日常に至る経緯10
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「ぎゅ~~にゅ~~……」
「ハイユーリ、何かお疲れだね?」
最近馴染みになったダイナーのカウンター席につくなり注文なのか呻きなのか分からない声を上げる少女に、店主の娘が苦笑交じりに声をかけた。結理はテーブルに突っ伏しながら、ため息と一緒に言葉をこぼす。
「上司にしこたま叱られた~~……」
「へえ?何かドジったの?」
「いやドジってはないんだよ。でもその過程でちょっとやらかしちゃったってゆうか、何と言うか……あ、ビビアン、大チーズバーガーセットと大カルボナーラと大ミルクで」
「あいよ。セットのはブラックコーヒーだね?」
「うん」
頷き、結理は再びため息をついた。その様子に気付いたビビアンは、調理に手を動かしながら少女に言葉をかける。
「やらかしたって何?誰か死んだ?」
「死んだとかさらっと出てくるのがHL(この街)っぽいね……でも誰も死んでないよ。さっきも言ったけど、結果的には問題ないけど過程がダメで、そこ叱られちゃったの。無鉄砲が過ぎるとか、自分の行動を省みてみなさいとか……」
「ほんとに何やらかしたの…?」
「……うーん……」
再度尋ねられ、結理は言葉を詰まらせた。詳細を言うのは色々な意味でまずいが、上手い誤魔化し方も思いつかない。どう言えばいいかと思案していると、そのしかめた顔で何かを察したようで、ビビアンは小さく息をついてから少女の前にミルクが並々と注がれたグラスを置いた。
「まあ何にしろ、叱られたんならちゃんと何で叱られたのか考えて、次気をつけりゃいいんじゃないの?」
「……ありがとう、ビビアン」
「もうちょっとで出来るから待ってな」
「うん」
にっと笑いかけられて、結理も微笑を返した。
それから、今日の出来事を思い返す。
(無茶な姿勢か……)
改めて思い返してみれば、そう言われても仕方のない行動をとっていることに気付く。今回の件にしてももっとやりようがあっただろうに、事態の収拾を最優先しようと考えるあまり危険度の高い選択をしてしまった。
(だよなあ……お母さんがいたらあれは説教フルコースどころじゃないよなあ……)
「進歩がないなあわたし……」
鍛錬を怠っているつもりはないが、何かが足りない。その足りない何かをどうすれば得られるのだろうかと考えて、思わず表情を曇らせる。
教えられるべきだった事柄を教えてくれる相手達は、もう二度と手の届かないことにいる。ついそう思ってしまい、それを振り払うように軽く首を振った。
(……ダメだ。振り向くな。止まるな。前を向いて。今は……)
「うん、次は頑張る」
「はいお待ちどう」
小さく、先程までとは違う感情の息をついて顔を上げたタイミングで、目の前に湯気の立つ料理が置かれた。ビビアンは結理の顔を見ると、楽しげに笑う。
「落ち込むのは終わったか?」
「うん。もう大丈夫。いっただっきまーす!」
ビビアンに笑い返して、結理は元気よく手を合わせた。満面の笑顔で食べる少女を微笑ましげに一瞥してから、ビビアンも仕事に戻った。