日常に至る経緯9
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ある日のおひねりは鉢植えでした。
「あの、これは……」
「知り合いに菜園を営んでる人がいるんだけど、この間別の人から鉢植えもらったばっかりでねえ……家のベランダに入りきんないのよ。枯らしちゃうのも可哀想だし申し訳ないし。助けると思って、もらってくれないかしら?今日はオマケもつけるから!」
「!喜んで頂戴いたします!」
とまあそんな感じで、大道芸を始めた頃から来てくれてる観客のマダムから勢いでもらっちゃったんだけど、さてどうしよう。あとおまけでもらったサンドウィッチはおいしかったです。ありがとうございますマダム。今度お礼します。
花は育てたことある。というか、ばあちゃん二人の趣味が家庭菜園でその影響を受けたお母さんもそれなり以上に植物を育てるのが好きだったから、わたしも自然と手伝ってた。ばあちゃん達と違って趣味にはならなかったけど、みんなが仕事で忙しい時に代わりに面倒見たりもしてたから、多少は知識と経験がある。
まあ……魔術的要素のある植物も多かったから若干以上知識偏ってるけど……
そんな感じで、もらったからと言って即枯らしちゃうようなことはない。と、思う。明らかに人界産じゃない葉っぱの色と形してるから自信ないけど、多分、大丈夫。
まずは……ホームセンターか園芸屋さん探すか……
植物は好きでも嫌いでもなかった。むしろお母さんやばあちゃん達の影響もあって、どっちかって言うと好きな方だったと思う。
けど、異世界を渡るようになってからは、特に鉢植えとか植木とか長い時間をかけて育てるようなのは避けてた。
理由は色々あるけど、一番はそういうのがあると……悪い言い方をすると『足枷』になる気がしたから。
異世界を渡るのにあてはないけど『目的』はあったから、何か残るようなものを手にしたくなかったって気持ちがあった。
でもまあ今は……
……今は……
よく大道芸をする公園の近くにあった園芸店で肥料と肥料の配合キットと栄養剤と、ついでに何でかあった異界産が中心の植物図鑑を買って、わたしは一旦帰ろうと思ってアパート方面に足を向けた。
お昼時を少し過ぎたくらいの大通りは、これからお昼の人や終わって職場なり何なりに戻ろうとする人でそれなりに賑わってる。小競り合いや何かの爆音とかは聞こえてこないから、今日はかなり平和だ。謎の触手が建物の隙間からうにょうにょ伸びてるけど、海鮮料理屋から伸びてるから材料か何かだろう……多分。
そう思いながら歩いてると十メートルくらい先に見慣れた、そうでなくても絶対に目に入る人を見つけた。人ごみから頭一つ以上出てる赤毛の紳士なんて一人しか知らないし、二人以上いるとも思えない。わたしは駆け寄って少し距離を詰めてから、名前を呼んだ。
「クラウスさーん!」
「……結理君」
クラウスさんは少し辺りを見回したけど、すぐにわたしを見つけてくれた。手には紙袋を持ってて、最近できたドーナツ屋のロゴが書いてあった。
ドーナツ……クラウスさんが……というか一人で買い物とかするのか……ちょっと意外だな……
「随分と大荷物だが、営業の帰りかね?」
「はい!まあ……営業道具以外もちょっとありますけど。この鉢植えはよく見に来てくれるマダムにもらったんです。折角もらったものを無下にするのもあれなんで、一応花が咲くまでは面倒見ようかなって思いまして」
「異界交配種のフリージアのようだ。成長するととても大きく綺麗な花をつける」
「……え、これおっきくなるんですか?」
ていうか葉っぱの形全然違うのによく分かったなクラウスさん……育てたことあるのかな?
「確か……以前育てた時は子供の背丈程になっていた」
「えー……それはしんどいなあ……」
アパートのベランダはベランダって呼べないぐらい小さいから、これはちょっと想定外だ。鉢が小さいからそんなに大きくならないと思ってたのに……そんな大きくなるんじゃ鉢増しもしないといけないし……まさかマダム……自分ちに置けないってそっちの理由…?
「……それならば、事務所の温室で育ててはどうだろう?」
「え?」
どうしようと思ってたら、クラウスさんがそう提案してくれた。それはとてもありがたい提案なんだけど……
「……でも、邪魔になりませんか?最終的に結構大きくなるんですよね?」
「構わないよ。最近入れ替えをしたのでスペースもある。それに、この苗からどんな色の花が咲くのか私も見てみたいのだ」
ちょっと申し訳ないと思って軽く辞退の雰囲気を出して見たけど、クラウスさんは何でもないみたくそう返してきた。見てみたいとか言われると、断るのも何か申し訳ない。うまく言いくるめられた気もするけど……まあいいや!
「あー……じゃあ、お願いしてもいいですか?」
「勿論だ。時間はあるかね?」
「はい」
「ではそちらの荷物は私が持とう」
「え?いやそんな悪いですよ!」
「その持ち方では鉢の中身がこぼれ出てしまうかもしれない。鉢植えを守る為と思ってもらえるとありがたいのだが」
「う……」
ず、ずるい……もといスマート…!さらっとこっちが断りづらい言い方してきた…!任務の指示とか作戦の指揮とか大体スティーブンさんがとってるから、クラウスさんって口下手な人かと思ってたけど全然だ…!流石紳士……手慣れてやがる…!
「……そ、そうゆうことなら……お願いします」
「ありがとう」