日常に至る経緯8
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何故と思うが今は考察をしている場合ではない。人造人間が後数メートルという所まで近づいてくると、三度気配を感じた。対抗するように結理も人造人間を睨みつける。
同時に放たれた念動力がぶつかりあい、押し負けたのは結理の方だった。少女を再び吹っ飛ばした力は周囲に余波を撒き散らし、更に瓦礫の山を築いていく。結理は飛ばされながらも人造人間からは目を離さず、着地と同時に地面に手をついて術を放った。
「『血術』……『血の乱舞―レッド・エクセキュート―』!」
地面から突き出た赤い棘が人造人間に襲いかかる。
だがそれは、標的に届く直前で不自然に集まった巨大な瓦礫によって阻まれた。恐らく、というより確実に人造人間が念動力で即席の壁を作り上げて防いだのだろう。
「嘘ぉっ!!?」
発動の規模と速度に思わず声を上げつつ、結理はポケットから血晶石を取り出して噛み砕き、粉砕された瓦礫の横を抜けて再び駆け寄って来た人造人間に術を放った。
「『氷術』!」
放った凍結の術はやはり念動力によって阻まれ、届く前に弾けるように砕け散った。
(やばい…!)
余波をかわす為に飛び退きながら、結理は思考を巡らせる。
(念動力は押し負ける。術も防がれる。身体能力が普通なのは本当っぽいけど……念動力が強過ぎて近づけない…!わたしだけを狙ってる?それとも近付いてきたから反撃してきた?後者っぽいけど……)
短い時間で得た情報を脳内で並べながら、相手からは目を離さない。人造人間もまた、結理だけを見据えて力を放つ。結理も全力で念動力を放って最大限まで衝撃を殺そうとするが、やはり押し負けて三度宙を舞った。
(いい加減腹立ってくるなこれ…!!)
胸中で唸りつつ体勢を立て直そうとした途中で、力が広がる気配がした。
「やば…っ!」
先程よりも大きな波が一気に膨れ上がり、空間に解き放たれる。突風と津波を掛け合わせたような圧を持つ念動力は、術者である人造人間の周囲全てを押し飛ばし、地面を深く抉った。その強大な余波で近くの雑居ビルがドミノのように倒れて崩れていき、その破片が雨や隕石のように降り注いだ。
「…………十三段階来る前に廃墟になるわ!!」
飛ばされて地面に落ちた状態のまま、結理は思わず叫んでいた。
「馬鹿じゃないのあの仮面男!!ほんとマジ何なの!?何が楽しいの!?愉快犯にも限度があんだろうがあの×××!!」
「退いてから怒れ大福!」
「うわっ!!」
霧散させた怒りが再び湧いてきて文句を吐き出していると、それに負けない声量と一緒に転がされた。何が起こったか分からないまま、上下が逆さまになっている視界に入った相手を見た結理はぱちくりと瞬きをする。
「……あれ?ザップさんどこにいたんですか?」
「てめえが降ってきて下敷きにしたんだろうがクソガキ!!」
「ああすいません!あとありがとうございます。おかげで無傷で済みました」
「……おう」
謝ってからお礼を言うと、その返答は予想外だったらしくザップは勢いを削がれた様子で曖昧な返事をした。結理は反動をつけて起き上がって、人造人間のいる方角を向く。
「マズイですね。これ以上威力上がるんじゃ、とっとと決着つけないとガチでHLが引っ繰り返されちゃいますよ。発動前にぶっ倒すにしても難しいし……」
「反撃してくんのか」
「はい。わたしじゃ相殺しきれない念動力ぶっ放して……」
「?どうした?」
言いかけた言葉を、結理は中断させた。言葉の途中で、人造人間への対抗策を思いついてしまった為だ。だがそれは、出来れば取りたくない方法でもあった。
「……あー……その念動力の対抗策、なくはないことに気付きまして……」
「それで何で嫌そうな顔してんだよ?」
「……わたしの使う念動力って、吸血鬼部分の能力なんです。だから、血を飲めば威力の底上げが出来て、あの念動力にも対抗できると思います。けど……吸血は流石にマズイですよね?」
と言いながら窺い見た時には、ザップはライターを握り締めていた。仕込んであるエッジが皮膚を破り、血が溢れだす。結理はそれを何をするのだろうと思いながら眺めていたが、赤に染まった手を差し出されて怪訝そうに首を傾げた。
「……何してんですか?」
「あ?血がいるんだろ?いや待て!これお前に血ぃやったら俺が吸血鬼化すんのか!?」
「それは大丈夫ですけど……えぇ!?でもマズくないですか!?」
「じゃあ他に方法あんのかよ?」
「ないですけど……」
「なら早くしろ。やり方選んでる暇ねえぞ!」
当然のように言ってくるザップに、結理は数瞬ほど何とも言えない表情を向けて、その表情のまま口を開いた。
この選択がいいのか悪いのかは分からない。むしろどちらかと言うと悪い気がするのだが、ザップの言う通り方法を選んでいる暇も探す暇もない。