日常に至る経緯8
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「……すいません。ちょっと取り乱しました」
『ちなみに次回の発動で三段階目だ!次はどれだけの被害になるかなあ…?早く見つけ給えよー誰かさん?』
「~~~っ!やっぱ腹立つ…っ!じゃなくて…!とにかく人造人間の気配探ってみます!」
「あーそうしろ。報告は俺がやっから」
血を吐きそうな勢いで表情を歪めて唸る少女に返しながら、ザップは携帯を取り出した。その間に結理は周囲を見回し、堕落王の言う人造人間を探す。身体能力が通常の人類と変わらないのなら、まだそう遠くへは行っていないはずだ。能力が発現する直前に感じたさざ波のような空気は酷く微弱で、混乱の気配にかき消されそうだがすぐに捉える事が出来た。移動する気配は、まるで散歩でもしているかのようにゆったりとした足取りだ。
「……いました。500メートルくらい先にいて、向こうに向かってます」
「6番街からイーストパーク方面に向かってるらしいっす。はい。伝えときます」
報告を終えたザップは通話を切りながら結理を見下ろす。
「とりあえず俺らで人造人間を追跡する。すぐ連絡取れるように゛っ!」
「チェインさん!」
電話で受けた指示を伝えようとしたが、それを遮るようにザップの頭の上にチェインが現れた。ザップの首の辺りから嫌な音がしたが、降り立ったチェインは構わずに耳に詰めるタイプのイヤホンを結理に放る。
「通信機。見つけたら特徴伝えて」
「了解しました」
「い……ちいち人の頭に降りんじゃねえ!犬女!!」
「堕落王にご指名受けたみたいだね」
「みたいです。まあ、そうでなくても奴が起こした騒動なら全力で止めます」
ザップの抗議はやはり無視して頭の上に乗り続けるチェインに、結理は苦笑交じりに返してからすぐに表情を引き締めて、気配を捉えた方へ駆け出した。未だに収まらない混乱の気配に紛れてはいるが、意図的に隠そうとはしていない人造人間の気配は見失うこともない。野次馬の人込みを抜け、救助活動の横を通り過ぎ、めくれ上がった瓦礫を飛び越えると、相変わらずゆったりとしたペースで歩く目標はすぐに見つけられた。追いかける速度は落とさずに、結理は通信を繋げて告げる。
「結理です。人造人間を見つけました。短い黒髪の若い男で、黒のタートルネックとジーパン姿です」
『一番近くにいるのは君だ。そのまま処理してくれ。堕落王が送りこんできた相手だ、注意を怠るなよ?』
「了解です」
指示に返答すると同時に、両手の掌底同士を打ちつけるように合わせながら走る速度を上げた。
「『血術』…っ!?」
術を紡ぎながら一気に距離を詰めて無防備な背中を貫こうとした瞬間、相手は唐突にぐるりと振り返って真っ直ぐに結理を見た。強い視線と感じた気配に背筋に冷たいものが走り、咄嗟に足を止めて発動直前の術を無理矢理変える。
「『壁―ウォール―』!」
衝撃がぶつかったのは赤い障壁を展開させた直後だった。まるで巨大な拳のような力の塊が壁ごと少女を殴り飛ばし、小柄な体を紙のように吹っ飛ばす。生身で受けていたら体のどこかが潰れていただろう衝撃に飛ばされながら、結理は空中で体勢を立て直して目標を探す。
一見するとただの人間にしか見えない標的は、その場から動かずに結理を凝視していた。目が合うと同時に再び気配を感じ、魔力を練り上げる。
「『風術』!」
突風を起こして自身を飛ばした直後、今まで結理がいた場所を見えない力が通り過ぎた。目標を見失った力はビルの壁に直撃し、砂山を崩すように難なく抉る。その結果を見て顔を引きつらせつつ、結理は地面に着地した。それを見た人造人間が、他には目もくれず少女に向かって駆け出す。
(わたしを狙ってる…!?)