日常に至る経緯1
名前変換
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「えっと、ミスター…お名前を聞いていいですか…?」
「すまない。まだ名乗っていなかったね。私はクラウス・V・ラインヘルツという」
「あ、はい。もう知ってるでしょうけど一之瀬結理といいます。それで、ミスター・クラウス、どうしてわたしを保護してくれるんですか?さっきの放送の通りなら、保護よりも殺そうとする方が自然……じゃないですか?」
事実、武装警察(仮)は何のためらいもなくわたしを殺しにかかってきた。通行人も何人かは殺そうかみたいな雰囲気を持ってわたしを見てた。堕落王は暗に私を殺せば事態は収拾するって宣言してたようなもんだったから、そう考えるのも当然だと思う。
そんな空気の中、何故か出てきた保護っていうキーワードは逆に違和感しかない。
「まあ簡単に言うと、僕等はこういった騒動を未然に防ぐ仕事をしていてね。堕落王の今までの手口から考えると、君を殺すより保護した方がいいんじゃないかって結論に至ったんだ」
答えてくれたのは傷の人だった。
ん?今クラウスさんが何か言おうとしてたの遮ったみたいに見えたんだけど……何か知られたくないことがある?ていうかあの仮面男日常的にこんなことしてんの…?してそうな顔してるなあ……
色々疑問はあるけど、とりあえず最後まで話を聞こうと思ってわたしは続けた。
「はあ……成程。でもわたしを保護してくれるっていうのはありがたいんですけど、マーキングがある限り魔獣は動き続けますし、時間が過ぎれば増えちゃいます。それをどうにかするアテはあるんですか?」
「……今は、ない」
一瞬黙ったけど、クラウスさんはきっぱりと言い切った。あ、なんだ、保護してくれるって言うからアテがあるのかと思ったけどないんだ。ていうかまだこっちが全面的に信用してないかもしれないのに一切誤魔化さないってすごい人だな。傷の人が頭抱えてるけど……普段からこういう人なのかな…?
……つまり、さっきクラウスさんのことを遮ったのも、言わなくていいことを言おうとしたから…?何か……本当に保護が目的なの……?
「……ないん、ですか…?」
「だが、君のことを殺させはしない」
「……」
「どうか信じて欲しい。私は君に危害を加えるつもりはない」
わたしと目線を合わせる為にしゃがんできっぱりはっきりと、クラウスさんはそう言い切った。
強くて、真剣で、揺るがない。そんな真っ直ぐで綺麗な緑の目は、しっかりとわたしを見てる。
「…………分かりました」
その言葉で、少なくともクラウスさんに対する警戒心は消えた。
言葉に乗せられた意思に、わたしをしっかり見つめる目に、偽りがないことが分かったからだ。口先だけじゃない、この人は本当にわたしを守ろうとしてる。この人は嘘をついていない。そう思わせる力があった。
岩……というか、鋼みたいな人だ……
「だったら協力させてください。いや……協力してください、かな…?」
元凶というか騒動の終点はわたしにあるし、マーキングがある以上どっかに保護されて遠くから見てるってことは無理だ。わたし自身のんきに遠くから眺めてるなんてことはしたくない。そう言うとクラウスさんも頷いてくれた。
「……分かった。我々からも君に協力を申し出たい」
「じゃあ早速…できるだけ開けてて人のいない場所に行きたいんです。そこに魔獣をおびき寄せてわたしが囮になるんで、その間に解決策を考えましょう。広い場所ってどこか心当たりありませんか?」
「っ!それでは君が危険過ぎる!」
「大丈夫です。あれ、やったのわたしですから」
そう言ってわたしはさっき倒した魔獣を指さした。割と思いっ切り焼いたから流石に再生に手間取ってるみたいで、半分くらいくっついたけどまだもごもごしてる。
「だから戦力として数えてもらって問題ないです」
「しかし……」
「彼女の言ってることは本当です、ミスタークラウス」
わたしの言葉が信じられないっていうより、単純に心配してるっぽいクラウスさんに綺麗な声がかかって、すらっとした女の人が上から降ってきた。おお、すごい美人さんだ…!
「チェイン」
「詳細は不明でしたが、血法らしき技と炎を使って魔獣を裁断していましたよ。それと、大通りで氷漬けにされていた魔獣も恐らく彼女の仕業です」
「あ、はい。それやったのわたしです……って、あれ?さっきから追いかけてたのって、もしかしてお姉さんですか?」
「!気付いてたの?」
「はい。気配を察知するのは得意なんで」
さっきから感じてた気配の主みたいだったから聞いたら、びっくりした顔でチェインって呼ばれたお姉さんが聞き返してきて、わたしは正直に頷いた。探知能力は『血術』と同じぐらい得意な能力で、全力で集中すればかなり遠くまで覚えた個人の特定や動くものの察知ができる、ざっくり言うとかくれんぼで絶対負けない力だ。
「隠れていないとはいえ『不可視の人狼』を補足する感知能力か……ということは、魔獣の存在も感じ取っているのかい?」
「はい。最初に倒した1体があと何分かでこっちに来ます。残りの3体はまだちょっと遠くにいるけど、確実にこっちに近づいてます」
ていうか、今気付いたけど魔法陣がちょっと熱持ってる……何だろうこれ…?魔獣が近くに3体いるから過剰反応してる…?
「どうかしたかい?」
「いえ、大丈夫です。とにかくここじゃ6体いっぺんに相手するのは難しいです。どこか開けた場所ってありませんか?近くだとなおいいです。」
「この路地を抜けて道路を渡った先に運動公園がある。逃げ回るにしても相手取るにしてもうってつけの広さだ」
「ありがとうございます。それじゃ、」
「待つんだ、ミス・一之瀬」
教えてくれた傷の人(そういえば名前聞きそびれた)にお礼を言って駆け出そうとするわたしの肩を、クラウスさんが掴んで止めた。
「私も行こう」
「え?」
「言ったろう。協力を申し出たいと。私に君を護らせて欲しい」
「……え、あ……」
……騎士かこの人は。守らせて欲しいって言葉に他意が無いのは分かってるけど、ちょっとドキッとしたぞ…!
「……えっと、はい、お願いします」
「スティーブンは周辺の封鎖を。チェインは魔獣の動向を感知していてくれ。ミス・一之瀬を追う以外の動きがあったらすぐに報告を」
「「了解」」
クラウスさんの指示でスティーブンって呼ばれた傷の人とチェインさんはすぐに動き出した。そういえばさっきから気になってたんだけど、クラウスさん達って警察っぽくないけど何の組織の人なの?まあその疑問は後回しにして、今はやるべきことに集中しよう。
「では行こう。ミス・一之瀬」
「はい。それと、わたしのことは結理で構いません」