日常に至る経緯8
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ライブラへ加入してから何度目かの給料日を迎え、更に副業で始めた大道芸がその週の食費の足しになる程度には軌道に乗った頃、結理はようやく徒歩以外の移動手段を手に入れることが出来るようになっていた。
以前たまたま通りがかったバイクショップに陳列されていた赤いベスパは、少女を貯金へ駆り立てるのに十分な魅力を放っていた。そのバイクショップがあった場所は次の日には瓦礫の山に変貌していたが、それでもめげずに続けた貯金がたまった頃、別のショップで同色同タイプを見つけて一も二もなく購入したそれは、めでたく彼女の愛車となった。
「じゃあちょうどいい。ちょっとザップを引きずってきてくれるか?連絡したんだが奴の『友人』が出られないとほざいてくれてね。そこまで緊急じゃないけど、なるべく早く済ませたい案件なんだ」
そんな愛車の初任務は、何故か呼び出しに応じない先輩の送迎だった。嬉しそうにベスパの購入を報告していた結理の表情が、一気に呆れたように嫌そうに、ほんの少しだけ心配にしかめられる。
「出られないって……何かあったんですか?」
「いや、非常事態ってわけじゃないよ。たまにあるんだけど……あー……何て言ったらいいかな…?簡単に言うと夜遊びが過ぎて次の日に支障をきたしてるんだ。」
「つまり愛人さんと(自主規制)しすぎて(自主規制)が(自主規制)して足腰立たない的な感じですか?」
濁した言葉を少女が遠慮なく捕捉すると、スティーブンはぎょっとして顔を引きつらせた。その拍子に彼の手からペンが落ち、硬い音を立てて机を転がる。その顔を見た結理も、上司と知り合ってほぼ初めて見る大きな表情の変わり方に驚いて目を丸くした。
数秒程何とも言い難い沈黙が流れた後に、スティーブンがうつむくように軽く頭を抱えてため息をついた。
「……お嬢さん……そういう言葉は絶っっ対にクラウスの前で言うなよ…?君の口からそんなスラングが飛び出てる所を見たらあいつ卒倒するぞ」
「……気をつけます」
流石に遠慮しなさ過ぎたなと反省しながら、結理も神妙な面持ちで頷いた。