日常に至る経緯10
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「オイ!こりゃあどーゆーことだ!!」
「?」
そんなだみ声が店内に響いたのは、食事を終えた結理がコーヒーに手をつけようとしていた矢先だった。結理はカップに口をつけながら訝しげに声の方を見る。
騒いでいるのは手にプロテクターの様な手袋をつけた異界存在で、何事かと駆け寄ったビビアンを睨み上げながら皿を指さして怒鳴り声を上げた。
「ここの店じゃ客に腐った料理を出すのがルールなのか!?」
「は!?どこも腐ってなんかいないじゃないか!」
「馬鹿言っちゃいけねえよ姉ちゃん。それとも何か?俺っちがデタラメこいてるって言いてえのか!?」
「うわあ……ディンゴだよ……」
そんな言い争いを遠目に見ていた客の一人が、迷惑そうに顔をしかめて呟いた。聞き咎めた結理は、こっそりと尋ねる。
「知り合いですか?」
「まさか!けどちょっと有名な奴でさ、とにかく何でもいいから難癖つけて威圧して、代金踏み倒そうって輩だよ。最近この辺りをターゲットにしだしたって噂は聞いてたが……」
「とにかくだ!こんな料理に金は払えねえなあ!」
「一皿丸々食っといて何言ってんだ!!」
「客の言うことが聞けねえってか!?」
「うわっ…!」
理不尽極まりない主張をする相手に一歩も引かずにビビアンが言い返すと、ディンゴと呼ばれた男は怒鳴りながらビビアンを突き飛ばした。両足が浮く程の勢いで突き飛ばれたビビアンが床に倒れる前に、すぐ様動いた結理が受け止める。
「ユーリ…!?」
「……そうゆうみみっちいことやめなよ。恥ずかしい」
「何だお嬢ちゃん?関係ねえんだからすっ込んでな!」
「関係ならある。好きな店に迷惑かけるような奴ほっとけるほど腐ってないし」
「ははっ!威勢だけは立派だな!だが邪魔すんじゃねえよ!!」
言いながらディンゴはプロテクターのついた拳を振り下していた。結理は拳から一切眼を離さずに軽く首をのけ反らせると、自分に向かってくる拳に真っ向から頭突きをぶつけた。
大きな鈍い音がすると同時に、砕けたのは拳の方だった。プロテクターごとあっさり砕かれた自身の拳を、ディンゴは信じられないといった面持ちで凝視する。
「は……はっ!?い、ってえええええ…!!」
「はいこれ返す」
「はあ?」
「ここの代金分は抜いといたから。治療費ぐらいは残ってんじゃない?」
「あ!てめえ…っ!」
そう言って少女が差し出したのは財布だった。慌ててポケットを探り、それが自分の財布だと気付いたディンゴはひったくるように取り返して少女を睨みつけるが、更に強い眼光を返されて思わず一歩下がる。
「次に同じことやってんの見たら……今度は拳一個じゃ済まないと思っときなよ?」
「…っ!お……覚えとけよ!!」
「うわあ……ベタなセリフ……」
砕かれた拳を押さえながら慌てて立ち去る姿を呆れた表情で見送ってから、結理は若干赤くなった額に軽く触れながら、ビビアンに振り向いた。呆然とした表情で見ていたビビアンに、ばつが悪そうな苦笑を返して声をかける。
「あー……ごめん、余計な事だったかもだけど、ほっとけなくて……」
「……いや……助かったは、助かったんだけどさ……」
頭を掻きながらため息をついて、ビビアンは何とも言えない表情で結理を見た。
「……アンタが上司に怒られた理由、何か分かった気がした」
「?」
日常に至る経緯10 了
2024年8月18日 再掲