながら、スティーブンはおかしそうに笑みをこぼして言葉を続けた。
「ま、そうやって君に抱えられた状態で熟睡するくらいだ、本当に困ったら助けを求めてくれるんじゃないか?お父さん」
「む……」
再び心底複雑そうに顔をしかめたクラウスを見て、スティーブンが今度こそ声を上げて笑うが、渦中の少女は起きることなく安心しきった寝顔を見せるだけだった。